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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/02/06

イラン国立博物館 クロライト製品


クロライトは青銅器時代の前3千年紀頃にその製品が流通していた。
『ペルシャ文明展図録』は、『シュメル王名表』の記事によれば、原エラムの首都スーサは、キシュの王によって軍事侵略されたという。
ここでスーサが廃墟と化したとするのは早計である。イラン側が支配権を失い、メソポタミアの影響力が強まったかも知れないが、イラン高原全域をカバーするあのネットワークは温存されたと見るべきであろう。事実東方の物資のメソポタミアへの供給は依然続いていた。
この頃、イラン高原の東南部で新商品が開発され、ネットに載せられて、イランからメソポタミア、シリア、あるいはインダス河流域にまで達した。それはケルマーン産の緑色の石、クロライト(緑泥岩)を加工した容器で、主たる工房はケルマーンのテペ・ヤヒヤにあった。テペ・ヤヒヤはかつての原エラム都市の一つで、全層を通じてクロライト製品が出土するが、ⅣB2層(前2800-前2600年頃)で増加し、続くⅣB1層(前2600-前2500年頃)でピークを迎える。そしてⅣA層(前2400-1800年頃)には減少する。テペ・ヤヒヤ自身はそれほど大きな遺跡ではなく、クロライト製品の生産は、たぶんその上位都市の指示によって行われていた。
その都市とは、同じケルマーンにあって、テペ・ヤヒヤⅣB層とほぼ同時期に急速に巨大都市化したシャハダードではないかと思われる。シャハダードには、この時代のイラン高原の物流ネットを支配する中心的都市がおかれ、自前の新製品として、テペ・ヤヒヤのクロライト製容器を広い領域に送り出したのである。かつての原エラムの首都スーサがメソポタミアの勢力に奪われた後、ネットの中心はシャハダードに移転し、新商品を含む東方の物資をメソポタミアに供給し続けた。この新たなネットワークは「トランス・エラム文明」と呼ばれるという。

クロライト製のものとしては、浮彫のある容器に最初に出会い、その後婦人坐像や分銅なども知って興味を持っていたので、その容器をまとめて見ることができたのは幸いだった。

砂時計(鼓)形容器 石象嵌 動物たちの戦い
上段では絡み合う蛇の片方を鷲掴みする猛禽、下段も同じモティーフで、文様を上下そろえずにずらしている。
婦人坐像の頭部や手足には石灰岩が使われているので、このような容器にも石灰岩を象嵌しているのかも。蛇も猛禽も象嵌された石はフットボール形。
展開図

円筒形容器 石象嵌
蛇にはフットボール形の石、獣には円形の石が象嵌されている。
展開図
ここでも蛇が獣に捕まれた場面が展開する。

容器 石象嵌 半人
この作品でも蛇が登場する。有角の人物または神が両腕にそれぞれ蛇を抱えている。
蛇は農耕に有害なネズミを退治するため、崇められていたはずなのに、どの作品でも捕まれているのだった。
やはり蛇にはフットボール形の石、人物または神の衣装には円形の石がはめ込まれている。
展開図

壺 石象嵌
このような形に中を刳り貫くのは大変だったのでは、と観察すると、胴部で切れている。頸部は溝なのか切れているのか不明。こんな風に接いでも液体は漏れるだろう。飾り壺だったのだろう。
上段は三角に切った石を嵌め込んで入れ子の三角形文様をつくり、下段は花弁形の石を嵌め込んで花文にしている。

容器 前3千年紀 ケルマン州シャハダード出土
象嵌のない容器。
うねった水流のような文様が器体を埋め尽くす。数本の束になった筋がくるりと回転して上下になり、立体感を出す。


容器 前3千年紀 
一見たてがみがあるのでライオンかと思ったが、筋のある大きな角も表されているので、山羊か羊の種類だろう。向かい合う山羊の表情は穏やかで、その間にはチューリップのような葉の植物か水路の先の四角い水場が表されている。
展開図では、チューリップのような葉ではなく動物が鎖で杭に繋がれているのだった。

容器 前3千年紀 シャハダード出土
やはりたてがみと大きな角、そして長いあごひげがある。ヤクかも。背景には高い山々。
展開図には想像もしていなかった人物が登場していた。 
説明は動物の支配者という。山を支える支配者の持つ川の流れ?は、コブウシの間で卍形に交わっている。

ハンドバッグ形 クロライト製
説明は神殿のような建物を装飾モティーフにしているという。奥には同じ浮彫で小型のものも置かれていて、セットとして使用されたのだろう。
この形のものは分銅で、タブリーズのアゼルバイジャン博物館でも数点展示されていた。それについてはこちら

               →イラン国立博物館 印章

関連項目
イラン国立博物館1 青銅器から鉄器時代
イラン国立博物館 チョガー・ミシュという遺跡
イラン国立博物館 彩釉レンガの変遷
イラン国立博物館 サーサーン朝のストゥッコ装飾
タブリーズ アゼルバイジャン博物館
マルグシュ遺跡の出土物5 女神像

参考サイト
世界史の歴史地図へのお誘いというサイトの特集 トランス・エラム文明

参考文献
「ペルシャ文明展 煌めく7000年の至宝 展図録」 2006年 朝日新聞社・東映