ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2010/06/11
サッカラの階段ピラミッドの地下には複数のタイルパネル
サッカラの階段ピラミッドの地下には偽扉と葦を束ねた家屋という2種類のファイアンスタイルの壁面があるらしい。
何でも最初の物が見てみたいと思う私は、ピラミッドならギザの大きなものよりも、この階段ピラミッドを見たかった。乾燥したエジプトにあるので、ピラミッドは当然真っ青な空の下にあるものと思っていたが、不思議なことに空は土色に曇っていた(編集してやっとこの色になった)。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、ファイアンスは古代エジプト語ではチェヘネト(『輝くもの』または『光沢のあるもの』の意)と呼ばれた。現存しているファイアンス製品の大半は青から青緑色をしているが、この独特の色が再生や復活のシンボルとみなされ、主に神殿や墓などの宗教的コンテクストのなかで多用された。
第三王朝時代(前2686-2613年頃)の第2番目の王、ジェゼルがサッカーラに築いた階段ピラミッドの地下通路を飾っていたファイアンスタイルの装飾はエジプトの美術史上でも特筆すべき建築装飾である。ピラミッド本体の北側に地下へ下降する通路が縦横に走っている。通路は途中で何本にもわかれ、そのうち一本は錯綜しながら玄室に至るが、玄室の東側通路の西壁全体にファイアンスタイルが施されているのであるという。
ガイドさんは遠くから階段ピラミッドを眺めながら、竪坑や錯綜する通路の図を見せてくれた。それは下図のような簡単なものではなかった。
『世界美術大全集2エジプト美術』は、内部の玄室や通路は増改築過程に従ってそのつど継ぎ足されたため、結果的に、蟻の巣状に掘り巡らされた複雑なものになっているという。
意図的に迷路状に造られたわけではなかったのだ。
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、この場所は死せる王の魂が供物を受ける場所にあたり、偽扉と呼ばれる扉の形の彫刻がある。王の魂はその扉を通って現世にあらわれ供物を享受すると考えられていたという。
タイル象眼のパネル サッカーラ出土 高さ184㎝幅225㎝ 石灰岩・ファイアンス カイロ美術館
『原色世界の美術12エジプト』はカイロ美術館としているが、現在はカイロ、エジプト博物館と呼ばれている。世界のタイル博物館にあった写真とは同一の物ではないようだ。
同書は、サッカーラにある「ジェゼル王の階段ピラミッド」地下の未完の通廊の壁を飾っていたもので、石灰岩ブロックを重ね、その表面を彫り込み、青色釉のかかった小形のファイアンス製タイルを象眼し、全体をマットのように表現している。上方の円弧内にはオシリス神の「ジェッド柱(永遠の継続の象徴)」が配されているという。
驚いたことに、同じ大きさに作られていると思っていた青色のファイアンスタイルだが、このパネルには大きさも形も異なるタイルをそれぞれの位置に組み込んでいる。
それだけではない。同書がジェド柱とし、『砂漠にもえたつ色彩展図録』は葦を束ねて作った家屋を模している。等間隔に結わえた葦の束を何本も並べているとする部分の上半分は、横長の区画にナツメヤシの葉のようなものを刻線で表したタイルを嵌め込んでいる。
このようなパネルが6つの偽扉の間に嵌め込まれていたのだろうか。
偽扉 ジェゼル王の階段ピラミッド、南の墓地地下通廊内 古王国第3王朝(前2650年頃) 石灰岩・青釉タイル ファイアンス サッカーラ
『世界美術大全集2エジプト美術』は所属がカイロ・エジプト博物館ではなく、サッカーラになっている。まだ地下にこのままの状態であるのだろうか。
同書は、同種のタイルは、階段ピラミッドの南の周壁の部分に作られた南の墓地の地下にも見られる。その南墓は、ピラミッド地下の玄室の南約200mほどの位置にある象徴的な墓であり、玄室と南墓が一対の二重構造になっている。図版は、南の墓地地下通廊の偽扉の部分の浮彫りで、セド祭(王位更新祭)での「アピスの走行」の場面を描いたものであるという。
これは世界のタイル博物館で再現されていたものと同じものだ。同じ大きさの青いファイアンスタイルを嵌め込んで構成されている。
現在サッカラには、ナイル西岸に広がるナツメヤシ樹園の緑地帯が尽きて、ピラミッドのある河岸段丘へと向かう、ちょうど境目にイムホテプ博物館ができている。グーグルマップでこちら(アースにしてナツメヤシ林と砂漠の際を拡大すると細長く建物や駐車場などが出てきます)
エジプト航空の機内誌「HORUS」の1・2月号には「Visions of The Past」というザヒ・ハワース氏の文と共に、イムホテプ博物館内部の写真があった。奥にはジェゼル王の階段ピラミッドの地下の青いファイアンスタイルの壁面が並んでいる。ひょっとするとこの博物館にファイアンスタイルの壁面が集められたために、カイロ・エジプト博物館では見かけなかったのかも。
残念ながら、イムホテプ博物館はツアーには最初から入っていなかったので見学できなかった。
※参考文献
「図説古代エジプト1 ピラミッドとツタンカーメンの遺宝篇」(仁田三夫編 1998年 河出書房新社)
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」(2001年 岡山市オリエント美術館)
「原色世界の美術12 エジプト」(1970年 小学館)
「世界美術大全集2 エジプト美術」(1994年 小学館)