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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/11/17

第61回正倉院展で連珠文を探す

近頃連珠文あるいは連珠円文に興味を持っているので、正倉院展では連珠円文の錦が見られるのではと期待していたが、錦は紫檀木画槽琵琶の袋残欠だけで、その錦には連珠文がなかった。しかし、連珠文は意外な作品の中にあった。

平螺鈿背円鏡(へいらでんはいのえんきょう、螺鈿飾りの鏡) 唐 径39.3 正倉院南倉
同展図録は、白銅製の鏡で、鏡背に螺鈿や琥珀などが青・緑・白色のトルコ石の砕石粒とともに黒色物質(材料未詳)で塗りこめられて文様が表される。
鏡背文様は連珠文帯で内区と外区に分けられる。内区には、上面に花文様が表された鈕を中心とし、その周囲に6つの唐花と蕾文様が交互に配されている。一方、外区は連珠文帯に沿って覗き花文がめぐらされ、さらにその外側に大ぶりの唐花文と花葉文が展開する。
鏡胎の白銅は、成分分析によると標準的な唐鏡の化学組成とほぼ一致しており、本品は中国で製作されて日本に舶載されたと考えられている
という。
外区と内区を分ける区画帯には、螺鈿による2本の同心円の中に穴あき連珠文がめぐるという構成になっている。連珠円文の内外を同心円が巡るというのも、穴あき連珠文もササン朝ペルシアの壁の装飾浮彫で見られる文様帯だ。穴あき連珠文についてはこちら
そして内区の唐花文様と鈕を分ける区画帯の外側には螺鈿の連珠文がめぐっている。 
ボタンを思わせる唐花文も蕾・小開花、のぞき・大開花・花葉と多彩に表されている。その間に、西方からもたらされた2種類の連珠円文があるが、主文を囲むというよりも、ただの区画帯となってしまったようだ。 金銀絵棊子合子(きんぎんえのきしのごうす、碁石入れ) 径9.7 正倉院中倉
サクラ材の轆轤挽き仕上げによる印籠蓋造の円形合子。同心円状の美しい木目を生かすために素木地のままとするのは、桑木木画棊局の盤面と一具の意匠とすることを意図しているのだろう。蓋・身の側面には、唐花文を廻らして縁に連珠文があしらわれているという。
碁石入れなので、一対で、金と銀を逆にしてそれぞれの文様を描いている。
五弁花が控えめにちりばめられているが、サクラの花ではないようだ。しかし、全体に日本風な雰囲気が強いのは平螺鈿背円鏡と比べて余白が多いからかも。
3列の連珠が側面にめぐっているが、この小さな文様の中にあっても全く目立たず、最初は連珠文があるのがわからなかった。それは素木地のためかも知れないが、連珠文に境界線がないからだろうか。 今回の連珠文は中国製の絢爛豪華な鏡の裏と、日本製の地味な碁石入れに見つけた。
後者は連珠文そのもの描き方のために、前者は主になる唐花の表現が派手なために、連珠文帯があまり目立たないという共通点があった。

また、第60回正倉院展に展観された金銀絵漆皮箱の側面には、不揃いな連珠文が2列に並んでいる。草花やヤツガシラなどの巧みな絵とは全く違う。

※参考文献
「第61回正倉院展図録」(奈良国立博物館監修 2009年 財団法人仏教美術協会)