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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/09/19

蓮華座10 蓮華はインダス文明期から?



インドで蓮華座が生まれたとされるが、クシャーン朝期のマトゥラー仏で見付けることはできなかった。しかし、蓮華をモティーフとした造形はたくさんあった。

ラクシュミー立像 2世紀 砂岩 高さ114.5㎝幅29㎝奥行25㎝ マトゥラー、ジャマールプル出土 ニューデリー国立博物館蔵
『インド・マトゥラー彫刻展図録』は、仏塔などの荘厳に用いられたとみられる柱状の彫刻で、水甁をかたどった柱礎から出る踏割形の蓮華に、女神が立っている。
背面には蓮が水甁から上方にのびる様子が全面にあらわされ、中段の荷葉上には、尾羽をたらした2羽の孔雀が向かい合っている。蓮華は側面・上面・下面など様々な角度から描写され、開き具合も蕾から全開まで変化がつけられて、まことに多彩な表現をみせる。
ラクシュミーは蓮および水と深い関わりをもつ美と幸福の女神で、仏教ではのちに吉祥天として大いに親しまれるに至ったという。
葉は横向きで裏側を見せ、蓮華は蕾(未敷蓮華)、開花を始めたもの、満開(開敷蓮華)で花托の見えるもの、裏側がこちら側を向いているものなど変化に富む。花弁の一番外側、あるいは萼が、二重の輪郭線となっている。また、一番上の表向きの花弁は中央に筋がある。
そして、片足ずつのせている俵のようなものが踏割蓮華だった。

『仏教美術のイコノロジー』は、水から生ずる蓮のイメージは、インドにおいて誕生と生成を表す基本概念であるが、それは通常「満甁」(プールナ・ガタ)と呼ばれる表現となる。水で満ちた丸い壺から蓮の茎がたくさん生え出て、開敷や未敷の蓮の花が咲き、荷葉が茂って画面を埋め尽くす。バールフト、サーンチー、アマラーヴァティーなどの初期仏教美術には、満瓶のモティーフが頻出するが、豊饒・吉祥の象徴としてインドでは後々まで愛好されるという。
柱礎と思っていた踏割蓮華の下にあるものは、そういわれると確かに壺の形をしている。

象頭マカラ 2世紀 砂岩 高さ23㎝幅66㎝厚さ17㎝ 第1横梁彫刻西側端部 マトゥラー、ソンク第2寺院跡出土 マトゥラー博物館蔵
同書は、寺院南側の主入口に建てられた門の横梁彫刻の断片である。門は神社の鳥居のような形をしており、横に3本の梁をわたす。
マカラの胴部はマカラとナーガと同様だが、前半身が鼻で蓮華をつまんだ象となっている。前足も象の足の形になっている。サーンチー第2塔やアマラーヴァティーには、象頭のマカラが蓮華を吐き出す図があるという。
蓮華は蕾と開花の2種が表される。
マカラが蓮華を吐き出すというインドの図様が中国にもたらされ、蓮茎を吐き出すのが龍になったのかも。

格子窓 1-2世紀 高さ80㎝幅106㎝厚さ12㎝ マトゥラー、ゴルパダ・レーン出土 マトゥラー博物館蔵
同書は、4本の柱、各柱の間に3つずつの貫石、上に笠石、また下は柱を繋ぐように基部があり、それらを1つの石から彫り出す。柱と貫石部分は各種の蓮弁文様で飾られ、笠石部分はアーチ型を表すという。
花弁の先の丸いもの、尖ったものを初め、少しずつ異なった蓮華が表されている。
右側を拡大
ガンダーラ仏の蓮華座などにあったように、ここでも、ほぼ全ての蓮弁の中央には筋がある。それだけでなく、花弁の先でY字状に分かれるものもある。右列上の蓮華は輪郭が二重になっていて、子葉のある単弁の原形にも見える。
その下のものは、中央の筋が花弁の先でY字状に分かれているようで、凝視すると子葉が2つ、つまり複弁になっているようにも見える。

