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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/08/14

組紐文の起源はシリア

 
粒金細工の起源をもとめてメソポタミアあたりをふらふらしていた頃、金帯(前8-6世紀)に粒金細工の三角形を2列並べ、その三角形の上下に組紐文があった。また、ブレスレット(カッシート、前13世紀)に粒金細工の菱形の上下に組紐文があっり、もっと時代の下がった文様と思っていた組紐文が、メソポタミア起源で、割合古いものであることを知った。
しかし、円筒印章を調べていると、この文様はシリアが起源であると、それぞれの本に記されていた。しかも、もっと古い時代からある文様だった。

石製容器断片 前2300年 シリア、マリ出土 高19.6㎝ シリア国立ダマスカス博物館蔵
『シリア国立博物館』は、絡縄帯の浮彫りの石製容器の表面をいくつかに仕切り、木の芽を喰む山羊、羊の群、つぎに、果樹でも移植しているのであろうか、膝をついて作業している人物など田園の光景を浮彫りにしているという。
組紐文は「絡縄帯」という表現もあるのか。こちらは二重ではなく、四重になっている。円筒印章と印影 シリア 前2千年紀前半 出土地不明 緑色碧玉 2.0X1.0㎝ ルーヴル美術館蔵
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、シリアの印章に特徴的な組紐文様に仕切られた画面にさまざまなエジプト風のモティーフが散らばる。組紐文様の隣に並ぶ鳥もエジプト文字の1字、ホルスの鷹を表すように見えるが、この場合は画面のデザインの一部として使われている。
前18-17世紀ごろのシリアの円筒印章のなかに、高さ2㎝内外の特異な作品群があり、20数点が知られているが、その一つである。この時代の円筒印章の大半が赤鉄鉱製であるのに対し、すべて緑色碧玉(ジャスパー)製であり、意匠にも共通点が多いところから、同一工房の可能性が高い。大半の画面には有角動物や鳥などの行列、組紐文様、エジプト的なモティーフが現れる。同時代のバビロニアの図像や楔形文字の銘文をもつ印章6点も含まれる。印章の出土地がキプロス島、クレタ島、カルタゴなどにも及んでいることから、問題の工房はエジプトに近い港町、たとえばビュブロスなどにあったのではないかと推定する学者もいる
という。
組紐文は三重になっているが、毛糸をまとめたように両端が輪になっている。組紐文には画面を仕切るという役割があったらしい。 円筒印章の複製印影 前18世紀 赤鉄鉱 2.3X1.0㎝ オクスフォード、アシュモレアン博物館蔵
『オリエントの印章』は、T・E・ローレンスがアレッポで購入した円筒印章。中心となる場面は2本の縄編み模様のあいだに配置され、玉座に腰掛ける水神の前に女神の手を引いて連れて行くウスム。付随的な部分は3つ編み模様の帯によって上下2段に仕切られ、上にはグリフィンに襲われる野生のヤギ、下には様式的に描かれた木の両脇に横たわる2匹の野生のヤギが描かれているという。
アラビアのロレンスは考古学者でもあったのだった。
組紐文が画面の上下に配されているが、神が登場する場面であることを示しているのだろうか。その右側では、三つ編みの組紐文が別々の場面を仕切っている。 円筒印章の複製印影 前1400-1350年頃 トルコ、テル・アチャナ出土 ファイアンス 2.7X1.25㎝ 大英博蔵
『オリエントの印章』は、うずくまるレイヨウが2匹、垂直に描かれ、その上と下に異なる渦巻き模様が走っているという。
魚の開きのように見えた文様も渦巻きの一種だった。あれ、ドミニク・コロン氏は組紐文ではなく渦巻き文と見なしているようだ。渦巻きに囲まれた動物は、神への捧げ物であることを示しているのだろうか。 高杯 ギーラーン出土 金製 前1千年紀前半 高8.9㎝ 中近東文化センター蔵
『古代イラン秘宝展』は、主なモチーフとなっている組み紐文は古代オリエントで頻繁に使用された文様であり、マルリーク出土品にも類例が見られる。ただ、組み紐文のみが主要なモチーフとされているものは存在しない。また脚部を有する小金杯は比較的珍しいという。
組紐文は前1千年紀前半にもなると器の主文となったのだろうか。それとも例外的に誰かの好みで作られたものだろうか。
脚部の縁飾りが三角形を並べた鋸歯文になっている。一見粒金細工に見えるところもあるが、じっくり見ると小さな穴が並んでいる箇所の方が多い。組紐文は端飾りとして生まれ、やがて場面の仕切りとしての意味が出てきたようだ。
ギーラーン出土の小さな金杯も、大きな端飾りなのかも知れない。

※参考文献
「世界の文様2 オリエントの文様」 (1992年 小学館)
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 (2000年 小学館)
「大英博物館双書④古代を解き明かす オリエントの印章」(ドミニク・コロン著 學藝書林)
「古代イラン秘宝展-山岳に華開いた金属器文化-」(2002年 岡山市オリエント美術館)