お知らせ

忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/08/17

龍が「龍」になるまで



四神は前漢時代にできたとしても、龍はかなり古くから登場している。

龍形玉飾 新石器時代、薛家岡文化(前3500年頃) 安徽省含山県凌家灘出土 長径4.4㎝厚0.2㎝ 合肥市、安徽省文物考古研究所蔵
『世界美術大全集東洋編1先史・殷・周』は、龍の体軀はC字形に丸くなり、口と尾がつながっている。やや稚拙な線で目、耳、角、背中の鱗文を刻んでいる。尾に近いところに小さな孔を両面からあけている。しかし、ここから吊り下げると龍の頭が逆さになって、いささか不自然である。この龍形玉飾は、石家河文化に継承され、殷代につながっているという。
手足はなくても角はあった。ただし、一角か二角かはっきりわからない。
龍虎尊 銅 殷、二里岡期(前16-前14世紀) 安徽省阜南県朱砦出土 高50.5㎝口径45.0㎝ 北京市中国歴史博物館(現中国国家博物館)蔵
肩部の稜角には乗り出すような形で、龍の頭が三方につく。龍は瓶形の高く突出した角をもち、口を大きく開いて、上顎が前に張り出している。胴体は肩部に左側にうねって尾を丸め、上には菱形の鱗文様がある。尾の後ろには小型の舌出し虁龍文があるという。
龍はこの時代になっても足はないが、角ははっきりと二角になっている。
龍形玉飾 山西省曲沃県晋侯墓地出土 殷後期-西周後期(前14-前8世紀) 長7.8㎝厚0.7㎝ 太原市山西省考古研究所蔵
龍頭から爪形の短い胴が伸びた觿(けい、くじり。帯の結び目を解く道具)で、滑らかな太い刻線と細い刻線で浮彫り風に龍頭を表現しているところに時代の特徴が現れている。龍は上顎の先が丸くなり、下顎が外に巻いて垂下用の孔を作っている。目に長い上瞼を表現するのも特徴的である。後頭部に雲気文を刻んだ角と胴が伸び、鋭い爪を持つ足を刻んでいるという。
龍に前足ができた。
銅象嵌龍文扁壺 銅 春秋中~後期(前6世紀) 河南省輝県市琉璃閣出土 通高52.8㎝口径12.0X13.5㎝ 鄭州市河南博物院蔵
頸部の下には頭を振り返らせた龍または獣が3列、銅象嵌で表されるという。
現在までに見てきた中では、4本の足のある龍の最も古い例である。4本といっても、前足と後ろ足が2本ずつ重なっている。
いずれも背後を振り返った姿で表されている。
龍文三足壺 銅 春秋後期(前6-前5世紀) 河南省固始県侯古堆出土 通高19.0㎝口径7.5㎝ 鄭州市河南博物院蔵
器体と頸部には沈線で龍の輪郭を表しているという。
下から突き上がってきたものを中心に龍が向かい合う。前・後ろ足がそれぞれ1本で表されているため、角も1本のS字形の線となっている。この角さえなけれぱ虎に見える。
空心磚 戦国時代 陝西省咸陽市咸陽宮出土
『図説中国文明史3春秋戦国』は、秦国の空心磚である。空心磚は古代で壁をつくったり、墓に用いたりした一種の磚で、防音・防湿・保温などの効果をもつという。
正方形に近い区画の中いっぱいに咆哮する龍が描かれている。前足の爪も鋭く3本がしっかりと表され、鼻に接するように後ろ足が出て2本の爪がある。
不思議なのは、中央の渦巻で、胴体の途中からわかれてカタツムリの殻のようだ。ひょっとすると羽根だろか。
錞于(打楽器)の蓋 秦(前3世紀) 咸陽市塔児坡出土 高さ69.6㎝口径32-40㎝ 青銅 咸陽博物館蔵
『始皇帝と彩色兵馬俑展図録』は、鈕は龍である。背中を丸め頭を後方に振り返る。尾部は欠損するが、首と同様に上部に丸く形成されていたと思われ、腰部に尻尾の先の接合痕が見える。胴部には翼と鱗が表現されているという。 
前脚の付け根に羽根がある。龍で有翼のものはこれが最古かも。

『中国国宝展図録』は、龍は中国伝統の空想的動物で、ワニ、馬、蛇などさまざまな動物の特徴を合成したものであるという。
龍が「龍」になるには、長い年月を要したのである。

※参考文献
「世界美術大全集東洋編1 先史・殷・周」 2000年 小学館
「図説中国文明史3 春秋戦国 争覇する文明」 劉煒編著 2007年 創元社 
「中国国宝展図録」 2004年 朝日新聞社