青銅製扉 1-2世紀 高さ100.0㎝ パキスタン出土 松戸市博物館蔵
『シルクロード』は、寺院の仏具を収納した調度品として使われていたものだろうか。蝶番がつき、内側に開く構造で、縁にはカロシュティ文字が刻まれているという。
ロータス文かロゼット文か、どちらともとれるような花文だが、4つの小花には上図の蓮華のように中央に線があるので、花托が小さいとはいえ、蓮華を表したものだろう。
中央の花綱に囲まれているのは、蓮華を上から見下ろしたものだろうか。かといって、ロゼット文とも思えない。内側の花弁は小さく、外側のものは大きい。外側に花弁が八重咲きのように重なるのを見ると、やはり蓮華かな。 

ナイランジャナー河の徒渉 初期アーンドラ朝、紀元前後 浮彫 サーンチー第1塔東門南柱
『図説仏陀』は、水鳥の遊ぶ河中を渉る釈尊は一枚の経行石であらわされ、兄弟はこれを追う。
風に揺れ、二重に折れた蓮葉と蕾が川から顔を出している
という。

流れの緩やかな川の光景が自然に描写されいる。
水中では繋がっているかも知れない茎と花は、水面から出るとバラバラに見える。マカラ?の下はに大きな蕾が、その下の方には小さな開花した花が、茎が折れてひっくり返っているようだ。その横には小さな蓮葉が円形に表されているが、他の葉は半分に折りたたまれ、風にそよいでいる。インドでは蓮葉は側面を表すのが一般的だったのかな。

半月刀と楯を持つ胡人戦士 前1世紀 砂岩 径33㎝ 欄楯浮彫 ガンガー中流域ボードガヤー出土 ボードガヤー考古博物館蔵
花托が大きく、子葉の大きな単弁の蓮華座を、上から見たような表現の蓮華である。
『世界美術大全集東洋編13インド1』は、とんがり帽子のサカとして、サカ族は中央アジアで活躍し、紀元前後にインドへ侵入したイラン系遊牧騎馬民族で、アケメネス朝ペルシアのナクシ・ルスタム碑文(前5世紀)も、帰属する民族のひとつとして「槍のようにとがった帽子のサカ」の名をあげるという。
同書は、ペルセポリスの浮彫(前5世紀)から、中国西晋時代(3世紀後半-4世紀初め)にまで、表されるこのとんがり帽子のサカについて興味深い項目がある。
それについてはいつの日にか。

仏伝ムチリンダ龍王の護仏 前1世紀 砂岩 高さ105㎝幅52.5㎝奥行47㎝ パウニ出土 ニューデリー国立博物館蔵
『インド・マトゥラー彫刻展図録』は、八角形の欄楯柱の片側3面に浮彫を施す。中央は仏伝の中の「ムチリンダ龍王の護仏」の場面である。成道後に樹下に坐して瞑想を続けていた釈迦が暴風雨に見舞われた時、ムチリンダ龍王がその胴体を釈迦の体に巻きつけ、頭を傘のように広げて守ったという。下方に蓮華を表す。仏像誕生以前の制作である本作品では、釈迦の姿は直接表されず、台座という象徴物によってその存在が暗示されるという。
台座の下に生えた蓮華は、蓮葉、未敷、開敷などを組み合わせて表現されているが、台座を直接支えているのは、エジプトのロータス文のような、側面観の蓮華である。ここでも蓮葉は側面を見せるのみ。
エジプトのロータス文についてはこちら
ただ、開敷蓮華は上方に茎が見え、下を向いた蓮華を表している。内側の花弁が小さく、外側が大きく表されるのは、青銅製扉の中央の蓮華と共通している。青銅製扉の蓮華も、蓮華を裏側から見た描写かも知れない。
そしてまた、台座の下に蓮華が表されるという点で、中国での中尊の台座脇から出た蓮華や龍から伸びた蓮葉などが脇侍の台座になったり、台座を支えたりする図柄に共通する。小金銅仏にもあるこの表現も、インドから伝播したもののようだ。

