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忘れへんうちに 旅編では、中央アジア各地、イランの旅に続いて、フランス南西部のオクシタニー地方の旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2019/02/26

天空のコルド ゴシック期の世俗建築


天空のコルド(コルドシュルシエル)ではゴシック様式の聖堂内には入れなかったが、ゴシック期の世俗建築に面白い装飾があった。
『Patrimoine culturel Cordes-sur-Ciel』(以下『Cordes-sur-Ciel』)は、コルドの大きな魅力は、南西部では唯一の彫刻や絵画装飾のあるゴシック期の館や、たくさんの中世の館があることだ。経年劣化でこのような館は損なわれていたが、メリメ(Mérimée)やヴィオレ・ル・デュク(Viollet-le-Duc)が見出したのは、地上階には大きなアーケードはしばしば壁になり、ゴシック期の柱間の部分は17世紀に大きな矩形の開口部になった建物だった。グラン・ヴヌール館、グランゼキュイエ館、グラン・フォコニエ館は19世紀にネオ・ゴシックの修復を受けている。
アルビジョワ十字軍の時代、1222年に町は築かれた13世紀末、コルドでは個人の邸宅建造の最初の流行を迎えたという。

コルドの地図(『Cordes-sur-Ciel』より)のように東西にのびた丘の上の町で、最初に丘の頂上部に町が造られ、それを市壁で囲んだ。時代と共に町が拡張するたびに外側に市壁が築かれたため、一番内側の市壁の中に最も古いゴシック期の邸宅が残っている。その建物は、
グランゼキュイエ(ホテル、14世紀前半)  グラン・ヴヌール館(14世紀) ラドゥヴェズ館(13世紀) ゴジラン館(13世紀) フォンペイルズ館(13世紀) グラン・フォコニエ館(14世紀) プリュネ(14世紀初頭)とカリエ・ヴォワイエ館(13世紀) 
古い順に見ていくと、 

⑮-1カリエ・ボワイエ館(左、Maison Carrié-Boyer 13世紀後半)
同書は、コルドで最も古い建物の一つである。時代の流れで、特に19世紀に改修されている。二階だけが住居で、一階は4つの尖頭アーチのアーケードがある。二階の窓は完全に失われ、四角い大きな窓になっているという。
尖頭アーチの縁が残っている。
三階は4つの二連窓がよく残っている。その支柱の柱頭はシトー派の伝統である平たい葉文様とこぶし花のある柱頭で、後者はコルドの葉文様よりも古く、それによって13世紀後半の建物とされたという。
こぶし花(à Crochet)というのが、左窓の柱頭に見られる拳のような丸まったもののことらしい。
右から2つ目はタンパンに彫刻があしらわれているという。それがこのタンパン状の壁面から突き出たもので、どこかの窓の柱頭を取り付けたのだろう。

フォンペイルズ館(Maison Fonpeyrouse、13世紀末)
尖頭アーチのゴシック様式。二階の壁面が浮いているのでは・・・
同書は、中庭はガラス張りの大天井がかかるなど、改変で本来の姿を失ってしまった。一階には6つの刳りのない尖頭アーチが並ぶという。
石板が浮いた箇所は大丈夫?
ファサードの興味深い点は、2つのタイプの窓があり、細い尖頭アーチの窓の上部は三つ葉形で、宗教建築の工房が手がけたものという。
現地では気付かなかったが、ファサードを覆う石板はマーブリングしたような模様がある。
二階
二連窓は円形の刳形があり、カリエボワイエ館のものよりも尖っているという。
下から見上げただけでは、その尖り具合はわからないが、柱頭はトゥールーズのジャコバン修道院の扉口の柱頭と同じような二段の植物文様。これもまた13世紀末の流行だったのだろう。
上から見ると尖頭アーチはよく尖っている。
細長い窓の方は面取程度の刳りしかないシンプルさだが、微かに三つ葉形が見られる。
三階の柱頭は非常に簡素で、文様というほどのものはない。二連の太い尖頭アーチは全部で7つの石材でできていて、それぞれに曲面の溝を付け、内側は丸みのある縁になっていて、一階の尖頭アーチとは違って丁寧な仕上げ。
細い窓は蛇腹と呼ばれる細かい刳りが施されている。下の窓ガラスは無色のようだが、上側は緑や赤のガラスが嵌め込まれて、ステンドグラスのようだが、当時のものかな?

