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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/09/23

蓮華座11 蓮華座は西方世界との接触から



『シルクロード華麗なる植物文様の世界』は、神像の台座に蓮華を用いることは仏教以前のインドにあり、泥水の中から清らかに立つ蓮は神聖で荘厳な象徴として考えられていたのだろう。仏教では「釈迦がマヤ夫人の胎内に入る夜に地中からあらゆる霊薬が密となった一本の蓮華が咲き、生誕した釈迦が歩むと大地が割れて大きな蓮華が出現し、この蓮華の中に立って第一声を放った」など聖なる花として尊ばれ、最大のシンボルとなったという。

仏像以外に蓮華座に乗るものを探してみると、アショーカ王柱があった。

『世界美術大全集東洋編13インド1』は、アショーカ王の建立した石柱(アショーカ王柱)は、いずれも継目のまったくない12-16mの一本石の円柱上に、インド古来の伝承に基づく四聖獣(象、牡牛、馬、獅子)のきわめて写実的な丸彫り彫刻と、反花形の16枚の蓮弁を刻出した鐘形の柱頭を載せ、全体に鏡のような強度の研磨を施すのをひとつの様式としているという。
こんなに高い円柱の上に獅子が乗っているのはわかるが、獅子の下にあるのが蓮華座、あるいは蓮華だと、当時の人はわかったのだろうか。

同書は、こうした石柱は、20世紀初頭に発表されたV.A.スミスの見解以来、マウリア朝と西方世界との接触によって造営が始められたとする説が強く支持された。たしかに蓮弁装飾のある鐘形柱頭と動物彫刻を柱上に載せるという形式や、冠盤側面な施されたパルメットやロゼットなどの装飾文様から推察して、ペルシアやギリシアなど西方世界にその起源が求められる。建築物として構築されたペルシア式の石柱とは異なるものの、スフィンクス像を戴いたデルフォイの記念柱のように、独立した石柱を建立する先蹤は古代ギリシアに求められよう。しかし、柱身に法勅やアショーカ王の事蹟を記念する銘文が刻まれ、全体が継目のない一本石から彫り出された円柱である点、あるいは柱頭に載せられた動物彫刻や冠盤意匠など随所にインド的な独創性が認められる作例が少なくないという。

ナクソス人のスフィンクス アルカイック期(前570-560年頃) ギリシア、デルフィ
『ギリシア美術紀行』は、ナクソス人が奉納したスフィンクス。44の縦溝をもつイオニア式円柱(11.5m)の上に載っていたという。
一石柱ではなく、ドラムを6本繋いで円柱にしている。そして鏡のように磨き上げるのではなく、溝が彫られている。
デルフィ考古博物館に展示されているスフィンクス。イオニア式柱頭は後補。

アショーカ王柱の四聖獣は、

牡牛柱頭 マウリア時代(前3世紀頃) 砂岩 高さ205㎝ ニューデリー大統領官邸
同書は、冠盤側面の装飾帯には、2種類のパルメット文様が交互にそれぞれ八つずつ配されている。元来パルメット文様は非インド起源の植物文様で、ここでは葉先が扇形に広がる直線的な形と、葉先が蕨手状に折れ曲がり左右対称に広がる形のパルメット文様が使用され、中間に下方の節から伸びた花文が加えられている。非インド起源の冠盤装飾帯を有することなどから、早期に建立されたグループを形成していたと考えることができるという。
パルメットとロータスの組み合わせ文様、アンテミオン風のものが確かに冠盤側面装飾に表されている。ギリシアのアンテミオンが伝播し、インド風に表されたのだろう。 

獅子柱頭 マウリア時代(前3世紀中葉) 砂岩 高さ210㎝ インド、マディヤ・プラデーシュ州サーンチー
同書は、柱頭上に背中合わせの4頭の獅子を刻出し、冠盤側面装飾にハンサ(鵞鳥)とパルメットを組み合わせ、よりインド的な要素が強く現れてくるという。 
確かに向かい合う鵞鳥の後方にはパルメットのような文様がある。

獅子・象柱頭断片 シュンガ時代(前2世紀末) 砂岩 高さ119㎝ インド、マディヤ・プラデーシュ州ベースナガル
同書は、象と獅子をそれぞれ2頭ずつ背中合わせに組み合わせにした珍しい意匠の動物彫刻。前2世紀後半頃になると篤信の証として諸神の乗物や聖樹を冠した石柱を建立する習慣が広く行われていたことが確認され、アショーカ王柱の起源を『ヴェーダ』にも述べられている屠柱ユーパや、宇宙軸として万物を主宰するスタンバなどインド古来の聖柱に由来するとして、アショーカ王柱建立の目的が仏教にのみ求められるものではないとする見解がJ.アーウィンらによって示されている。アショーカ王即位26年(前243)に発布された6章の法勅を刻んだ獅子石柱が制作された頃から、インド化の傾向が急速に進んだことをうかがわせる。すなわち牡牛柱頭(ラーンプルヴァー)のように、直立した姿で表された動物彫刻や柱頭冠盤側面の装飾帯のパルメットに代わり、跪坐する獅子像と冠盤側面にはインド古来から聖鳥とされてきたハンサ(鵞鳥)が装飾モティーフとして用いられているという。
時代が下がるとパルメット文は消えていくのか。
細長く垂れた蓮弁の上に、葉のような蓮弁が並んでいる。

現在のところ、インドで見付けた蓮華座の最も古いものは、アショーカ王柱の柱頭だった。

     蓮華座10 蓮華はインダス文明期から?

関連項目
蓮華座1 飛鳥時代
蓮華座2 法隆寺献納金銅仏
蓮華座3 伝橘夫人念持仏とその厨子
蓮華座4 韓半島三国時代
蓮華座5 龍と蓮華
蓮華座6 中国篇
蓮華座7 中国石窟篇
蓮華座8 古式金銅仏篇
蓮華座9 クシャーン朝

※参考文献
「世界美術大全集東洋編13 インド1」 2000年 小学館
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 1987年 時事通信社