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2015/09/08
サマルカンドのアク・サライ廟に井桁状のアーチ・ネット
サマルカンドの9:グル・エミール廟近くには15:アク・サライ廟があった。
アク・サライ廟
『中央アジアの傑作サマルカンド』は、アク・サライ廟(白い廟)は、グル・エミール廟の南東、旧市街の宅地にある。仮説では、この建物はサマルカンドに住んでいたチムール族のある男性のための廟であり、イシュラト・ハナ廟と同時に建てられたものであるとされている。1460-70年代に、チムール族の資力を尽くして建築された。2つの廟の建設主は、アブ・サイドであったという仮説もあるという。
同書は、グル・エミール廟と比較すると、アク・サライ廟は質素である。大きなものではないが、複雑な構造をしている。この建物は、十字状の追善教義のホール、角の僧房、3つの部分に分けられたホールからなっていた。建物の地下には、大理石で外装された八面体の柩があるという。
『イスラーム建築の世界史』は、キリスト教建築との関連による技法の進化は、アーチ・ネットにも現れる。12世紀前半にペルシアに導入された時、アーチ・ネットは天井に多く使われていたが、次第に、移行部に使う、二重にする、井桁状にする、などさまざまな事例を発展させ、ティムール朝期には、移行部の技法の主流としての位置を占めるという。
『中央アジアの傑作サマルカンド』は、ドームの骨は、縦断アーチと楯状のカンバスに支えられている。壁の基礎には、上薬をかけたモザイクのタイルが残っているという。
かなり修復の手が入っているとはいえ、モノクロで見るのとカラーで見るのとで、こんなに違うとは。こんなにギャップがあっても見学できた方が良かったのか、しない方がよかったのか・・・
それでも井桁状のアーチ・ネットはよくわかる。その上にスキンチがあって八角形に、十六角形、ドームと移行していく様子も。アーチ・ネットの間にムカルナスもある。
『イスラーム建築の世界史』は、その影響は、ティムール朝の領域を超え、オスマン朝のチニリ・キョシュク(1472年)やインドのバフマン廟(1423年)へも波及する。
こうした中で、ティムール朝の室内と外観が極端な乖離を見せる二重殻ドームが成立すると、次第に天井が低くなる。その一方で、井桁状のアーチ・ネットを用いることによって、室内が広くなるという。
イスタンブールのチリニキョスク断面図を見ると、中央のイーワーン状のところが井桁状のアーチ・ネットのよう。しかし、断面図は建物の中央部のものなので、主ドームの写真がなく、残念。
それにしても、平面図はアク・サライ廟によく似ている。こちらは墓廟ではないが、主室が十字形になってドームを戴き、十字の袖に4つの部屋を配置するという定型化された建物自体がオスマン朝へと伝わっていったのでは。
でも、井桁状のアーチ・ネットは、他にもみたような。
同書は、この井桁状のアーチ・ネットは14世紀のアルメニア教会の前室(ガヴィット)に使われている。アルメニア建築は、アナトリアのイスラーム建築からムカルナスを取り入れる反面、井桁状のアーチ・ネットを中央アジアのティムール朝建築に与えたのであろう。このように、今までは建築史を宗教別に考えることで相互関係に充分な考察が加えられてこなかった技法もあり、宗教を超えた観点に立つことによって、さまざまな交流が浮き彫りになるという。
アーチ・ネットではないが、井桁状に横断アーチが交差するガヴィットは、アルメニア教会ではもっと早くから見られる。
ガヴィット ハグバット修道院 Hagbat Vank 10-13世紀 アルメニア
教会の西側に付け加えられたガヴィットは、縦横2つずつの大きなアーチが井の字に組み合わされて、曲面の天井を支えている。
神谷武夫氏の「アルメニアの建築 写真ギャラリー」というサイト(現在は閉じられている)に 平面図があった。それによると、両端に部分的に見えているのは、南北壁に2本ずつある付け柱で、それぞれに大きなアーチが架かっている。東壁は教会への入 口両側にある付け柱から、2つの大アーチがこちらに向かっている。同書の別の写真でそのアーチを2本の柱が支えている。この空間には独立した柱はその2本 だけである。
このように大きなアーチ4つで天井やドームを支えていたアルメニア建築が、西方から伝播したイスラームのアーチ・ネットと出会うことで、井桁状のアーチ・ネットが誕生したのだろう。
関連項目
サマルカンドで街歩き2 アク・サライ廟を探して
アーチネットがアルメニアのキリスト教会に
カヴィト kavitはガヴィット gavitだった
※参考文献
「中央アジアの傑作 サマルカンド」 アラポフ A.V. 2008年 SMI・アジア出版社
「トルコの陶芸 チニリキョスクより」 1991年 イスタンブール考古学博物館
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館
「アルメニア共和国の建築と風土」 篠野志郎 2007年 彩流社