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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/08/12

中国の古鏡展3 羽状獣文から渦雷文、そして雷文へ


「羽状獣文」について『中国の古鏡展図録』は、羽状獣文は青銅祭器の文様として発達した龍形文様の羽状飾だけを強調した文様である。これを30㎜X15㎜くらいの長方形区画にまとめて縦横に並べている。鋳型への施文は基本的に原型(スタンプ)で地文をつくり、さらにその上に主文様を載せる。このような羽状獣文地をもつ鏡が前4世紀~前3世紀にかけて長江中流域を中心に大流行したという。

羽状獣文地五山字文鏡 戦国時代(前3世紀) 径18.7㎝重600g
龍の羽状飾一部分だけの文様もあれば、頭部や胴部の見られる箇所もある。いや、もはやこれは龍ではなく、正体不明の獣だろうか。長い口から首、背中にかけて、小珠点を並べた列点文がみられる。

羽状獣文地四山字文方鏡 戦国時代(前3世紀)
波文のようでもある。その隙間に、列点文が入り込んでいるようにも見えるが、これが獣の体なのだろう。


羽状獣文地四獣鏡 戦国時代(前3世紀) 径16.4㎝重329g
同書は、大きな円圏鈕座のまわりを4体の禽獣が旋回する。羽状獣文地の上に凸線で輪郭だけをあらわす。文様はいくつかのヴァリエーションがあるが、いずれも尾が雲気状に発達しながら長く伸びるという特徴を持つという。
禽獣の凸線ははっきりしているが、地文は上の2点と比べると浅いのではっきりとはわからない。
同書は、胴や尾が雲気状に発達する表現は、戦国時代末から前漢時代初頭にかけて流行したスタイルで、秦時代に発達した細文地獣文鏡や蟠螭文鏡などに受け継がれていった。製作時期は山字文鏡や花菱文鏡よりもやや遅れると考えられている。羽状獣鏡をもつ鏡としては最も新しい時期の作品である。
発達した牙をもった尾長の獣4頭で文様を構成する。獣は自身の尾を銜えている。このスタイルの文様のなかで最も流行したタイプであるという。
地文がわかりにくいのは、禽獣の体が無文なので、そこが地文が途切れてなくなっているように感じるからでもあるのだろう。
これくらい拡大すると、細い線と複雑な羽状文が浮かんでくる。
禽獣の尾は、文様の1単位の半分でもよいくらいなのに、∞字状に長々と伸び、しかも草文のように葉状のものがついたり、蔓が出たりしている。ケルトの動物を見ているようだ。

羽状文地葉文方鏡 戦国時代(前3世紀) 辺長8.5㎝重120g
同書は、羽状文を地文として、その上に葉文を配置した簡素な方形鏡である。羽状文は先端を丸めた羽根を正方形にまとめ、それを縦横に並べた単純な構造をとる。羽状獣文をより簡略化したものである。縦2個横4個を基本単位とする長方形のスタンプによって鋳型に施文されており、羽状獣文地と同じ施文技法をとっているが、全体にやや粗雑で鈍い仕上がりの印象を与えるという。
この方鏡の地文は極めてはっきりしている。一房の巻毛か高い波のよう。獣の体を表した列点文は全くみられない。
葉文は方形の鈕座の各角に、そして外の区画からは、2つの葉文の間に一つの葉文がくるように配されている。

細文地四鳳鏡 秦時代(前221-206年) 径11.2㎝重104
同書は、非常に細い直線や渦巻線と小珠点とを組み合わせた地文をもち、そのうえに様々な文様を載せる。戦国時代中頃から散見し、秦時代から前漢時代初頭にかけて地文のパターンが緻密でかつヴァリエーション豊かになる。地文の上に載る主文様も精緻でかつシャープな表現をとるものが多い。
極細線であらわされた鉤連雷文のなかを小珠点で埋め尽くし、その隙間に極細線の渦巻文を並べた地文をもつ。方形鈕座の四隅に尾を高く振り上げた鳳が留まる。鳳の隣には大柄な菱文を入れているという。
浅い地文だが、鉤連雷文の線、その中に規則的に並ぶ小珠点、渦文がはっきりと鋳出されている。

