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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/11/13

正倉院宝物には和風好みも

 
木目の美しい碁盤だが、このような一枚板が採れるのは木の根に近い部分だろうかなどと思って見ていた。

桑木木画棊局(くわのきもくがのききょく、寄木細工の碁盤) 正倉院中倉蔵
同展図録は、盤面は、蘇芳染したヒノキの一枚板の上面に、縦横19条の象牙の界線を施し、木口(こぐち)切りしたクワの薄板を寄木風に貼り詰め、美しい木目を意匠に生かしているという。
なんと、大きな一枚板に溝を彫って線状に切った象牙を埋め込んでいるのではなく、木口切りにしたものを貼り付けてこのような木目を作っていたのだった。これは唐風の好みなのだろうか。 側面の白いところは螺鈿らしい。毛彫で草花を表してあるというが、遂に私の目には見えなかった。橙色の部分にも金泥で草花が描かれているのはどうにか見えた。えっ、紅牙撥鏤か。撥鏤は、象牙の表面を赤・紺・緑などの染料で染め上げ、その上に撥ね彫りで文様を表す技法で、さらに彫りを加えた部分に彩色を点じることもあるという。角度を変えてちらちら見ると光って見えたので、金泥で描いたのだと思った。
一番よく見えたのは紺牙撥鏤の植物や昆虫だった。トンボでもない虫が羽と足を伸ばして飛んでいるのがあちこちにある。カゲロウらしい。そしてツバメらしき鳥も飛んでいるのだが、虫よりも小さいのは遠い空に飛んでいるのを表しているのだろうか。
そして正倉院展で初めて見たのではないかと思うのがススキだった。唐文化一辺倒と思っていた奈良時代に、秋草を表すという日本的な感覚があったのだなあ。
その横にはクワイが描かれていて、花も咲いている。クワイにこんな花が咲くのかと調べてみると、これはオモダカで、しかも花の咲くのは夏でした。特に季節は関係ないみたい。 床脚も木目がよく見えると思ったら、金泥で木理文を描いているという。
野草やカゲロウなどを描くというのは中国風ではなく日本風に思うのだが、このように木目をわざわざ描くという感覚もまた和風の好みではないのか。 子日手辛鋤(ねのひのてからすき、儀式用の鋤) 正倉院南倉蔵
正月初子の日にその年の豊作を祈念して宮中で行われる、農耕の事始めの儀式に使用された鋤という。よく木目の目立つ木が使われているのだなあと思ったら、木製部分は全面を淡紅色に塗り、蘇芳色で不定形の花文を中心においた木理文を描くという。
華やかな年輪と見たが、その中心は花文だった。 不勉強なことに、唐で木理文や山野草を文様として描くということが好まれていたかどうか知らないのだが、唐の文化にあこがれながらも、もともとあった日本人的な感覚が、このように正倉院宝物のところどころに現れているような気がする。

※参考文献
「第61回正倉院展図録」(奈良国立博物館監修 2009年 財団法人仏教美術協会)