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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2025/06/10

カラアフメトパシャジャーミイ Kara Ahmet Paşa Camii の残念なステンドグラス


カラアフメトパシャジャーミイはパシャの没後、1559年に完成した、ミマールスィナンが建てた支柱が6本のモスクである。それについてはこちら
このモスクで奇妙なステンドグラスを見た。

『Architect Sinan His Life, Works and Patrons』は、ステンドグラスの石膏の枠に、六点星と六角形を組み合わせた幾何学文様となっているという。
ステンドグラスで六点星と六角形の組み合わせになっているものといえば、キブラ壁のミフラーブ上部ではなく、その両側の半ドーム下にある。

『THE ARCHITECT SINAN HIS LIFE WORKS, AND PATRONS』は、小半ドームのムカルナスの下には    一般的な章句のカリグラフィーが表された二重の石膏の枠の中には、六点星と六角形の幾何学文様のステンドグラスがあるという。
石膏か漆喰か、専門知識がないのでどちらで呼べば良いのか分からない。そう言えばコアガラスという、吹きガラスの技法ができる以前のガラス制作法で作品を創り続けておられる田上惠美子氏に「当方は耐火石膏を使うのですが、10分程度で硬化してしまうので、作業タイミングが難しいです。たぶん今の普通の石膏も硬化は早いと思います。漆喰だったら硬化に1、2日はかかると思うので、しやすいと思うのですがね」と教えて頂いたことを思い出したので、漆喰としておこう。
耐火石膏を使って制作されている場面は田上惠美子氏のFacebookやInstagramで見ることができます。

また、『聖なる青 イスラームのタイル』は、メソポタミアで彩釉レンガによる壁面装飾が、古代帝国の消滅とともに彩釉レンガを使う習慣も途絶えた。1000年以上の間隔をおいて、イスラーム時代に再び彩釉レンガ・タイルが使用されるようになったという
その間の建物の装飾は漆喰だったと研究者に聞いたことがあるので、漆喰で良いだろう。

イスラームらしい六角形と六点星のステンドグラス。

右側
ところが、六角形のところは分厚いガラスで、六点星や外枠には細かなしきりとガラスの粒による植物文様になっている。


そもそもイスラームのステンドグラスはどのように作ったのだろう。西洋の教会では鉛の枠に嵌め込んでキリスト伝や聖人の像を作り上げていたので、鉛の枠でないことで、イスラームの漆喰の枠にガラス片を嵌め込んだものをステンドグラスと呼んで良いのかどうかも分からなかったのだが、他に適当な言葉も思いつかなかったので、ステンドグラスと勝手に呼んでいたのだった。

最近になって、KALAWUN VR PROJECT というサイトの秋岡安季氏が2021年 03月31日付けで発表されたイスラームのステンドグラスを発見した。
とても長い文章なので少しだけ紹介するが、是非一読頂きたい。ここではストゥッコは化粧漆喰とされている。
イスラームのステンドグラスは、ガラス片の形に合わせて穴が開けられた厚さ3㎝ほどの化粧漆喰板の上に、穴よりもやや大きくカットされたガラス片を配置。その上から今度は厚さ1㎝弱の化粧漆喰板で挟んでガラスを固定。この時、しっかりと密着させるために漆喰も利用したと考えられている。
化粧漆喰が完全に乾燥した後、ガラスと窓枠のコントラストを高めて光の印象を強くするために、暗色の塗料が化粧漆喰板に塗られることもある。
この製法は14世紀ごろまで使用され続けていたが、マムルーク朝(1250-1517)期には、2枚の化粧漆喰板でガラスを挟むのではなく、一枚の化粧漆喰板の上にガラスを配置し、漆喰を薄くつけることで固定する方法が生み出された。この新たな技術によって素早く仕上げることが可能になり、ガラスの取り外しも簡単であったことから、マムルーク朝のスルタンによる数々の建設事業に対し、作業効率を上げるために生み出されたのではないかと推測されている。
また、化粧漆喰板に開けられた穴に傾斜をつけることによって、地上から窓を見上げたときにその図案がより見えやすいように工夫されたことも指摘されているという。

暗色の塗料については、エディルネカプのミフリマースルタンジャーミイのステンドグラスは、修復の際に枠の色をグレーにしてしまったのかと思っていた。

そしてユシキュダルのミフリマースルタンジャーミイのステンドグラスの枠は白い。

それを斜めから見ると、漆喰の板に色ガラスを嵌め込んで文様を構成しているところ以外の地は、東洋の金工でいうと魚々子のような細かな円文で埋め尽くされている。
化粧漆喰の穴の奥にはガラスの色が見えるような箇所もあれば、漆喰板しか見えないところもある。ひょっとすると補修で簡便な方法を採ったのではなどと妄想している。


閑話休題。ステンドグラスを拡大してみると、不思議なものが見えてきた。六角形の枠内には淡い色彩の花がある。しかも一つ一つが異なっている。それに左枠の細長い枠には途中まで花のガラスが嵌め込まれている。

この花は失われたガラスの後補で、細かい作業が困難なので、苦肉の策なのかも。

六角形の中のガラスは中心部が分厚いロンデルだろう。ロンデルとは、吹きガラスで膨らませて先を切り、ぐるぐる回して遠心力で平らにしたもので、中心が分厚くなっているのは吹き竿の跡昔の窓ガラスに使われた。古いものではないが、ヴェネツィアで見かけたロンデル窓はこちら

六角形に近い大きさのロンデルを吹いて、その上に溶かした色ガラスを流し入れて、冷めてから六角形の枠や細長い枠のガラスのなくなっているところに嵌め込んだ。そのために枠とガラスに隙間ができてしまった。ガラスと化粧漆喰とを漆喰で接着した時に、こんな花柄を漆喰で描いたとか。

このステンドグラスの下半でも、光線のために見えにくいが、いろんな色の溶かしたガラスをぽたぽた落として、花柄をつくっているようだ。
六点星や細長い枠には古い植物文様のステンドグラスが残っていると考えるのですが、ステンドグラスやガラスを制作されている方に笑われるかも。


ほかにも不思議なステンドグラスがある。
キブラ壁のミフラーブ上部のステンドグラスは縦線のようなもので仕切られているみたい。

外枠は先ほどのステンドグラスと同じだが、主文様のパネルは枠が全く残っておらず、ステンドグラスとは思えないものが嵌め込まれている。板ガラスに幾何学模様のあるシートを貼っただけのよう。

上部
尖頭アーチのところにカリグラフィーが表されている。外周には植物文様を細かな色ガラスで表す枠だけが残っている。

下側には小さな色ガラスの残っていたりするが、枠が壊れたままの部分もある。最下段中央には先ほどの花時代のステンドグラスが。


入口上部のステンドグラスにも。


修復にゆっくりと時間がかけられなかったということも考えられる。ミマールスィナンが見たら驚くだろう。


アティクヴァリデジャーミイのタイル 


関連記事
ヴェネツィアで見かけた窓ガラスに並ぶ丸いものはロンデル

参考サイト
田上惠美子氏の

参考文献
「Architect Sinan His Life, Works and Patrons」 Prof. Dr. Selçuk Mülayim著 2022年 AKŞIT KÜLTÜR TURIZM SANAT AJANS TIC. LTD. ŞTI.
「THE ARCHITECT AND HIS WORKS SİNAN」 REHA GÜNAY著 1998年 YEM Publication 
「聖なる青 イスラームのタイル」 INAX BOOKLET 1992年 INAX出版