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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
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2014/10/21

中国の山の表現1 漢時代山岳文様は博山蓋に



秦漢時代の山岳文様というと、博山炉くらいしか思い浮かばない。しかも、『世界美術大全集東洋編2秦・漢』は、香炉は漢代に入って急速に普及した器物である。漢代には「薰炉」と呼ばれていたことが銘文から知られる。前2世紀後半になると、山並みを表した円錐形の蓋を伴う、いわゆる博山炉(はくざんろ)が登場するという。

金銀象嵌博山炉 前漢中期(前2世紀) 銅 通高26.0胴径15.5㎝ 河北省満城県陵山中山靖王劉勝墓(満城漢墓、前113年頃)出土 河北省博物館蔵
『世界美術大全集東洋編2秦・漢』は、満城漢墓は石灰岩の小山に水平に掘り込まれた崖墓である。被葬者が禽縷玉衣をつけて葬られていることや。漆器や銅器などの銘文から、1号墓の被葬者は、前113年に死んだ中山靖王劉勝であることが明らかになった。武帝の異母兄にあたる。
金銀象嵌博山炉は1号墓の主室に隣接する側室から出土した。蓋はいくつもの層をなしてそびえる険峻な山の峰を表している。香を焚いたときには、孔から立ち上がる煙が深山に漂う雲気のように見えたであろう。山の中には虎や豹、猿、猪を追う狩人などが見える。器身の上部には蓋に合わせた形で山岳が作られ、全体に金象嵌で雲気文が表される。脚部から下の座にかけては、3匹の龍からなる透彫り文様になり、座の縁には巻雲文が表される。今に残る博山炉のもっとも豪華な例の一つであるという。
形としても、技術的にも非常に完成度の高い作品である。
山岳は、峰と峰の間の平らな箇所を階段状に数段重ねて奥行きを表現している。険しい山の峰、山と山の間には深い谷、その中に動物や人間もいる。

博山炉 前漢-後漢(前2-後3世紀) 灰陶 高さ19.6㎝ 個人蔵
『中国古代の暮らしと夢展図録』は、博山炉と呼ばれる香炉の一種である。蓋には幾重にも重なった山岳と、人が乗った牛のほか、猪、鹿、犬、猿、鳥などさまざまな生物が表されている。神仙世界を表したものである。碗部分と脚の裾にはユーモラスな龍が浮彫りされているが、漢代には龍は死んだ人の魂を天に運ぶと考えられていた。天上世界に登って仙人になりたいという当時の人々の強い思いが込められているのであろうという。
山の表現が面白い。丸みのある山並みが鱗状に3層重なる。山はどれも斜め、あるいは縦の筋がその襞を表している。いや、上の満城漢墓出土の博山炉のように、一つのまとまりが幾つかの山並みになっていて、全体で奥深い山の中であることを表現しているのかも。
そして、一つの山々のまとまりは、動物や人物の登場する1区画にもなっている。

博山形に作られたのは香炉の蓋だけではなかった。

博山蓋鼎 漢時代(前1-後3世紀) 陶製 高30.3腹位85.5口径19㎝ 河南省南陽市採集 河南博物院蔵
『誕生!中国文明展図録』は、ふくよかな胴部に三足と一対の把手が付き、蓋を伴う。全体に褐釉を掛けているが、熊形の三足には緑釉を掛けている。三足は、両肩と背中で器体を支える熊の姿をかたどっている。蓋には山岳の紋様が浮彫りになっているという。
この鼎の蓋は、山の一つ一つに動物・植物・人物が登場し、鱗状の重なりはあるが、それぞれはのっぺりとしていて、山の襞はない。
同書は、それぞれの山には鳥や猪・象などの動物、槍を構えた人物などのほかに、分岐して湾曲しながら伸びる木や槍先のような形状の直立する植物などを表現している。中でも槍先のような植物は山岳の紋様の最も高い所に集中し、蓋の頂部をめぐっている。これらの動植物や人物を描いた山岳は、不老不死の神々や仙人の棲む天界と地上を結ぶ通路として漢時代の人々に信仰され、蓋や台座などの意匠として盛んに用いられた。この種の蓋を後世の学者が伝説の博山に見立てて、博山蓋と呼ぶようになったという。
博山蓋という言葉まである。
一番下は山の形だが、2、3段目の山は下部の峰の間にあるので、菱形の区画にも見える。
 
山岳鳥獣文温酒樽 漢(前1-後2世紀) 銅 通高21.9口径20.2㎝ 東京国立博物館蔵
『世界美術大全集東洋編2』は、蓋は多くの峰の重なる山の形を呈する。山のあいだに仙人、熊、龍、鳳凰などが表される。身の表面は菱形文帯で上下に分けられ、それぞれ山岳文を背景として仙人、熊、虎、鳥、猪などの獣などが表されているという。
博山蓋の山は峰の一つ一つに両側から渦巻いたような文様が線刻されている。ハートパイを逆さにしたような・・・
蓋だけでなく、胴部にも山岳文様がある。山は丸みのある複数の峰で表される。

