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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/03/09

イスラームの粒金細工


タブリーズのバザールを通っていると、粒金細工をしている人がいた。
粒金細工は伝統工芸としては伝わっていない技術だと思っていたが、少なくともタブリーズのバザールでは受け継がれているようだ。
粒金の作り方について、『THE GOLD OF MACEDON』は、この装飾技術は前7-6世紀にはかなり人気があった。金の粒が作品の表面に置かれ、ハンダ付けされることによって、装飾モティーフは生まれる。どのように金の粒がつくられたかは定かではないが、最も納得できるのが、熔けた金を水中に落とすというものだ。制作過程の2番目は、表面に金粒を鑞付けすることだ。1933年にH.A.P.リトルデイルが金と銅の合金が熔ける温度(890℃)がそれぞれの金属を別々に溶かす(金の溶融点は1063℃)よりも低いことを実験で確認した。これによって、彼は古代の職人が有機接着剤で金と銅の水酸化合物を混ぜたものを使ったと仮定した。表面を覆うこの粘着性の混合物が粒金を定位置に付けた。作品を熱すると、水酸化銅は金を周囲に纏って合金となり、接合部を鑞付けした。リトルデイルはこの技術を「粒状のしっかりした鑞付け」と呼んだという(専門知識もないので、ええ加減な訳です)。
何かのテレビ番組で、金箔屑のようなものと粒金を熱して、土台に鑞付けしているのを見たことがあるのだが、バザールを移動中にゆっくりと鑞付け場面を見ることはできなかった。

中国では、唐時代(8世紀)の貼金緑松石象嵌花唐草文鏡に細かな粒金が鏤められているが、これが知る限り粒金細工の最も時代の下がる作品だったが、『Schätze der Kalifen Islamische Kunst zur Fatimidenzeit』という、1999年にウイーン美術史美術館で開かれた特別展の図録には、それよりも後の時代に、イスラーム圏で粒金細工による装身具が制作されていたことを知った。
せっかくなので、『カリフの宝物 ファーティマ朝期のイスラーム芸術展図録』から数点紹介。

ベルト部分 10世紀 サマッラで制作? 粒金と金の撚線 アテネ、ベナキ美術館蔵 
金の撚線は、大きな半球状の突起を作っている。
やや大きめの金の粒が鑞付けされている。

三日月形耳飾り 11世紀 高3.2幅3.2㎝ シリア制作? 粒金・透かし細工 クウェート国立博物館蔵アル・サバーフコレクション
上のベルトでは撚線を使って簡略化した方法で作った半球を、本作品では小さな粒金を積み上げて作っている。
粒金の大きさも、鑞付けする文様によって変え、一番外の枠や透かし細工のS字形渦巻の隙間に付けられた大きな粒金は、ややへしゃがり気味である。

耳飾り 11世紀 高3.3幅2.5㎝ 粒金・撚線・透かし細工 エジプト制作 ベルリン博物館内イスラーム美術館蔵
上の耳飾りと比べると、撚線を使ったり、S字形渦巻を8の字形で済ませたりと、かなりの省略が認められる作品だが、耳に取り付ける金具が残っているのが参考になる。

指輪 11世紀 最大径2.3㎝ エジプト制作 粒金・透かし細工 ニューヨーク、メトロポリタン美術館蔵
指輪なら、輪っかの部分や枠に粒金で飾っても、四角い枠の中には貴石を嵌め込むのが一般的(例えば貴石象嵌金製指輪、4-6世紀)、というよりも貴石の方が重要なのだが、本作品では、それがなくて、矩形の枠内も透かし細工と粒金が占めている。一番内側はアラビア文字のよう。

4連結真珠飾り 11世紀 全体の高2長3.5㎝ エジプトまたはシリア制作 粒金・透かし細工 アテネ、ベナキ美術館蔵
上下に交差する蔓状のものに粒金が日本並んでいる。

ペンダントトップ 11世紀 高5㎝ 粒金・透かし細工 エジプトまたはシリアで制作 アテネ、ベナキ美術館蔵
8の字形は細く小さいが透かしではなく、線状のものが取り付けられている細かな粒金は文様を構成することなく、枠線として使われている。外側にはコイル状の透かし細工が等間隔で並べられていて、ここに紐か鎖を通していたのかなとも思われる。

輪 11-12世紀 径7.3㎝ 粒金・トルコ石 シリア制作 メトロポリタン美術館蔵
大きな半球は打ち出しの中空かも。他の粒金は大きさが揃っているが、頂部がやや扁平になっているものもある。トルコ石を象嵌した外側にはもっと小さい粒金を並べている。 

イスラーム圏では、粒金細工というものが連綿と続けられていたのだろうか。
『ペルシアの伝統技術』は、様々な職人の技術を詳細に記述しているが、粒金細工職人については書かれていない。

               →中国にも11-12世紀の粒金細工

関連項目
中国の古鏡展1 唐時代にみごとな粒金細工の鏡
古代マケドニア6 粒金細工・金線細工

参考文献
「Schätze der Kalifen Islamische Kunst zur Fatimidenzeit(カリフの宝物 ファーティマ朝のイスラーム芸術)展図録」 1999年 ウイーン美術史美術館
「THE GOLD OF MACEDON」 EVANGELIA KYPRAIOU 2010年