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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2015/08/11

火焔山のトユクに組紐文のタイル


東京国立博物館の東洋館では、驚いたことに、トユク(吐峪溝)の出土が幾つか展観されていた。
トユクには行ったことがある。もう10年前のことだが、石窟の見学だけでなく、その小さな谷間の様子がとても気に入った。
それについてはこちら

磚破片 唐時代、8世紀 中国トユク他出土 大谷探検隊将来品
同館説明板は、これらの甎(せん)は、官衙(かんが)、寺院などの建造物の床面に敷かれていたものです。大部分はトユクを中心とするトルファン地方から発見されたものです。ただし雷文甎1枚だけは西安で入手したと考えられますという。
左2点が「本」という文字と花文のある塼、大きな塼には蓮華文、右端も植物文のように見える。

手押型つき長方磚 唐時代、8世紀 焼成粘土 トユク出土 大谷探検隊将来品
説明板は、粘土がまだ乾燥していない状態で手形を押した後に焼成したものです。このほか、中国の旅順博物館と韓国国立中央博物館に類品がありますという。 
大谷探検隊の収集品は、幾つかの博物館などに分散して収蔵されているので、どちらの博物館にある類品も大谷探検隊将来品。

宝相華文方磚 唐時代、8世紀 焼成粘土 トユク出土 大谷探検隊将来品
花弁の表現が独特の宝相華文。こんなに凹凸のある塼が床に敷かれていたら、でこぼこして歩きにくかったのでは。

蓮華文方磚 唐時代、8世紀 焼成粘土 トユク出土 大谷探検隊将来品
一方、線だけが浮き出た塼もある。
覗き花弁のある単葉蓮華文を中央に、小さな花文を四隅に置いて、渦巻く蔓草文を外周に表している。

蓮華文方磚 唐時代、8世紀 焼成粘土 中国トルファン南部城址出土 大谷探検隊将来品
風変わりな蓮華文である。  小さな中房には蓮子がなく、8枚の蓮弁は沈み彫り、その周囲には16弁の浮彫の蓮弁が巡る。
また、上の2点は、敷き詰めると同じ文様の塼が並ぶのに対して、このような塼は、通常四隅に1/4の文様を施して、縦横に並べると、4枚の塼の繋ぎ目にもう一つの文様が現れるように構成されているものだが、これが完形とすると、下側の対角線がどのように繋がったのかがわからない。部屋の端にはこの形でないと敷くことができなかったのかも。

組紐模様タイル 唐時代、8世紀 磚 トユク出土 大谷探検隊将来品
くっきりとは発色していないが、8世紀にすでにあった唐三彩の緑と褐色。

組紐が交差しながらつくり出す形は、ロセッタという甲虫のような六角形の変形したものと小さな小さな三角形、4点星、そして、欠けているが右上辺に8点星らしきもの。
それだけでなく、他のタイルと組み合わせて壁面に嵌め込むことができたのだろうかと心配になるほど、それぞれの辺が歪んでいる。いったい何角形だったのだろう。九角形?
8世紀といえば、中央アジア以西ではまだ施釉タイルが出現していない時代。それなのにと言うか、中国なので不思議ではないというか、これは施釉タイルである。釉薬が溶けた時にできた気泡の痕が残っている。
しかも、2色の釉薬が混ざることなく籠目のような文様をはっきりと表している。組紐には浅い輪郭線を刻んでいるが、それだけで釉は溶けてはみ出さないものだろうか。
ハフト・ランギー(クエルダ・セカ)の初現は、14世紀後半のサマルカンド、シャーヒ・ズィンダ廟群のウスト・アリ・ネセフィ廟とされているのに。
このタイルは、幾何学的な組紐文だけでなく、タイルの施釉技法という点でも、かなり重要な遺品ではないのだろうか。

     アフラシアブ出土の陶器に組紐文

関連項目
幾何学的な組紐文
トマン・アガのモスクには組紐付幾何学文のモザイク・タイル
ハフト・ランギー(クエルダ・セカ)の初例はウスト・アリ・ネセフィ廟
世界のタイル博物館5 クエルダ・セカとクエンカ技法
トユク石窟にアカンサスはあった

※参考文献
「世界のタイル・日本のタイル」 編世界のタイル博物館 2000年 INAX出版
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」 1999年 小学館
「砂漠にもえたつ色彩 中近東5000年のタイル・デザイン展図録」 2001年 岡山市立オリエント美術館