お知らせ

忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/01/10

イコノクラスム以前のモザイク壁画6 アギオス・ディミトリオス聖堂2



今回は6世紀と7世紀の聖人像を比べてみた。

6世紀 南側廊西端 聖ディミトリオス
長衣は右肩で留められ、袖がないので、左手を挙げれば長衣の衣端がたくし上がり、足元の裾から曲線を描きながら左手首に至っている。
胸の前を斜めに通る襞は、左手を挙げたためにできたものだ。
一見平板に見えるが、遊脚の左足が前に出ている様が着衣を通してわかる。
頭光の金箔テッセラは横に並んでいる。
聖ディミトリオスは黒目がちで、少し微笑んだような口元の穏やかな顔をしている。
ほかの6世紀のモザイクには、着衣が裾までわかるものはなかった。

7世紀

左角柱西面 聖ギオルギオスと2人の子供
左の衣端がどのように表現されてたか見たかったが、子供で隠れている。
頭光の金箔テッセラは同心円状に並んでいる。
聖ギオルギオスは目を大きく開き、口元に笑みはない。

東面 聖ディミトリオス
左の衣端は、前側も後ろ側も三度ほど折れながら裾に向かい、全体に緩やかな曲線の輪郭となっている。
頭光の金箔テッセラは同心円状に並ぶ。
聖ディミトリオスは白目がちで上の方を見ている。

右角柱東面 聖ディミトリオスと聖人
前側の衣端だけがジグザグに折れながら裾に向かっている。
頭光の金箔テッセラは同心円状に並ぶ。
聖ディミトリオスはやや上の方を見ていて、口元に笑みはない。

北面 聖ディミトリオスと2人の聖職者たち
右足側の裾よりも左足側の裾の方が上がっている。
頭光の金箔テッセラは同心円状に並ぶ。
聖ディミトリオスはやや弱々しい表情だ。

西面 聖セルギウス 7世紀
左袖下には二重のジグザグ文がある。大きな、おそらく連珠文やクローバーの文様が、衣文線で途切れることなく描かれているのは、日本の平安仏画などにも見られる。
頭光の金箔テッセラは同心円状に並ぶ。
聖セルギウスは目を見開いている。

このように見ていくと、6世紀の着衣は、左手を挙げたときにできる襞が自然であるのに比べて、7世紀のものは、右手側は直線、左手側は曲線と定形化された着衣と、前側だけ、あるいは前後の衣端の下の方がジグザグになっている。
6世紀には襞をジグザグに表すことがなかったわけではない。南側廊西端の聖ディミトリオスの傍の幕はジグザグの衣端となっている。
もっと言うと、このジグザグの衣端はアルカイック時代の彫像にすでに見られるし、日本では白鳳時代の仏像にも見られるものなので、興味深い。
それについては後日

また、頭光の金箔テッセラの並び方は、6世紀には横方向だった(身廊西端北側の聖ディミトリオスの頭光は同心円状)が、7世紀になると同心円状に並ぶようになった。

それにしても、6世紀ま聖ディミトリオスはモデルがいるかと思うような生き生きした表情だが、7世紀になると、何の感情もなく、正面あるいはやや上方を見ている。


北側通路の聖ディミトリオスは同じ6世紀のモザイクとされるが、少年の肖像画のように描かれている。

イコノクラスム以前のモザイク壁画5 アギオス・ディミトリオス聖堂1
イコノクラスム以前のモザイク壁画7 パナギア・アヒロピイトス聖堂1 モティーフいろいろ
                       
関連項目
テッサロニキ3 アギオス・ディミトリオス聖堂1  モザイクとフレスコ
マケドニア朝期のモザイク壁画1 アギア・ソフィア大聖堂
イコノクラスム以前のモザイク壁画4-「ゆらぎ」は意図的に
イコノクラスム以前のモザイク壁画3 ラヴェンナ
イコノクラスム以前のモザイク壁画2 破壊を免れたもの
イコノクラスム以前のモザイク壁画 聖像ではないので

※参考文献
「世界歴史の旅 ビザンティン」 益田朋幸 2004年 山川出版社
「ビザンティン美術への旅」 赤松章・益田朋幸 1995年 平凡社
「地中海紀行 ビザンティンでいこう!」 益田朋幸 1996年 東京書籍
「SAINT DIMITRIOS」 IOANNIS C.TASSIAS 2007 DIMITRIOS ALTINGIS