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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2015/10/27

チャシュマ・アユーブ廟の円錐ドーム


チャシュマ・アユーブ廟には4つのドームがあり、一番奥の円錐ドームが特徴的な焼成レンガだけの建造物である。
『シルクロード建築考』は、奥の方に、直径約5mのドラムで支えた例の円錐ドームが見えるという。
同書は、一見して二重殻ドー ムと思われる構造の姿が見える。丁度サマルカンドにあるグル・エミル廟の溝条ドームのネックと共通したドラムとの接合テクニックが用いられているようであ る。この廟の最も古い建築の部分は、小さな墓室であるらしく、その壁に見られる1379年の銘文によって、チムールの発願であることがわかる。ドラムや円 錐ドームの竣工にもチムールが大いに干渉したのだろう。優れた多くの工匠たちは、チムールの故郷に建てた宮殿造営の際に、カスピ海東南岸一帯のホラズムか ら、連行されて建築工事に従事させられたに違いはあるまいという。
『ウズベキスタンの歴史的建造物』は、チャシュマイ・アユブの特性は第13-14世紀のホレズム建築の典型的な円錐のドームであるという。
グル・エミール廟のドームと比べると、円筒部(ドラム)が長い。
同じくティムールが戦死した長男のために造立したシャフリサブスのジャハンギール廟も円錐ドームが載っているが、短い胴部は多角形だった。

同書は、元来、モンゴル、イル・ハン朝のグンバッド(墓塔)に架けられた円錐形ドームの発祥は、モンゴル軍の移動する貴族たちの幕舎形態から発生したものと考えられている。
この神廟のドームの高さ約16m、円錐部分の高さ約5mの煉瓦積造ではあっても。一部は泥モルタルの補修を施されて、いたって素朴ながら建築の西方的な横顔を見せているという。
「建築の西方的な横顔」というのはどういうことだろう。

円錐ドームを戴いた円筒状の建物を探していて、イラン、ゴルガーンの墓塔を見つけた。
『イスラーム建築の世界史』は、そびえる建築-墓塔の中で、1006年建設のゴンバディ・カーブースは、時代の画期を象徴する塔状の高い墓建築(墓塔)で、以後中央アジアからアナトリアにかけてたくさんの墓塔が建設される。
高さ55mにも達する塔で、円錐状の屋根を戴く。塔身の部分を垂直に走る鰭状のフリンジが分節し、塔身の下部と上部だけにインスクリプション(銘文)が入り、シンプルで現代的造形に近いという。
同書は、室内は円形だが、外側に10本のフリンジを設けているため、壁面は十点星となる。
ゴンバディ・カーブース以後の墓塔の建設は、トルコ系遊牧民王朝の広がりと重なる。墓塔の誕生と浸透には、トルコ系遊牧民が故地において多神教を奉じた時のトーテム・ポールのような柱への信仰、あるいは彼らが住んでいたテントの造形が影響を及ぼしたともいわれる。十点星のフリンジは、太陽や彗星の光芒を象徴したとされる。武力を重んじるダイラム人、ゾロアスター教に根ざす太陽信仰、トルコ王家から嫁いだ妻など、いろいろな要因が重なって、この塔の造形が選ばれたと推察されるという。

同書は、11世紀以降、イスラーム教の墓建築ではキャノピー墓と墓塔が各地へと広まり、モスクのミナレットも西アジアでは断面が円形になり、さらに高くなるという。

トゥグリル・ベクの墓塔 セルジューク朝、1139-40年 イラン、レイ
同書は、煉瓦造で20前後で縦条(フリンジ)で分節されるというが、ドームの形がわからない。

『イスラーム建築の見かた』は、12世紀半ばにアナトリア(小アジア)へ入ったトルコ諸部族が打ち立てた諸侯国の時代に、墓塔は多角形平面で錐状建築を架けることが定形化し、ドームを戴くことは極めて稀となる。こうした墓塔をトルコ語ではキュンベットと呼ぶという。

デネル・キュンベット 1275-76年 トルコ、カイセリ
『イスラーム建築の世界史』は、トルコの墓塔の代表例。石彫で、幾何学文様に交えて椰子や動物が描かれるという。
浅い10の尖頭アーチがー同部をめぐる。

チフテ・ミナーレ・メドレセのキュンベット 1276年頃 トルコ、エルズルム
造立がほぼ同じ頃のせいか、デネル・キュンベットによ似ている。尖頭アーチは三重に繰ってデネル・キュンベットよりも装飾的で、フリンジに近いような繰りとなっている。
廟内で見上げると、天井は円錐ドームよりも浅いので、二重殻ドームだろう。
ドラムの内側は多角形で、枠が厚くなっていて、外側のものと合わせると、円筒の壁面ではなく、10本?の柱がドームを支えているようにも思える。

ウチュ・キュンベットB・C 1325年以前、1350年以前 エルズルム
時代は下がっても、外観はあまり変化がない。

しかしながら、チャシュマ・アユーブ廟の円錐ドームは、フリンジもアーチの繰りもない。
それがホラズムの円錐ドームの特徴なのだろうか。

関連項目
チャシュマ・アユーブ廟1 独特の外観
チャシュマ・アユーブ廟2 それぞれ別の天井
エルズルム1 ウチュ・キュンベット
エルズルム4 チフテ・ミナーレ・メドレセ3 キュンベット
エルズルム5 タシュハンからヤクティエ・キュンベットへ
エルズルム6 ヤクティエ神学校

※参考文献
「東京美術選書32 シルクロード建築考」 岡野忠幸 1983年 東京美術
「岩波セミナーブックスS11 イスラーム建築の世界史」 深見奈緒子 2013年 岩波書店
「イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史」 深見奈緒子 2003年 東京堂出版
「ウズベキスタンの歴史的な建造物」 A.V.アラポフ 2006年 SANAT