渦雷文地四葉文鏡 戦国時代末-前漢時代初頭(前3世紀) 径11.8㎝重130g
同書は、円形渦の左右に三角渦を組み合わせた渦雷文をすき間なく並べた地文をもつ。地文はブロック状の原型(スタンプ)を鋳型に押し当てる方法で施文されており、羽状獣文地や細文地と同じ技術系譜にある。戦国時代末から秦時代頃に出現し前漢時代前期にかけて流行した。本鏡は大柄な円形鈕座の外周に四葉を配するだけの簡素なもので、地文の状況がよく確認できるという。
四葉文は柿蔕文を小さく表したもののよう。久しぶりに柿蔕文を見た。柿蔕文についてはこちら
渦雷文とはこのような渦の組み合わせ文様をいうのか。これは秦時代の細文地四鳳鏡にもすでに出現している文様だが、この文様だけで地を埋め尽くすということは秦時代にはなかったかも。

八弧蟠螭文鏡 前漢時代(前2世紀) 径19.7㎝重567g
同書は、渦雷文地のうえに数体の蟠螭文が鈕座のまわりを旋回するタイプの鏡である。蟠螭文は龍形文様の一種で、口を大きく開き2足あるいは4足をつけた細長い胴体をくねらせる。胴のくねらせ方はヴァリエーションに富んでいるが、胴体が左右に大きく展開するタイプが多い。とくに長江中流域の戦国時代末から秦時代にかけて多く見られ、引き続き前漢時代前期に大流行した。
円圏鈕座のまわりを幅広の連弧文がめぐる。連弧文は半円を内向きに8個連ねる。渦雷文地にこのような連弧文のみをあらわした鏡が、戦国時代末から前漢時代初頭にかけて製作されたが、本鏡はさらにその連弧に分断されるような形で蟠螭文を4体あらわす。連弧の外縁側に口を開いた龍頭をおき、それから4足を付けた胴体が、連弧をくぐりながら鈕座側に伸び、さらに隣の連弧外縁側へと展開する。蟠螭文はいずれも輪郭がシャープで渦雷文地も細密にあらわされており、極めて出来の良い作品であるという。
これまでみてきた古鏡では、地文は凸線で表されてきたが、この鏡では陰刻となっている。地文は渦雷文のみ。

方格規矩蟠螭文鏡 前漢時代(前2世紀) 径16.3㎝重420g
同書は、中央にある方格の各辺にT字形文、その対面にL字形文方格対角方向にV字形文を配した方格規矩文と蟠螭文とを組み合わせた渦雷文地鏡である。鈕の周りを2頭の龍が旋回し、その外側に方格銘文帯がある。T字形文とL字形文とで区画されたなかに蟠螭文があらわされているという。
このタイプの鏡はこれま数多く確認されているが、地文が不鮮明で粗雑な仕上がりのものが多い。そのなかにあって本鏡は地文が鮮明で鋳上がりも優れているという。
その鮮明な地文は渦雷文だが、丸い渦と2つの小さな三角形からなる渦の組み合わせとはまた異なった配列のように見える。

雷文鏡 前漢時代(前2世紀) 径16.3㎝重466g
同書は、正方形に区切られたなかにL字状の雷文を縦横に並べる。戦国鏡にみられた羽状獣文の退化形態あるいは模倣と考えられるが、鋳型にスタンプで施文せず直接文様を彫刻している。鈕座は扁平で先端が鋭く尖る四葉であらわされる。いずれも前漢時代中頃に出現した新しいスタイルである。従来の伝統的な要素を遺しながらも、新しいスタイルへ移行しようとする過渡的な様式の鏡であるという。
四葉文は柿蔕文で良いのでは。柿蔕文は戦国時代前期(前5-4世紀)からある文様だが、このように鈕を取り巻くということが新しいのだろう。
雷文は繋がらずそれぞれ独立している。ギリシア雷文とも異なる起源から生まれた文様。

羽状獣文から渦雷文、そして雷文へと変遷していったということになる。


   中国の古鏡展2 「山」の字形← →中国の古鏡展4 松皮菱風の文様(杯文)

関連項目
柿蔕文?四葉文?2
ギリシア雷文
中国の古鏡展5 秦時代の鏡の地文様は繊細
中国の古鏡展1 唐時代にみごとな粒金細工の鏡

※参考文献
「村上コレクション受贈記念 中国の古鏡展図録」 根津美術館学芸部編 2011 根津美術館
「泉屋博古 中国古銅器編」 2002年 泉屋博古館