ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2009/07/28
多角形の円筒印章があった
田上惠美子氏のトンボ玉展の案内ハガキにあった四角柱の作品を見て円筒印章が思い浮かんだが、円筒印章の図版をいろいろと見ていて、多角形の円筒印章を発見した。
田上氏のトンボ玉と円筒印章についてはこちら
バビロニア大法官府の印章 石灰石 高5.5㎝直径1.8㎝ メソポタミア 前625-539年頃
『メソポタミア文明展図録』は、この印章は、その銘「王の使者の印章」が示すように、新バビロニア大法官府の印章である。装飾は2頭の山羊を組み合わせた紋章モチーフだが、これは前二千年紀末の印章彫刻に直接由来する図像テーマである。この群像の脇に、2つの長方形の台に立てた鍬と短剣が描かれている。これら2つの象徴はそれぞれバビロニアの神々の主マルドゥクと、その息子で書記の守護神ナブを表している。
八角形の断面をもつこの印章は、珍しい角柱形である。おそらく円筒印章のように生乾きの粘土板に転がして用いたのであろうが、一面あるいは数面を押してスタンプ印章としても使用できただろうという。
1つの面を押すというのは、「王の使者の印章」という銘をサイン代わりにしていたということだろうか。 2頭の山羊を組み合わせた紋章モチーフは前二千年紀末の図像テーマかも知れないが、尾の長い動物の組み合わせなら、もっと古いものがある。
円筒印章と印影 怪獣と怪鳥 前3100-2900年頃 出土地不明 緑色碧玉 4.6X4.0㎝ パリ、ルーヴル美術館蔵
獅子頭の怪獣が首をS字形にねじらせ、交差した長い尾の広い空間には獅子頭の鷲が飛んでいる。
『世界美術大全集東洋編16西アジア』は、弓錐(ゆみぎり、ドリルの柄に弓の弦を巻き付け、弓を前後に動かしてドリルを回転させる工具)によって印材に丸いくぼみをつける技法はウルク様式の印章でも使われ、神話の生き物などを描く大型の円筒印章のように、両様式の特徴を兼ね備えた作例も生まれていた。
その様式はジェムデト・ナスル様式と呼ばれ、ウルク様式の印章に続いてドリルを多用し、写実的な手彫りは認められない小型の円筒印章が現れた。最初の出土地名をとってジェムデト・ナスル様式と呼ばれているという。
こんなに古い時代にすでにドリルという道具があったとは驚く。確かに胴体や足そして関節の部分が丸く深く彫られていて、ドリルを使ったような感じだ。 首の長い怪獣が、エジプト第1王朝初期の「ナルメル王の化粧板」(エジプト、カイロ博物館蔵)に見えることは広く知られている。いずれも、ウルク文明の影響がエジプトにまで及んでいた可能性を示唆する例といえようという。
ナルメル王のパレット ヒエラコンポリス出土 高64㎝幅42㎝厚2.5㎝ 第1王朝(前3000年~)
『図説古代エジプト1』は、化粧にもちいていたパレットが、記録板を兼ね、神殿に奉納されるようになったことで大型化した。表面が3段に分けられて、浮彫りがほどこされているが、王が敵を制圧し、上下エジプトの2国の統一を果たした場面が描かれている。ここでヒエログリフも記されているが、王名や家臣の名など、固有名詞しか見られないという。
長い首を交差させた動物というのを他にも見たような気がしたが、ナルメルのパレットだったのか。ナルメルのパレットの方が首で構成する円がみごとだが、その割に尾が貧弱だなあ。首の紐を引っ張っている人の外側にくるりとのばせば、もっと立派だったのに。
2頭の怪獣が上下エジプトを表しているとしたら、この2人の人物は共にナルメル王で、異時同図になっているのかも。
上下エジプトそれぞれの王冠を被った人物が敵を撃つという全体の主題から、この化粧板は上下エジプトの統一という歴史的事実を伝えていると解釈された。
その人物の名は「ナルメル」。この化粧板の発見で、王朝の祖はナルメル王と考えられるようになった。
最近では、ナルメル王を含む初期の4人の王名を記した封印跡が復元され、ナルメル王が王朝の始祖だという考え方を裏付ける証拠になっているという。
その封印は円筒印章ではなくスタンプ印章なのだろうか。
『世界四大文明 エジプト文明展図録』は、初期王朝時代(第1~2王朝)を前3000~2650頃とし、前3000頃、上エジプト出身のナルメル王(メネス王)がエジプト全土を統一し、第1王朝を樹立。都をメンフィスと定める。2代目ジェル王の頃、ヒエログリフによる文字体系が成立という。
ナルメル王の在位期間がよくわからないので、ナルメル王のパレットの制作時期は前3000年~ということにした。 エジプトに影響が及んだということなら、ウルクでも、首を交差させた動物は、2つの国を統一したとか、統治したなどという権力を象徴するものだったのかも。
多角形の円筒印章の話のはずが、首を交差する怪獣の話になってしまった。
※参考文献
「世界美術大全集東洋編16 西アジア」 (2000年 小学館)
「世界四大文明 メソポタミア文明展図録」(2000年 NHK)
「図説古代エジプト1」(仁田三夫 1998年 河出書房新社)
「世界四大文明 エジプト文明展図録」(2000年 NHK)