ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2017/11/24
アルメニア博物館のラスター彩はタフテ・スレイマーンの後
イスファハーンのザーヤンデ川の南方、ジョルファ地区はアルメニア人の居住区になっていて、ヴァーンク教会と同じ敷地内にあるアルメニア博物館を見学した。そこで見つけたのがこのタイル。ラスター彩やラージュヴァルディーナが鏤められている。
アルメニア人はサファヴィー朝のアッバース1世(在位1588-1629年)がイスファハーンに呼び寄せたので、このタイル装飾の方がずっと古い。
説明には12世紀とあるが、ラージュヴァルディーナはイルハーン朝の第2代アバカが造立した、現在ではタフテ・スレイマーンと呼ばれている宮殿を飾られたのが最初なので、13世紀後半以降になる。
それにしてもこの形。小型のミフラーブでもない。何だったのだろう。
用いられているタイルはともかく、左右対称に仕上げられた時のままに残っている。白い銘文帯の外側のタイルも左右対称に同じ種類が配置されている。
枠
どのように呼ばれるものかわからないが、ラスター彩風の蔓草文に空色釉をかけたものや、藍色に茶色っぽいものが描かれているものなど。
そして、植物文の空色ラージュヴァルディーナが続く。
頂部は、空色タイルで蔓草文様をつくり、チューリップのような花と文様化された葉がついている。その隙間にいろんな文様のタイル片を埋め込んでいる。その内側の白地のペルシア文字の銘文帯は短いものを繋いでいて、文章になっているのかどうか不明。
銘文帯で囲まれた三角形のところには、龍らしきものが盛り上げて表されている。
銘文帯の内側の区画には紺色の組紐文が越えたり潜ったりしながら幾何学文様をつくり、その中に大きさも色も違うタイルを埋めている。五角形の区画に5点星を配している。
右角のものは、銘文帯と水色の線の内側に鳥が描かれているが、それが一つのタイル片でできていて、8点星タイルの破片を再利用したことがわかる。
ラスター彩には酸化銀を使った黄色っぽいものと、酸化銅を用いた赤っぽいものがある。
紺色の組紐文が織り出す10点星の中に、8点星タイルが置かれている。このタイルを中心に置いて作りあげられたのだが、その8点星タイルに描かれているのがウサギとは。
それとも、このウサギ文のタイルが古いものとか、王から下賜されたとかいう大切なものだったのだろうか。
壊れたタイルの再利用なのか、新品のタイルをそれぞれの形に切ったのか。
左の五角形の区画を見ると、5点星の周囲の三角形などは、1、2種類のタイルを切ったもののよう。その内の水色が入ったものは、変形四角形の隣、要するに中央のウサギ文の8点星の左下のところを埋めた部品によく似ており、同じタイルから切り取ったのではないかなどと探る楽しみがこの作品にはある。
田上惠美子氏の大小、色とりどりの作品群も、こんな風に嵌め込んでいったらすごいだろうなあ。
左下隅もインスクリプション帯と三角部分が一体。じっくり見ると、四隅は全部同じようにつくられていた。その内側の酸化銅の赤っぽいラスター彩タイルは、元は8点星形だったような。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』はラスター彩について、イランでは12世紀後半から生産され、14世紀半ばまで続けられたということなので、この集合タイルの材料となったタイルのうちラスター彩は、遅くとも14世紀半ばのものであるが、これらが、いつの時代にこのような作品にされたかはわからない。
タフテ・スレイマーンのタイル← →オルジェィトゥ廟のタイル装飾
関連項目
アゼルバイジャン博物館 ラスター彩
ヴァーンク教会
※参考文献
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市立オリエント美術館