ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2016/02/19
トゥラベク・ハニム廟のタイル
クニャ・ウルゲンチのグルガンジ遺跡にはタイル装飾の美しいトゥラベク・ハニム廟がある。
『旅行人ノート⑥』は、廟はグルガンジ最大の見どころで、保存状態が最もよい。1370年にスーフィー朝のハーンの一族の墓所として建てられた。
トラベク・ハニムはクトゥルグ・ティムールの正妻であるという。
ドームは途中から③スルタン・テケシュ廟(1172-1200年)の円錐ドームのように、青色方形タイルを向きを互い違いにして斜めに貼り付けて、網代編みのよう。
下部の2段のムカルナスは、その剥がれ具合からモザイク・タイルらしい。
絵葉書のお陰でタイル片の剥がれた箇所の凹みまでわかる。
花を中央において2本の蔓がそれを囲むという意匠だが、上と下では少し異なっているが、すべて左右対称になっている。
円筒部分は亀甲繋文を長方形の焼成レンガとコバルトブルーの三角で作り、その中を白色・トルコブルー・コバルトブルーのタイル片で埋めている。
アップすると剥がれた箇所からモザイク片の形がわかる。
主室外壁壁面に残るムカルナス。これも絵葉書より。
青いドーム下のものとは花も異なる。連珠文で囲まれたものもある。
最下段の文様帯では、曲線的な組紐文が表されている。
ファサードにも少し残っている。
左壁外側の文様帯に残っているのは絵付けタイルだった。
これが創建当時のものだとすると、シャーヒ・ズィンダ廟群のウスト・アリ・ネセフィ廟(1360-70年)で出現したハフト・ランギーの技法をいち早く採り入れた例となる。
イーワーン内のムカルナスもモザイク・タイルが嵌め込まれている。
水滴形の白い輪郭の中には大きな花ではなく、白色でアラビア文字が表され、下から伸びた2本の蔓が交差する。小さな花はその外側に幾つかある。
その下の文様帯は六角形と6点星の組み合わせ。
ムカルナス下部の中央には円盤形のものがあったようだが、どんな文様があったのだろう。
ムカルナスに時折見られる凹のモザイク・タイル。白と赤が目立つ。
主室のドームにはモザイク・タイルがよく残っている。
ドーム中央には、12点星から出た手描きのようなゆらぎのある白い線が、やがてトルコブルーの12のメダイヨンを造る。その外には連珠文の入った組紐が、二十四角形から様々な幾何学文を作っている。
おそらく赤いタイル片も用いられて鮮やかな色彩のはずだが、暗いのと高いのとで、これだけ写すのが精一杯。
イスラムアート紀行さんのトラベク・ハニム廟、至高のモザイクタイルには、もっと綺麗な写真が載っています。
光が邪魔しているが、何とか中心のアップが撮れた。赤・黄・白・トルコブルー・コバルトブルーの5色。曲線に直線、細い線に中に文様の入った太い組紐状のものなど、非常に細かい細工である。
10点星はそれぞれ異なる文様で、五角形は幾つかのパターンがある。
六角形の変形のようなロセッタという形の白地には柔らかな色彩で花文が嵌め込まれている。
ピンクや草色のタイルもありそう。
移行部のモザイク・タイルは蔓草の曲線が美しい。ここでもきっちりと左右対称。
スキンチのムカルナスも色鮮やかだったのだろう。
尖頭アーチ型壁面のモザイク・タイルは、面積が広いので、蔓草の表現も手が込んでいる。
白い蔓とトルコブルーの蔓がそれぞれ渦巻きながら、中央のメダイヨンを囲んでいる。
絵葉書で、メダイヨンの中にも蔓草が渦巻いているのがわかった。
主室と後室を隔てる狭い壁の文様帯
ここでは黄色い色が目立つ。
トゥラベク・ハニム廟のタイルでは、赤い色が目立つ。この頃のシャーヒ・ズィンダ廟群(サマルカンド)では、ウスト・アリ・ネセフィ廟のハフト・ランギー技法のタイルに赤や黄色といった鮮やかな色彩が見られる。
そのハフト・ランギーをファサードの文様帯に採用していたのなら、赤や黄のタイルを焼いて文様に刻み、モザイク・タイル片にすることもできただろう。
また、『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、シャーヒ・ズィンダーにイランで熟成した植物文のモザイクタイルが出現するのはシーリーン・ビカー・アガー廟が最初であるという。
シリング・ベク・アガ廟には内部ドームにモザイク・タイルは用いられていないが、ファサードの帯状の装飾文様はもう少し複雑で、赤と緑、柿色が見られる。確かに熟成した植物文だ。
『イスラーム建築の世界史』は、シーリーン・ビカ・アガー廟(1385/6年)のファサードを飾るモザイク・タイルでイランからの影響が窺える。細い流麗な線を表現した作品という。
トゥラベク・ハニム廟はシリング・ベク・アガ廟よりも前の1370年に建てられている。それ以前のイランのタイル装飾はどんなものだったのだろう。
→14世紀、トゥラベク・ハニム廟以前のモザイク・タイル
関連項目
クニャ・ウルゲンチ5 トゥラベク・ハニム廟
シャーヒ・ズィンダ廟群8 ウスト・アリ・ネセフィ廟
※参考サイト
イスラムアート紀行さんのトラベク・ハニム廟、至高のモザイクタイル
※参考文献
「旅行人ノート⑥ シルクロード 中央アジアの国々」 1999年 旅行人
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市立オリエント美術館
「イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史」 深見奈緒子 2003年 東京堂出版
「イスラーム建築の世界史 岩波セミナーブックスS11」 深見奈緒子 2013年 岩波書店