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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/11/03

連珠円文の錦はソグドか

 
『古代イラン世界2』で横張和子氏(古代オリエント博物館)は、連珠円文意匠はサーサーン朝錦としては例外とさえ見えるのである。サーサーン朝の連珠文はしかるべき意味(フヴァルナー)をもつものであったが、しかし装飾の典型とはしなかったようである。それを典型的にしたのはむしろソグド錦であったのではないかと考えているという。
連珠猪頭文錦に代表される連珠円文の錦は、ササン朝ペルシアが起源ではなくソグドらしい。

連珠紋錦 トルファン出土 時代不明 トルファン博物館蔵
『文明の道3海と陸のシルクロード』は、中国の錦を西方に運ぶだけでなく、蕃錦と呼ばれた西方で織り直された大胆な紋様の緯錦(よこにしき)を中国に運んでいたのもソグド人であったろう。最近では、トルファンで出土するササン式の連珠紋の錦の一部が、じつはソグド製であることが指摘されているという。
小さなくちばしの先には何かをくわえているが、首飾りにしては小さすぎる。
首の背後の三角を二つ連ねたものは、ササン朝ペルシアで見られる王の首にたなびくリボンからきたものだろうか。それとも鶏のトサカが意匠化されたものだろうか。また足の後ろ側に小さな三角形が二つ見えるが、これは蹴爪だろうか。トサカに蹴爪なら鶏あるいはキジ科の鳥を表したものかな。
また上下左右に小さな連珠円文を巡らせたものがある。中は他の大きな円文と同じ大きさの円文だが、ターケボスターン出土の四弁花文がこのように変化したのだろうか。
この作品の製作年代が不明なのは残念。 サマルカンドに赴任した各国の使節図 650年以降 アフラシアブ出土 ウズベキスタン、サマルカンド歴史博物館蔵
『世界美術大全集東洋編15中央アジア』は、ここに記された長いソグド語銘から判断すると、スルハン川流域のチャガニヤン国とタシュケント周辺のチャチュ国の使節が描かれている。 
さまざまな絹の織物の文様が正確に再現されてる。中央アジアの定住民の使節たちの衣服は、有翼天馬、孔雀、鴨、猪、セーンムルウ(怪鳥)などを織り出したササン朝の絹織物で作られている。
という。
左の人物は大きな連珠円文が縦横に並んだ服を着ている。連珠円文の上下左右に小連珠円があり、主文は猪頭文がわかるが、その上はわからない。4つの円文の間には菱形状の空間ができるが、そこには大きく四弁花文が表されているようだ。中央の人物の服は大きな文様が散らされ、縁に連珠円文が帯状に縫いつけられている。
蛇足だが、中央と、右の連珠円文ではなく立涌文が上下左右で交わるような枠に囲まれたシームルグ文の服を着た人物が腰の前に提げているのは、慶州鶏林路14号墳出土の装飾宝剣によく似ている。この形の宝剣については、へ 絹の子ども服 双鴨連珠円文錦製 ソグディアナ 8世紀 クリーヴランド美術館蔵
『西からの絹の道』は、ササン朝起源の文様で装飾されているという。
形は少し異なるが、こちらの鳥も首飾りとは思えない何かをくわえていて、首には三角形のリボンがまっすぐにたなびいている。蹴爪はなく、特徴的な台に乗っている。 連珠円文の錦がソグド人が作ったということだが、7世紀前半以前のソグド錦を見つけることはできなかった。

西域文明的發現の『シルクロードのソグド錦』は、ソグド人はシルク貿易の仲買業に甘んじることなく、6世紀末には独自の絹紡績業を作り上げた。ソグド職人は中国、ササン朝ペルシアとビザンチンのシルクの図柄と西方の緯錦紡績技術を広範に取り入れ、後発の優勢を発揮し、内外にその名が知られるザンダニージー錦(Zandaniji Silk)を生み出したという。
6世紀末と特定できる錦は残念ながら図版が示されていないが、ササン朝滅亡(651年)後にペルシアの地で作られるようになった錦よりも半世紀以上も早いことになる。
また、『世界美術大全集東洋編16西アジア』で650年以後とされたサマルカンド郊外、アフラシアブ遺跡のソグド壁画(2つ目の図)については、林梅村氏は、そこに描かれた漢族の服を着た人物が、高昌国の漢族であるとして、唐の貞観14年(640)に唐太宗は侯君集に高昌平定を命じていることから、サマルカンドのソグド壁画の年代は640年を下ることはないという。
7世紀前半とすると、ササン朝ペルシアのターケ・ボスターン大洞内奧浮彫とほぼ同じ頃、ソグドではすでに連珠円文があったことになる。
6世紀と特定できるソグド錦を見つけたいものだ。

関連項目

ササン朝の首のリボンはゾロアスター教
連珠円文は7世紀に流行した

※参考サイト
西域文明的發現のシルクロードのソグド錦 林梅村 (北京大学考古文博学院教授)

※参考文献
「文明の道3 海と陸のシルクロード」 2003年 日本放送協会
「世界美術大全集東洋編15 中央アジア」 2000年 小学館
「ビジュアル考古学9 西からの絹の道」 編集主幹吉村作治 1999年 Newton Press
「季刊文化遺産13 古代イラン世界2」 2002年 財団法人島根県並河萬里写真財団