ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2016/03/11
ニサ遺跡、円形の広間のドーム
ニサ遺跡には⑨円形の広間がある。
『OLD NISA IS THE TREASURY OF THE PARTHIAN EMPIRE』は、直径17mで四角形の廊下を持つ建物。それはゾロアスター教時代に典型的な建物。丸い部屋は二重構造で、1階は滑らかな壁、2階は円柱が並び、円柱の間には壁龕があって、そこには神々の加彩された塑像があった。
屋根はドームで覆われていた。おそらく、祭司は王家の者だったという。
円形の神殿は外観は四角い建物だった。上の方はどうなっていたのだろう。
ところがニサでは紀元前にドームの建物があった。ササン朝では四角い平面に円形のドームを載せるスキンチなのに、アルサケス朝のニサの円形の広間は、外側が正方形ではあるが、平面が円形でその上にドームを架構している。
それならば移行部もスキンチなどの工夫も要らず、日干しレンガを持ち送っていくとドームを架けることはできただろう。
しかしながら、想像復元図ではドーム部はローマのパンテオン(後118-128年)のような刳り形のある格間が並んでいる。パンテオンはローマン・コンクリートで造られているので、このような刳りのあるドーム架構も可能かと思うが、日干しレンガで造れたのかな?
半球のドームではなく、円錐形だったのでは?
というのも、パンテオンは円形平面に正半球ドームを架構しているが、ローマ時代とはいえ、それ以前は円形から円錐ドームを架けていたのだ。
それについてはこちら
そして、円錐ドームというのは、ヘレニズム以前のいわゆるギリシア文明よりもはるか以前、ミケーネ時代にすでに造られている。
アトレウスの宝庫 直径14.6m床-天井高13.4m通路(ドローモス)長36m 入口:高5.4m床面幅2.7m 前13世紀後半
ドローモスと呼ばれる羨道が長いため、低い丘のような外観だが、
中に入るとドーム頂部は非常に高く、1枚で内部全体を1枚の写真に収めるのは不可能である。
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、玄室は、礫岩の切石を33段のリング状に迫持式に積み上げたもので、内壁上方の至るところにおそらく青銅の円花飾り付きの鋲が留めてあった。
建造の年代は前1250年頃とする説もあるが、前1350年頃と考えられ、「クリュ タイムネストラの墓」はこれより若干後とされる。ミュケナイの支配者の絶大な権力をもって初めてこのような大規模の墳墓が相次いで鋳造されえたといえる が、以後その財力は宮殿の新築や城壁の延長に向けられたものと思われるという。
ちょっと強引な合成の、その33段とドーム天井(ドームはピンボケ気味)。
『図説ギリシア』の断面図では、石材を持ち送りながら積み重ねていき、床面から徐々に円錐形となっている。
『古代オリエント事典』は、サーサーン朝のペルシア的造形の発端の一つとして、ニサのドーム室をあげている。
調べた限りでは、ドームの最初はササン朝ペルシアの開祖アルダシール1世(在位226-241年)が建てた城だった。下の写真はフィルザバードの宮殿。
『季刊文化遺産13 古代イラン世界2』は、まだアルサケス朝の諸侯だったとき、近傍の山頂に城を構えていた。ドームやヴォールトといったサーサーン朝建築を特徴づける造形要素をはじめて確かめることができるのが、カラエ・ドフタルと呼ばれるその城なのであるという。
フィルザバード宮殿(3世紀前半)はドームの残る貴重な遺構で、同じくアルダシール1世が建てている。このドームは正方形の壁面に円形のドームを架構していて、ササン朝ではスキンチを用いている。
円形の壁面から、日干レンガを持ち送って積んでいくと、徐々に狭まって円錐ドームはできるので、ドームに関してはササン朝よりも以前のパルティアが先になるだろうが、正方形の四隅にスキンチをつくりだすという技術は、また別のもののように思う。
ササン朝のドームについてはこちら
→ニサ遺跡、正方形の広間はラテルネンデッケ
関連項目
ササン朝は正方形にスキンチでドームを架構する
円錐ドームならミケーネにも
円形平面から円錐ドームを架ける
ラテルネンデッケの最古はニサではなくトラキア?
ニサ2 円形の広間と赤い広間
ニサ遺跡の出土物はヘレニズム風
参考文献
「OLD NISA IS THE TREASURY OF THE PARTHIAN EMPIRE」 2007年
「週刊シルクロード紀行14 メルヴ・アシガバード」 2006年 朝日新聞社
「季刊文化遺産13 古代イラン世界2」 2002年 財団法人島根県並河萬里写真財団
「アフガニスタン遺跡と秘宝文明の十字路の五千年」 樋口隆康 2003年 NHK出版
「古代オリエント事典」 日本古代オリエント学会編 2004年 岩波書店
「図説ギリシア エーゲ海文明の歴史を訪ねて」 周藤芳幸 1997年 河出書房新社