木目の美しい碁盤だが、このような一枚板が採れるのは木の根に近い部分だろうかなどと思って見ていた。
桑木木画棊局(くわのきもくがのききょく、寄木細工の碁盤) 正倉院中倉蔵
同展図録は、盤面は、蘇芳染したヒノキの一枚板の上面に、縦横19条の象牙の界線を施し、木口(こぐち)切りしたクワの薄板を寄木風に貼り詰め、美しい木目を意匠に生かしているという。
なんと、大きな一枚板に溝を彫って線状に切った象牙を埋め込んでいるのではなく、木口切りにしたものを貼り付けてこのような木目を作っていたのだった。これは唐風の好みなのだろうか。

一番よく見えたのは紺牙撥鏤の植物や昆虫だった。トンボでもない虫が羽と足を伸ばして飛んでいるのがあちこちにある。カゲロウらしい。そしてツバメらしき鳥も飛んでいるのだが、虫よりも小さいのは遠い空に飛んでいるのを表しているのだろうか。
そして正倉院展で初めて見たのではないかと思うのがススキだった。唐文化一辺倒と思っていた奈良時代に、秋草を表すという日本的な感覚があったのだなあ。
その横にはクワイが描かれていて、花も咲いている。クワイにこんな花が咲くのかと調べてみると、これはオモダカで、しかも花の咲くのは夏でした。特に季節は関係ないみたい。

野草やカゲロウなどを描くというのは中国風ではなく日本風に思うのだが、このように木目をわざわざ描くという感覚もまた和風の好みではないのか。

正月初子の日にその年の豊作を祈念して宮中で行われる、農耕の事始めの儀式に使用された鋤という。よく木目の目立つ木が使われているのだなあと思ったら、木製部分は全面を淡紅色に塗り、蘇芳色で不定形の花文を中心においた木理文を描くという。
華やかな年輪と見たが、その中心は花文だった。

※参考文献
「第61回正倉院展図録」(奈良国立博物館監修 2009年 財団法人仏教美術協会)