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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/07/02

當麻曼荼羅2 西方浄土図細部



當麻曼荼羅は劣化が激しく、博物館内で長時間凝視していたが、あまり得るものはなかった。
どんなものが描かれているのか、『日本の美術272浄土図』は図中央(内陣)は、阿弥陀三尊のいる37尊段を中心とした、荘重な極楽浄土世界(玄義分)で、図上から順に、虚空、楼閣、華座、宝池、舞楽、樹下、父子相迎会の諸図を図示するという。
中央に阿弥陀三尊図が描かれていることくらいしかわからない。
図解するとこのような構成になっている(『日本の美術204飛鳥・奈良絵画』より)。
『日本の美術272浄土図』は、外縁部(外陣)には、この極楽浄土に往生せんがためのいわれと方法を、三辺に分けて説話画としてあらわすのが、この当麻曼荼羅の最大の特色である。
向かって左辺には、悪逆の子阿闍世太子の父王幽閉と、これを悲しんだ韋提希夫人の阿弥陀仏への帰依を、下から上へ11図に分けて収め、最上段には、本観経が釈尊の霊鷲山説法中に説かれたものであることを述べて、序分義とする。
ついで右辺には、韋提希の要望により開示された、極楽浄土を観想するための16の手段(十六観想)のうち、第1日観想より、水、地、樹、池、楼、華座、形像、真身、観音、勢至、普想、そして第十三雑相観に至る13図を、上から下へ順番に配置する(定善義)。したがってこの十三観は、心静めて観想する方法といわれており、また、韋提希のために開示されたものだから、各図にはそれぞれ合掌礼拝の韋提希と侍女を配置する。
ついで下辺には十六観中の後三観を開いて九品来迎図とし、向かって宇より左へ9図を並べる。すなわち、上品上品より下品下生に至る桟根の深浅にもかかわらず、等しく弥陀の来迎と印摂にあずかることができることを説明する(教善義)という。
下側の九品来迎図は残っていない。
当麻曼荼羅文亀本 室町時代、文亀3年(1503)
同展図録は、綴織當麻曼荼羅(根本曼荼羅)の図様を写したほぼ同大の絵画である。建保5年(1217)に根本曼荼羅を写した當麻曼荼羅(建保本)を完成させた。延徳3年(1491)、興福寺一乗院でこの建保本の調査、採寸が行われていること(『大乗院寺社雑事記』)などから、文亀本は建保本をもとに製作された可能性が高い。
図像面で注目されるのは、鎌倉時代初めには根本曼荼羅にほとんど確認できなくなっていた(『建久御巡礼記』)、下辺の九品来迎の図像と織付縁起を完全に描き記している点である。九品の来迎は総て坐像である点や、上品の来迎阿弥陀を説法印に表す点、當麻寺の當麻寺當麻曼荼羅としては伝統的な図像であったのだろう。銘文は京都で筆入れの際三条西実隆が入念に校正しており(『実隆公記』)、既に失われていた部分までを当時の理解によって完全に復原させようとしていた様子が看て取れるという。 
そこで、綴織當麻曼荼羅を文亀本を参考にしながら見ていくと、

図の上方は、虚空と楼閣で、紺青地に白色帯を設け、正面左右に各回廊や橋で結んだ重層、および単層、円堂の宝楼閣、各六宇を対称して描く。堂内や屋蓋、橋上に無数の仏菩薩を配置し、虚空会には飛翔の天人や楽器、宝鳥に交じって、雲上飛来の化仏、仏菩薩、騎獅文殊、騎象普賢らの讃嘆飛来の相も認められる。阿弥陀三尊の頭頂から各五彩の光変が対称して昇天し、光変は光明を生み、各光台上に顕現する化仏多数を描くとみられるという。
目を凝らしていると、飛雲のような斜めの線が浮かんでくる程度で、もちろん、会場で上方を見上げても、ここまではわからなかった。
文亀本の同様の箇所をみると、飛雲に乗った仏菩薩や鳥に交じって長いリボンを棚引かせた琵琶や箜篌などの楽器が確認できる。
飛雲の間に浮かんでいる点は、敦煌莫高窟の盛唐期(712-781年)の観無量寿経変に似ている。 
華座段の前方に宝池段をあらわす。金色の蓮池で、極楽の池底には砂金を敷きつめたらしき風が想像される。池中には開敷や未開敷蓮華に化生する新生菩薩がおり、傍記に上品中生以下の八品が金書されている。まわりに竜頭鷁首の船や池中に飛び込み、岸に泳ぎつく化生童子が描かれるという。
短冊形に「上品中生」「上品下生」などと書かれていて、童子が、その「品」や「生」に応じた化生の姿となっていることくらいは分かった。
文亀本では、宝池中央に上品下生の化生菩薩が阿弥陀仏の方に向いて開敷(かいふ)蓮華に坐している。
その左側には上品中生の化生菩薩が、右側には中品上生の化生菩薩が、それぞれこちらを向いて開敷蓮華に坐している。
左の上品中生の化生菩薩の外側には中品中生、更に左には中品下生の化生菩薩が中央を向いて開敷蓮華に坐している。
右の中品上生の化生菩薩の外側には下品上生の化生菩薩が開敷蓮華に坐しており、その前には下品中生の童子のような化生菩薩が蓮弁に囲まれて坐している。これは未開敷(みかいふ)蓮華ということになる。
下品下生の化生菩薩は、左側の中品下生の化生菩薩の前に、蓮華の蕾から赤子のような化生菩薩が見えている。こちらも未開敷蓮華となっている。
つづく

関連項目
當麻曼荼羅6 宝台に截金?
當麻曼荼羅5 十三観
當麻曼荼羅4 序分義
當麻曼荼羅3 九品来迎図
綴織當麻曼荼羅の主尊の顔
ボストン美術館展7 法華堂根本曼荼羅図3 霊鷲山説法図か浄土図か
観無量寿経変と九品来迎図
当麻曼荼羅原本は綴織
當麻寺展1 綴織當麻曼荼羅の主尊の顔
当麻寺で中将姫往生練供養会式
※参考文献
「當麻寺 極楽浄土へのあこがれ展図録」 奈良国立博物館 2013年 奈良国立博物館・読売新聞社
「日本の美術272 浄土図」 河原由雄 1989年 至文堂
「日本の美術204 飛鳥・奈良絵画」 百橋明穂編 1983年 至文堂