お知らせ

忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/03/04

尖頭交差ヴォールト天井はゴシック様式


ロドス島のヨハネ騎士団長の館は14世紀に建てられたゴシック様式の建物である。

ゴシック様式とすぐに分かるのは、このリブ(肋)と尖頭交差天井である。

ロマネスク様式の建築の特徴は、半円形のトンネルヴォールト天井である。

『中世の大聖堂』は、最も初期の大聖堂の屋根は簡単な梁組みの上をスレートや瓦で葺いたものであったという。
テッサロニキのアヒロピイトス聖堂(450-470年)など初期の教会やローマのサンクレメンテ教会(12世紀)では、梁組みの天井になっている。

同書は、建設技術がすすんでくると、「バレル・ヴォールト」(半円筒形のヴォールト)が用いられるようになった。それは内側から見るとトンネルのようで、つぎつぎと並んだ半円形のアーチがなめらかな曲面を支えているといったものであったという。 

『図説ロマネスクの教会堂』は、トンネルヴォールトでは横圧力と垂直荷重は下の壁体に均一にかかる(矢印)ので、壁体に大きな開口を設けることは難しいという。

同書は、交差ヴォールトはトンネルヴォールトの欠点を補うヴォールトであり、すでにローマ建築で一般に用いられていたが、ロマネスク建築では直接ローマ建築からというよりも、坑道式クリュプタにおけるトンネルヴォールトの交差部分やクリュプタ周歩廊の貫入トンネルヴォールトなどから発展していったものと考えられるという。

同書は、まったく同じ大きさのトンネルヴォールトを垂直に交差させることによって、トンネルヴォールトとは別のヴォールト、すなわち交差ヴォールトをつくりだすことができる。
こうして生み出される交差ヴォールトでは、横圧力は直角な2つの方向に分散され、4つの側面すべてが開放されるようになる。交差ヴォールトでは、横圧力と垂直荷重は4つの脚の部分に集中するので、この4点の下に壁や柱などの支持体を設ければよい。また、横圧力は、直交する2つの方向に二分される
という。

確かに、ローマのコロッセオでは、通路の天井が交差ヴォールトになっていて、その両側は壁ではなく、角柱が並んでいた。

同書は、交差ヴォールトを支えるには、壁ではなく、角の4点を柱などで受ければよく、柱と柱の間には大きな窓をあけることが可能になる。交差ヴォールトは、トンネルヴォールトが下の支持部分に要求した壁構造を骨組み構造に変換し、石造建築に新たな可能性を与え、ゴシック建築への道を開いたといえるという。

『ロマネスクの教会堂』は、ロマネスクの末期には、イギリスのダーラム大聖堂において交差リブヴォールトが用いられた。交差リブヴォールトとは、交差ヴォールトの稜線にリブ(オジーヴ)という骨組みを配したもので、いくつかの点で交差ヴォールトより優れ、ゴシック建築ではもっぱらこのヴォールトが使用されるようになるという。

『中世の大聖堂』は、後の時代の建築家たちはもっと野心的で、天井をそびえ立つような高さの先尖りアーチのついた石のヴォールトでつくった。この石のアーチ群は複雑な交差模様をなす「リブ」(肋骨のような内側の支え)となり、柱の間のスペースを横切ってかけ渡されていた。
最初に木の骨組み(仮枠)がつくられ、アーチをつくるべき場所にすえられる。
次にアーチ(リブになる)が仮枠の上につくられ、たがいに交差しながら柱の上のスペースを横切り、丈夫で軽量の「かご」をかたちづくる
という。


同書は、こうすると次に石のリブどうしの間のスペースはそれよりまだもっと軽い材料、たとえば煉瓦や漆喰などで埋めることができる。これらが内側の覆いとなる。さいごに木の仮枠が外されるという。
交差ヴォールトを幾つも連続して架けて、ゴシック様式の軽やかな尖頭交差ヴォールト天井となる。
このようにして、ゴシック様式の教会は、側廊や後陣の壁体には窓という開口部を広くとれるようになり、そこに色彩豊かなステンドグラスが嵌め込まれるようになっていった。

両側が壁体のこの空間には、交差ヴォールト天井ではなく、尖頭リブヴォールト天井が架けてある。
『中世の大聖堂』は、時代とともにリブはもっともっと精巧な模様を描いて配置されるようになる。そしていつのまにか、ほとんどのリブは全く構造的な目的は役立たなくなってしまい、純然たる装飾のためにつくられるようになったという。
でも、この十字軍の拠点では、リブは装飾ではなく、必要な骨組みだっただろう。

ロマネスク美術が好きなのに、何故かゴシック様式を先にまとめることになってしまい、やや混乱気味のまとめとなりました。

関連項目
ロドス島6 ヨハネ騎士団長の館1
ロドス島7 ヨハネ騎士団長の館2
テッサロニキ6 パナギア・アヒロピイトス聖堂1 フレスコ画
3-1 コロッセオ(Colosseo)へ
4-1 サンクレメンテ教会(San Clemente)、地上階は12世紀のロマネスク様式

※参考文献
「L’ART ROMAN」 HENRY MARTIN 1946年 FLAMMARION
「L’ART GOTHIQUE」 HENRY MARTIN 1947年 FLAMMARION
「図解ライブラリー 中世の大聖堂」 フィオーナ・マクドナルド ジョン・ジェィムズ 1993年
「図説 ロマネスクの教会堂」 辻本敬子 ダーリング・益代 2003年 河出書房新社
「ロマネスクの園」 高坂知英 1989年 リブロポート
「中世 祈りの造形(かたち)」 山崎脩 1996年 東方出版