博山蓋樽 漢時代(前1-後2世紀) 青銅 高39.7口径25.6㎝ 河南省信陽市出土 信陽市文物局蔵
『誕生!中国文明展図録』は、樽とは酒を温める円筒形の容器。本作は頂部に鳳凰のいる博山蓋が載る。博山蓋の山々には、上下2段に渡って様々な動物と人物を時計回りに配置している。下段には狼や疾走する動物のほかに、翼をもつ動物や龍などの神仙世界に棲む存在が描かれている。龍に騎乗する人物もいるが、その背中にも翼が生えている。神の使いないし仙人の姿をしたとされる羽人である。本作の博山蓋には天界に通じる山々で羽人や神獣が遊ぶ濃密な神仙世界を細かな線で彫刻している。胴部にも縦横に浅く彫った見当線を基準として、山々の連なりを整然と線刻しているという。
東博蔵温酒樽の蓋の山にも線刻されていた文様が、この器の胴部に整然と並んでいて、鳥の羽根を表したものにも思えるが、山々の連なりだった。とすれば、その一つ一つに線刻された文様は、樹木を表しているのだろうか。
博山蓋は満城漢墓出土のものに比べると、比較にならないほど凹凸の少ない、ものになっている。中段辺りには、山の字のように中央が高く3つの峰からなる山岳文様が横に並んでいる。
そのアップ
3つの峰それぞれに細い縦線が施され、上の縁に沿って3本の弧線が刻まれ、その両端は渦巻で終わっている。これは胴部に並んだ文様と同じものだが、樹木を表しているのかな。

温酒尊 前漢-後漢 褐釉緑彩陶 高さ25.2㎝ 愛知県陶磁資料館蔵
『中国古代の暮らしと夢展図録』は、温酒尊とは火にかけて酒を温める容器で、本来は青銅製であったが、陶磁器や漆器でも作られた。副葬用の明器として作られたものである。蓋には峰が幾重にも重なった山岳が表され、山間には熊や虎、猪などの動物と弓をもった人の姿が見られる。神仙が住む神山または天界の主・西王母が住むとされた崑崙山を表しているのであろうか。漢代の人々は「羽化登仙」(羽が生えて天に登って仙人になる)して不老不死の永遠の命を得たいと熱望したが、この温酒尊にはそうした思いが込められているのであろうという。
蓋の下辺にある緑色の山は、線刻で幾重にも重なった峰々を表しているのだろう。これを重層山岳文としておこう。
 
神獣多枝灯 後漢時代(1世紀) 土製着色 高110㎝ 河南省済源市桐花溝10号墓出土 河南省文物考古研究所蔵
『誕生!中国文明展図録』は、3層に積み上げた燭台から、細かな装飾や灯明皿が枝葉のように伸びる。台座は紫色で運気ないし弱水と思しき川の流れと山岳の連なりをかたどり、合計28体もの動物と人の小像を時計回りに貼り付けている。動物は猪・山羊・豹などの他に、一角獣などの珍獣も含まれている。鶴形灯明皿は枝が龍の首の形をしており、上向きの龍の唇で皿を受けている。
本作は墓室内に供えた副葬品である。単なる照明としてではなく、霊魂が鳥や龍に導かれて天界に通じる山を登り、仙人の境地に至る昇仙を祈って副葬したものだろうという。
ここでは博山の峰を赤く着色し、山の重なりを丸みのある重層山岳文に表したものが幾つか見られる。
白っぽい峰にも重層山岳文があった。

山が動物や人物の配置される枠となっているものや、山の重なりを複数の線で表す重層山岳文が一般的だったようだ。

中国で山岳が文様として採用されるようになったのは前漢時代頃で、それが後世にまで受け継がれていったその先が宋時代の山水画ということでよいのだろうか。
しかし、正倉院宝物の琵琶捍撥部に描かれた山岳図と、漢代の博山蓋に表現された山岳の様子には、かなりの違いがある。
それについてはこちら

     平成知新館5 南宋時代の水墨画←  →中国の山の表現2 三国時代から隋代

関連項目
中国の山の表現3 唐代
中国の山の表現4 五代から北宋


※参考文献
「世界美術大全集東洋編2 秦・漢」 1998年 小学館
「誕生!中国文明展図録」 2010年 読売新聞社・大広
「中国古代の暮らしと夢-建築・人・動物展図録」 2005年 岡山市立オリエント美術館ほか