欄楯貫浮彫 シュンガ朝、前2世紀後半 バールフット カルカッタ(現コルカタ)・インド博物館蔵
『図説ブッダ』は、ストゥーパには外との結界として木造の欄楯(玉垣)が巡らされ、入口に塔門を設けて神聖さを強調した。それら欄楯、塔門にしばしば草花等の装飾文様やある種の象徴的図様の彫刻を施して荘厳することも行われたらしいという。

半分に折れた蓮葉が上半分の縁に並び、その間に開きかけた蓮華、開敷蓮華が嵌め込まれている。それは一見左右対称のようだが、そうではない。三尊像の両脇侍の表現を変えるように、インドやパキスタンでは、左右対称を避ける傾向にあったのだろうか。
それにしても、中央下で左右に分かれる蓮茎を吐き出しているのは誰だろう。
『仏教美術のイコノロジー』は、象やマカラの口、あるいは小人形の豊饒の神ヤクシャの口や臍から蓮華蔓草が生え出ている表現、それは「如意の蔓」(カルパ・ラター)と呼ばれる。このような「蓮華蔓草」や「如意の蔓」は、人々の現世的な顔貌を蔓草が満たしてくれるという、豊饒多産の象徴的表現で、古代インド人の楽園表現といえるという。

しかしながら、アケメネス朝期には、もっと蓮華の花に近い表現があった。

銀製碗 アケメネス朝ペルシア(前6-4世紀) 径10.2㎝ イラン出土 
『シルクロード』は、どっしりとした銀製の外面にロータス文が刻まれている。花弁の先が丸い白睡蓮であろうかという。

先が丸いというよりも、花弁の先が外に折れている。

同じような蓮弁の表現が、古代マケドニア、デルヴェニのB墓出土の銀製オイノコエにもあって、 『GREEK CIVILIZATION』は、ペルシアの金工の影響を受けているという。

地理的にはペルシアとギリシアよりも、ペルシアとインドの方が近いのに、インドでは蓮弁にこのような先が反ったものはない。

『蓮展図録』は、インドでも、すでにインダス文明期の女神像の頭に蓮の花の飾りがつき、蓮が生命を生み出す根本と考えられていたようである。このような文化的土壌のなかで、紀元前5世紀ごろにブッダが誕生する。ブッダ自身が遍歴の行者から、「麗しい白蓮華が泥水に染まらないように、あなたは善悪の両者に汚されていません」と讃えられたとされるように、蓮は早くから仏教のなかに取り込まれたという。
残念ながら、インダス文明期の女神像というのが見付けられないでいる。

      蓮華座9 クシャーン朝← 
                      →蓮華座11 蓮華座は西方世界との接触から

関連項目
蓮華座1 飛鳥時代
蓮華座2 法隆寺献納金銅仏
蓮華座3 伝橘夫人念持仏とその厨子
蓮華座4 韓半島三国時代
蓮華座5 龍と蓮華
蓮華座6 中国篇 
蓮華座7 中国石窟篇
蓮華座8 古式金銅仏篇
エジプトのロータス
アヒロピイトス聖堂の蓮華はロゼット文
イコノクラスム以前のモザイク壁画8 アヒロピイトス聖堂2 蓮華もいろいろ
古代ガラス展5 金箔ガラスとその製作法

※参考文献
「インド・マトゥラー彫刻展図録」 2002年 NHK
「シルクロード 華麗なる植物文様の世界」 古代オリエント博物館編 2006年 山川出版社
「仏教美術のイコノロジー インドから日本まで」 宮治明 1999年 吉川弘文館
「蓮 清らかな東アジアのやきものX写真家・六田知弘の眼 展図録」 大阪市立東洋陶磁美術館・読売新聞大阪本社編 2014年 読売新聞大阪本社
「GUIDE TO THE ARCHAEOLOGICAL MUSEUM 0F THESSALONIKE」 JULIA VOKOTOPOULOU 1996年 KAPON EDITIONS