ラドゥヴェズ館(Maison Ladevèze、13世紀)
同書は、中央に小円柱のある尖頭アーチの二連窓は、支柱で2つ結合され、上下の階に左右対称に配置されている。一階のアーケードは4つ、尖頭アーチで同じ形であるという。
二階の二続きの二連窓は扉が閉まっている。
フォンペイルズ館の窓と同じような造りだが、アーチの重なる部分には浮彫装飾がある。
左より2つ目
左右対称な捻れ文様は両端が犬の首っぽい。まるでケルト。右も左右対称といえそうだが、これは植物を表しているのだろう。
柱頭は左が大きな花と一段のアカンサス、右は二段のアカンサス。
別の箇所の尖頭アーチには人頭とこれもケルトっぽい。
柱頭は左は一段の優美なアカンサス、右は五葉の蔓草だが、人頭が見えているのかそう感じるだけなのか。

ゴジラン館(Maison Gaugiran、13世紀)観光協会になっている。
同書は、上の階は二連窓が二つずつ連続し、一階は尖頭アーチという、カリエボワイエ館やフォンペイルズ館の造りを継承しているという。
建物の右半分。二、三階も尖頭の二連窓が2つずつ。二階の柱頭には人頭が見えている。こぶし花とされる柱頭もある。
同書は、古い柱頭は総て葉文様で、それは三階によく残っているので、二階の人面の柱頭が修復によって造られたという。
三階は13世紀の葉文様の柱頭。左は二段のアカンサス風で左は蔓草
左の葉文様は蓮葉に似ているが茎が分かれているから違うだろう。その上は修復材ではないかな
男女の人頭の柱頭もある。
刳形の幅に右掌が彫られているので巨大。
女性の人頭。左掌の大きさに比べて、なんと右腕の細くか弱いこと。
見ていて楽しめるが、この階の他の柱頭とは医石の色が違うので、後補の可能性あり。
葉文様とアカンサスの葉から飛び出した人頭の柱頭
いや、アカンサスの葉ではなく、巣から顔を出したような複数の鳥の上に人頭が2つ
ぶつぶつがあると思ったら葡萄の蔓だった。
1958年からの修復で少しの過去の栄光が蘇った。中庭を取り囲む木製の通路と、最古級のファサードが。古い写真はファサードの荒廃と、一つを除いた二階の柱頭がなくなっていることを示している。 
どれが唯一残っていた柱頭だろう?
これが修復で新たに創作された人頭の柱頭。アカンサスの葉の間から出現している。左のアカンサスの葉も大きく力強い。
左半分
その二階部分の窓
修復時につくられたという柱頭は葉文様も人頭も高浮彫だが、「こぶし花」と呼ばれてる先の盛り上がった植物文様がこんな風に変化していったのだろう。
人頭が目立つのでこの方向から撮影してしまったのでよく見えないのだが、人頭の柱頭の左にあまり凹凸のない柱頭がある。これが古いのだろう。
室内に残るフレスコ画
中庭
同書は、コルドのほとんどの建物は通りに面しており、三階建てで、背後に中庭がある。ゴジラン館の中庭は殆ど手を加ええられずに保存されてきた。中庭の2、3の面に屋根付きの木製通路が付けられ、階段から上がるとこができるという。
コルドの西側を空から見ると、左前に長方形の中庭があるのがゴジラン館、その左がラドゥヴェズ館

⑮-2プリュネ館(右、Maison Prunet 13世紀
同書は、大通りに面したファサードを崩さないようにした。砂岩の色の変化が顕著。コルドの建物すべてに見られる刳り蛇腹がある。それでも以前の建物とは全く異なる。ファサードが狭いため、二連窓は3つずつ重なる。二連窓には尖頭アーチの縁取りがあり、タンパンは、二階が三つ葉形、三階が円形の透彫になっている。彫刻のある箇所は重要である。縦長の柱頭は二段の葉文様は強く飛び出して、ラングドック(Langdoc)地方14世紀初頭の回廊のものと同じ形であるという。
三階の窓は二段の葉文様が顕著。タンパンにはオクルス形(円形)の透彫。
二階には三つ葉形の透彫、その下に人頭。

グランゼキュイエ(ホテル、Hôtel du Grand Écuyer、14世紀前半)
同書は、ファサードには5つのアーケードがあり、二階は三角形の明かり取りのある一対の二連窓は中はクローバー形になっており、三階の一対の二連窓2つは細い三つ葉形アーチで分離されている。
美しい植物、タチアオイや葡萄の葉が繊細に柱頭に彫られている。ファサードは石板の質、丸彫り、偽のガーグイユで見分けることができる。ライオン、ウサギをむさぼり食う猛禽、架空の動物、あるいは人間、リンゴを囓る女性、楽士などを超絶技巧で刳形や大窓の上の張り出し部分に取り付けている。装飾の自由奔放さは類い稀な様式で、キマイラや14世紀前半にラングドック地方全域やアヴィニョンでよく行われていた人像彫刻の大胆さと比較される。この屋敷の大工の親方は、コルドでは一般的な葉文様の柱頭に飽き足らず、踊りや音楽という世俗の楽しみに想を得て、このようなモティーフを造り上げたという。

