ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2009/04/07
波馬(ボマ)古墓出土の貴石象嵌金製品は匈奴?
日中国交正常化30周年記念として開催された「シルクロード 絹と黄金の道展」で見かけた新疆ウイグル自治区ボマ(波馬)古墓出土の金製のマスクはインパクトがあった。一番気になったのが、これが中国人のいう深目高鼻のイラン系騎馬遊牧民の顔なのか、日本人のように凹凸の少ないモンゴル系騎馬遊牧民かだった。
貴石象嵌金製マスク 金・貴石 高17㎝幅16.5㎝ 4~6世紀
第一印象としては、平たいモンゴル系だった。
同展図録は、前4世紀後半にフン族がヴォルガ川の東から現れて、黒海岸に居たサルマタイ族やゴート族を破ったことをきっかけに、ヨーロッパ大規模な民族移動がもたらされた。 ・・略・・ この時期のフン族の文化と関連させて考えられることが多いという。
顎鬚の部分は、金の細長い板に、心葉形あるいは端の丸い猪目形と呼ばれる形に成形した紅い貴石を金製の板で囲み、周囲に粒金(金の細粒)を巡らせたものを並べている。 貴石象嵌金製剣鞘 金・貴石 長21.7㎝幅5.5㎝ ボマ古墓出土 4~6世紀
鞘の両辺に各々2列の列点文があり、その間に赤色の貴石を3列に象嵌している。両側の列の貴石は勾玉形、中央の列は丸い台形ないし半円形である。象嵌の座の周りを金の細粒が囲み、象嵌された貴石の間は、金の細粒による三角形、菱形などによって充填されている。このような赤色の貴石の象嵌と、金の細粒による三角形などを組み合わせた貴金属製品は、典型的な民族移動期の工芸で、ドナウ平原からカザフスタンまで広く分布しており、この短剣はその東端に位置することになるという。
そう言えばフン族の貴石象嵌金製装飾品には粒金を三角形に並べたものがあった。貴石の成形という点ではフン族よりも進んでいるように見えるが、粒金の三角形はフン族からもたらされた技法だろうか。 貴石象嵌金製指輪 金・貴石 長径2.1㎝短径1.5㎝奥行3㎝ 4~6世紀
2列の列点文で貴石を取り囲んでいる。輪の部分には、金の細粒がびっしりと付けられているが、よく見ると細粒からなる三角形が見えるという。
確かにじっくりと見ると三角形になっているのがわかる。こういうのを見るとフン族の貴石象嵌金製装飾品よりも完成度が高いなあ。 ボマ古墓出土品の特徴は、象嵌する貴石を一定の形に成形していることと、銀を使っていないことだが、これはフン族の象嵌・細粒細工と異なるものである。そして全般にフン族のものよりも洗練された技術である。
フン族に吸収された別の騎馬遊牧民の族長クラスの墓らしいが、マスクは鼻がつぶれているだけで、目が大きいのでイラン系かも。
匈奴がどちらに属するかまだはっきりしていないが、ボマよりも東には類似のものが発見されていないので、どうも匈奴のものではなさそうだ。
粒金で三角形を形作ったものは、フン族の象嵌と細粒細工・新羅の装飾宝剣とフン族をどうぞ
※参考文献
「シルクロード 絹と黄金の道展図録」(2002年 NHK)