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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/08/03

トゥールーズ、ジャコバン修道院


キャピトル広場(Place Capitole)の西方にジャコバン修道院(Couvent des Jacobins)がある(トゥールーズ観光局発行の地図より)。

かなり広い敷地に、ドミニコ会の修道院と回廊、そして聖堂が残っている。
Google Earthより

東側の後陣には妙な形の小祭室が付属している。
矩形の小祭室の出っ張りと東側のラカナル通り(Rue Lakanal)
南側の側壁にはガーグイユ(犬のような形をした樋口)が、各扶壁の上部に飛び出していて、扶壁の間は尖頭アーチ形の壁龕のようになっていて、その中央に細長いステンドグラスで装飾された窓がある。ロマネスク様式の教会では、窓は半円アーチ型の小さなもので、外観は壁面が目立ったが、ゴシック様式では大きなステンドグラスの窓が目立ち、壁面は下部だけのようになっていく。ジャコバン修道院の教会の窓がゴシック様式にしては小さな窓が目立つのは、この地方のゴシック様式の特徴なのかな?
教会の側壁には8つのステンドグラスがあった。
西正面から数えて3番目の窓の下に現在では入口になっている南扉口がある。五重の飾りアーチには植物の同じ文様の柱頭が並んでいる。


Couvent des Jacobinsは、1230-1350年に建立された。ジャコバン修道院は後世様々な改修を受けている。その建築はドミニコ会による清貧の規律と宣教の規定、すなわちドミニコ会に従っている。
厳粛で量感のある外観のために、教会のヴォールト天井の軽快感と内部の明るさには驚かされる。複雑なヴォールトと高い窓はゴシック様式による。しかし、多くの仏南西部の教会と同じく、扶壁で補強された高い壁のある単純なプランや、装飾は切石を描いたくらいで装飾がほとんどない。完璧にレンガで建造されている。八角形の鐘楼は「南方の」ゴシック様式の好例であるという。
西側。赤と緑で描かれたリブが細く長い円柱から各方向に出ている。
平面図(『中世美の様式下ロマネスク・ゴシック美術編』より)
現在の後陣外側に付属する小祭室とは数や形が違っている。
ゴシック建築では一般的に見られる飛び梁(flying buttress、arc-boutant)がないのがこの地方の特色かな。

内部は身廊と側廊を隔てる2つの柱列ではなく、中央に細い円柱が並んでいる。西壁の付け柱と後陣のものも含めると8本。
戦争の時に軍隊が使用したために、教会内部にあったものは取り払われたそうで、がらんとして、見通しが良い。
現在ではミサは北に安置された祭壇で行われている。
ステンドグラスの下に壁龕のない壁面には、白い組紐で同じ幾何学形が繰り返されている。これを何と呼んだらよいのだろう。
イスラームの幾何学文様にはなかったかな?最近までイランのイスラーム美術をまとめていたのに、もう忘れてしまった。「忘れへんうちに」より、「もうすぐ忘れますが」にした方が良いかも😅
その中央には赤い円花文があしらわれる。

側壁のステンドグラスと天井のリブヴォールト。4つの交差する天井の各頂部に青っぽい彩色があるので、実際よりも複雑にリブヴォールトのように見える。
ステンドグラスの一つ。聖書の物語などではなく、文様の繰り返しである。それがドミニコ会派の好みだったのかな。それとも後世の修復?
赤いレンガの壁面や天井に、オークル系の土を塗り、切石積みで造ったかのように見せている。
その拡大
リブは赤と緑に見えたが、何色だろう?ヴォールト天井の頂部に描かれているのは8点星。
要石には紋章のようなものが描かれている。
別の要石には渦巻くパルメット(ナツメヤシの葉から生まれた文様)?

ジャコバン修道院のリブヴォールトは椰子の木と形容されることが多いが、言い得て妙な表現である。
太いリブは次の柱か壁の付け柱につながり、細いリブは途中の丸い飾りに達している。
後陣の1本の円柱からはリブが22本出ているが、それをどのように写したら良いのか・・・
これでは暗すぎるし。
円柱には柱頭というほどではないが、アカンサスの葉が巡り、その上は八角形になっているみたい。その下側には帯文様も。かつては円柱も彩色されていたのだろう。
後陣のリブの様子と要石。切石を模して描かれているのに、リブに接している部分はアスパラガスのよう。

小祭室のヴォールティング。何故か下部を写していない。
奥のリブは要石に達してはいるが放射状には伸びていない。この頃が複雑な形の天井を支えているのではないのかな。
『図説ロマネスクの教会堂』は、ロマネスクの末期にはイギリスのダーラム大聖堂において交差リブヴォールトが用いられる。交差リブヴォールトとは、交差ヴォールトの稜線にリブ(オジーヴ)という骨組みを配したもので、いくつかの点で交差ヴォールトより優れ、ゴシック建築ではもっぱらこのヴォールトが使用されるようになるという。
リブが支えているとは記されていない。
『ロマネスク美術革命』は、ヴォールトはアーチの原理を用いた天井で、リブ・ヴォールトとは、交差ヴォールト(トンネル・ヴォールトを十字に交差させたもの)の稜線に沿って刳形を付けた天井のこと。刳形が肋骨(リブ)のように見えるため、そう呼ばれる。20世紀初頭の研究者たちは、リブ・ヴォールトには補強の機能があると考えていたのだが、しかし天蓋と壁の重みは交差ヴォールトによってすでに分散しており、リブは補強の役を果たしていないという。
リブは装飾だったのだ。

彩色のよく残った壁龕。ステンドグラスの窓の下は、内側は交差ヴォールトの壁龕になっていて、外側に出っ張っている。
両側には聖書の物語などが描かれていた痕跡が。
壁龕に窓が開いている箇所も。
壁面は切石に見えるように彩色されている。 
目の荒い石に似せて無数の気泡まで描いている。その上下には、立体感のある卍繋ぎの帯文様が描かれて、ガッラ・プラチディア廟のアーチのモザイクによる帯文様を彷彿とさせる。
こちらの壁龕には奥と左右の尖頭アーチ形壁面に聖書の物語などが描かれていたような跡も見受けられる。
複合柱にも見える2つの壁龕の間の壁の付け柱。
この様々な色の切石に似せたものは、大理石を模しているのだろうか?大理石に気泡はあったかな・・・
柱頭彫刻は植物文様ばかりで、ロマネスク美術のような聖書の物語や、動物が登場するものなどはない。

 トゥールーズ、サンセルナン聖堂 周歩廊の浮彫 
        →トゥールーズ、オーギュスタン美術館 ドラド修道院の最初の工房

関連項目
トゥールーズ キャピトル広場

参考サイト
Couvent des Jacobins

参考文献
「図説ロマネスクの教会堂」 辻本敬子・ダーリング益代 2003年 河出書房新社(ふくろうの本)
「ロマネスク美術革命」 金沢百枝 2015年 新潮社(新潮選書)