グラン・ヴヌール館(Maison du Grand Veneur、14世紀)
同書は、二つの「優美な階」は窓のシンメトリーによって美観があり、4つの大きなアーケードの上部は、尖頭アーチの簡素な面取によって雰囲気が和らぐ。その上の四階は張り出した屋根の下で高さが減少している。
尖頭アーチの小さな窓はより古い様式である。一つの強く尖頭がのる2つの小さな尖頭アーチの上は円形の四つ葉があり、刳りがあり、タンパンが消滅したようだ。窓には小円柱と柱頭がある。
1943年から二階の修復が始まり、高浮彫の彫像は総て偽のガーグイユで、アーチボルトとフリーズの起拱点にあったという。
同書は、14世紀に広まった石彫や水彩画で飾られている。
四階は小さな窓が一対、間には小円柱と植物文様の柱頭、その脇に2人の人物像が飛び出している。これが偽のガーグイユだった。
三階(deuxième étage)のフリーズ(『Cordes-sur-Ciel』より)
同書は、動物のフリーズと一人の女性の頭部がやや単調な一連の柱頭群を破っている。偽のガーグイユはグロテスクだが、窓のスパンドレルに取り付けられた最も原初のものが残っている。グラン・ヴヌール(Grand-Veneur、狩猟長)は前世紀に居住した人が名付けた。これらの彫刻は狩猟の場面である。場面は、騎乗して槍を持った者のいる左から始まるというが、残念なことに、それを撮影しておらず、同書の図版にも写っていない。

左より一つ目の窓と外側の浮彫 
続いて犬に追いかけられるイノシシという。 
果樹と反対の向きに逃げるイノシシと追いかける犬の下にも植物文様。イノシシに緊迫感は感じられない。
二つ目の窓
徒歩の猟師が野ウサギに弓を構えているという。
こちらものんびりとした場面。
三つ目・四つ目の窓周辺
イノシシと野ウサギがフリーズの右端に逃げたので猟師は角笛を吹いているという。
角笛を吹いているのは鎌を持った農夫
追いかけていたはずのイノシシを勢い余って抜いてしまい、後方を振り返る犬の頭部が、前向きと振り返ったものが異時同図のように2つあるように見える。
四つ目の外側
野ウサギもイノシシも逃げてしまったという。
樹木に向かって走る動物の下には草や蔦が生えて、豊かな自然を表しているようだ。
二階の4つのアーケードを左から
一つ目の窓
外側の円柱には動物の柱頭
二つ目の窓周辺
右上に双頭の人間、尖頭アーチの頂部は人間か動物か不明のもの。尖頭アーチ起拱点に偽のガーグイユ一対。
柱頭はゴシック期らしい二段の植物文様と、中央柱には向かい合う肉食獣
三つ目の窓。柱頭には向かい合う肉食獣も登場するが、全体には平和な世界を表しているよう。
偽のガーグイユというだけあって、口が下に向いていない。左の柱頭にはグリーンマンも。
四つ目の窓
植物文様だけだと思っていたが、柱頭に人頭や動物も彫られている。

グラン・フォコニエ館(Maison Grand Fauconnier 14世紀)
同書は、貴重な2つの階は、ゴシック様式の窓の非対称な配置である。二階に2つの三連窓、三階に3つの二連窓があるという。
装飾
ここでもグラン・ヴヌール館と同じような偽のガーグイユっぽい
柱頭はアカンサスの葉を実際に知っている彫刻師がデザイン化して透彫にしたような力強さがある。
奥の方に丸い実の房があるので、葡萄の蔓だろうか、あまり丁寧でない彫りだ。
偽のガーグイユは下を通る人たちに声を掛けているよう。
他には葡萄のような実をついばむ一対の小鳥という柱頭や、
サルでもなさそうなガーグイユも。
室内のフレスコ画(14世紀)
人物が描かれているとだけしか言えない。
こんな風に、ゴシック期でも14世紀に入ると、柱頭や壁面に、今までになかった人頭、偽のガーグイユ、逃げられて終わった狩りの場面など楽しい装飾が、邸宅内ではなく、通りに面した壁面に施される。きっとこの時期は天空のコルドでは平和なひとときだったのだろう。

そして、大邸宅が軒を連ねたレイモン7世大通り(Grand Rue RaimondⅦ)を⑱パン門(Portaile Peint、描かれた扉口、13世紀)から出た正面にある⑲ゴルス館(Maison Gorsse、16世紀)はルネサンス様式の十字窓が並び、後の時代のものである。

関連項目
天空のコルド(コルドシュルシエル)1
天空のコルド2

参考文献
「Patrimoine culturel Cordes-sur-Ciel」 Michèle Pradalier-Schlumberger 2005年 Édition Jean-Paul Gisserot