お知らせ

忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/08/12

獣足を遡るとエジプトとメソポタミアだった


ガンダーラ仏の台座には、獅子ではなく獣足の表されたものがあった。

弥勒菩薩坐像 2-3世紀 ガンダーラ出土 片岩 高さ78.0㎝ 松岡美術館蔵
『仏教の来た道展図録』は、獣足脚をもつ方形台座に結跏扶坐し、禅定印を結び、手指の間に水甁を挟み持つ菩薩像。ガンダーラでは、頭髪を束ねて結い、水甁を持つ菩薩像は弥勒と推定されるという。


の獣足はどこからきたものだろう。

クセルクセス1世謁見図 アケメネス朝ペルシア、前5世紀前半 石灰岩 テヘラン、イラン・バスタン博物館蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』(以下『西アジア』)は、帝王は刳形の多数ある玉座に、足台に両足を載せて座っている。帝王や国王が玉座に座るときには、かならず足台を置くのが古代西アジアの定法であるという。
椅子の脚は刳形の下部に獣足がついている。


国王のライオン狩り部分 前645-640年頃 ニネヴェ北宮殿浮彫 大英博物館蔵
『アッシリア大文明展図録』は、背の高いスタンドは香炉であり、布を敷いた祭壇の上には、犠牲獣の脚部の肉と顎の部分を入れた容器の他に、ネギの束のように見えるものと小さな容器が載せられているという。
祭壇は三脚の台で、前に2本の獣足が表され、のもう1本の脚はその間から向こうに見えている。
おそらくライオンの足を象ったものだろう。


アッシュールバニパルと王妃の饗宴図 前645年頃 ニネヴェ宮殿出土 大英博物館蔵
『アッシリア大文明展図録』は、アッシリアの浮き彫りやその他現存する出土品から判断する限り、少なくともアッシリアの宮廷においては、一連の標準的な家具の型が存在していたといえる。そのような型は、アッシリア本来の国土を越えて、広くアッシリアの影響力の及ぶ範囲にわたって見出すことができる。それを「アッシリア帝国様式」の家具と呼ぶこともできよう。背もたれのついた玉座にも、また、背もたれのない玉座にも、常に足載せ台が一緒に描かれている。足載せ台にはライオンの足の装飾が施されていることがあり、その部分が横木の上に載せられて、さらに松かさの形の脚部によって支えられている。ライオンの脚の装飾は、それ以外にはテーブルの脚部に使われている。テーブルは通常、3本の脚によって支えられているという。

この図では、テーブルの脚にライオンの足と思われる獣足が付き、更にその舌に松毬状の足がついている。
また背の高い香炉も必需品であったらしく、王の寝椅子の右下に置かれている。

三脚台の脚部 前9-8世紀 ニムルド北西宮殿出土 青銅 大英博物館蔵
三脚台の脚を形成していた3本の青銅製の牛の脚と蹄(上)、ライオンの脚と鉤爪(下)。

ライオンの足と牛の蹄はどのように使い分けていたのだろう。

三脚台の復元品 青銅および鉄製 ニムルド「青銅の間」出土 大英博物館蔵
『アッシリア大文明展図録』は、12個の青銅製の大甕とともに、それらを支えていた三脚台の断片も、レヤードによって発見された。三脚台は全部で少なくとも16個は存在していたらしく、それは本来、この部屋にあった大甕の数が12個以上であった可能性を示唆する。三脚台は全て青銅製の牛の蹄、ないしはライオンの鉤爪を備えた脚を持っていた。ニムルドから出土した三脚台に関していえば、そこに刻まれた銘文は、シリア起源説を支持するものと考えられるという。

青銅製の大甕を載せる三脚には牛の蹄がついているが、これはデルフィ考古博物館で展示されていた、大鍋を載せた三脚とよく似ている。どちらかというと、この方が武骨な造りだが、もちろん東方化様式時代に、西アジアで作られた三脚がギリシアに将来され、まねて制作されたものだ。

獣足の三脚台はシリアから将来されたものという。シリアの三脚台は探し出せなかったが、獣足のある椅子は見付けることができた。

王の供物をうけるエール神 古代シリア 
『シリア国立博物館』は、エール神はバアル神とともにカナアンで崇拝されたという。
ライオンの獣足とその下にも脚部のついた椅子にエール神が坐っている。

エジプトにもライオンの足の獣足があった。やはり足の下には台がある。

棺台上のミイラの図 第3中間期、第22王朝(前945-716年頃) 高さ15.6幅1.5㎝ カルトナージュ、彩色 大英博物館蔵
牛のような草食獣ではなく、ライオンのような肉食獣の脚が碗形の脚部の上にのっている。


イリとイネトの墓の偽扉からの石板 古王国時代、第4王朝(前2613-2494年頃) 石灰岩 高さ71幅63厚さ16㎝ 大英博物館蔵
『古代エジプト展図録』は、石板には、墓の主人イリとその妻イネトが、パンを載せた供物台をはさんで向かい合って座る場面が、浅浮彫りで描かれている。ふたりの座る椅子には背もたれがなく、古王国時代に特有の描写であるという。

どちらもライオンの獣足の椅子に坐っている。ライオンの足の下には、丸みのある円錐形の台がついている。

ウルのスタンダード ウル第1王朝時代(前2500年頃) イラク、ウル王墓出土 木、貝殻、赤色石灰岩、ラピスラズリ 大英博物館蔵
『西アジア』は、君主であろう。手にはゴブレットを持っているというが、椅子の獣足には言及していない。

椅子の4本の脚のうち、1本だけが草食獣の足となっている。その下には何もついていない。

獣足は、エジプトが先か、メソポタミアが先か、エジプトの墓が微妙な年代なので、どちらとも言えない。ライオンの獣足はエジプトで、牛の獣足はメソポタミアで始まったのかも。

      獅子座を遡る←        →ギリシアとヘレニズムの獣足

関連項目
仏像台座の獅子4 クシャーン朝には獅子座と獣足

※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 2000年 小学館
「大英博物館 アッシリア大文明展 芸術と帝国 図録」 1996年 朝日新聞社
「大英博物館 古代エジプト展図録」 1999年 朝日新聞社・NHK
「世界の博物館18 シリア国立博物館」 増田精一・杉村棟 1979年 講談社