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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/07/23

古代ガラス展2 青いガラス



色ガラスの中で一番古いものは青色のガラスだろう。
『古代ガラス-色彩の饗宴展図録』は、固くて透明な石英の粒が、ガラスの原料です。この石は1800度もの高温にならないと熔けませんが、植物の灰やナトロンなどのアルカリ分を加えると、1000度以下でも熔けてガラス化します。銅精錬の際、高温でガラス化した窯壁やスラグ(鉱滓)から、偶然ガラスができたのかも知れません。
現在発見されている最古のガラスはメソポタミアのテル・ブラク遺跡のもので、紀元前2350-前2100年頃といわれています。次に古いのが今回出品されるメソポタミア・エリドゥ遺跡のガラス片です。紀元前2050年頃の青ガラスで、着彩にはコバルトと銅が使われていましたという。

ガラス片 イラク、エリドゥ出土 前2050年頃 ガラス(植物灰) コバルトと銅イオンによる青、一部に金属ナノ粒子または酸化銅による赤色 3.4X3.8㎝ 大英博物館蔵
現在知られている最古の青色ガラスの塊。表面には多数の気泡の痕跡が認められる。本展開催にともなう非破壊蛍光X線分析の結果、コバルトが検出され、人類最古のコバルトブルーガラスであることが判明したという。
このコバルトブルーのガラスで、当時はどんなものが作られたのだろう。
初期のガラスは青色が多く、ラピスラズリやトルコ石を意識したと考えられます。実際に古代メソポタミアの粘土板文書には、「山のラピスラズリ」と「窯のラピスラズリ」という言葉が見られます。またエジプト新王朝時代には、青いガラスが゜「人工のラピスラズリ」とよばれていましたという。
高価な貴石の代替品として、青色ガラスを作っていたらしい。

ブレスレット(部分) エジプト 前20-前11世紀 ラピスラズリ、金 4.8X14.5㎝厚0.3㎝ MIHO MUSEUM蔵
黄金とラピスラズリで構成された腕輪である。ビーズの直径はわずか2ミリと小粒で、ラピスラズリ塊からこの小さなビーズを、ここに使われただけで1100個以上も削り出すのは、なかなか手間であっただろう。両脇の金製金具のビーズ側との合わせ面や、ビーズ8個ごとに間に入れる金具も、ビーズと見紛うよう作り込まれたデザインである。一切手抜きのない技術の高さと、シンプルかつノーブルな美の感性が見て取れるという。
ペンダント メソポタミア 前15-前13世紀 ガラス(植物灰) 本体:鉄による黒と無着色の白 ビーズ:銅イオンによる透明の青 5.0X4.4㎝ 大英博物館蔵
黒色ガラスを用いた円盤形のペンダント。底面は平滑で、突出部には紐通し孔が設けられている。上面は2条の白色不透明ガラスによって区画され、外区に9つ、内区に1つ、紐通しに1つの連珠装飾が施される。連珠はそれぞれ白色不透明ガラスの上に青色透明ガラスを貼り付けており、重層貼付文のビーズを想起させる装飾であるという。
コバルトを使うと濃紺に、銅を使うとトルコ石のような色になる。
青色ではあるが、透明なガラスがこの頃にすでにできていたのか。
方形ビーズ 北メソポタミア 前15-前13世紀 ガラス(植物灰) 銅イオンによる青+アンチモン酸カルシウムによる白濁 3.5X5.0㎝厚1.2㎝ MIHO MUSEUM蔵
こちらもトルコ石のような色に仕上げている。
開放鋳型で鋳造されたもので、繋げばネックレスなどにできるように、上下2本ずつの貫通孔があるという。
以前から、このような細い孔は、工具であけたのか、制作時に何かを入れて後で取り出したのかが謎だった。それについては、別の作品の解説で納得できた。
孔がまっすぐに貫通しており、ドリルなど工具による穿孔とは考えにくい。穿孔する位置に炭棒などを鋳型にあらかじめ仕込み、鋳造したものと考えられているという。
ビーズの文様は何だったのだろう。植物の茎を並べたり、束ねているようにも見える。
ファラオ頭部(おそらくアメンホテプ3世) エジプト 前1401-前1363年 ガラス(植物灰) コバルトによる青+アンチモン酸カルシウムによる白濁 高16.8㎝幅16.2㎝奥行10.5㎝ MIHO MUSEUM蔵
古代のガラス製品にしては大型の部類に入る。顔部分を鋳造した上にコールドカットを施し、目と眉に象嵌を施して磨いて仕上げている。当時の技術ではこのような大型塊を作成することは非常に困難だったようで、唇の下から顎にかれての部分に古代の補修痕がみられる。おそらくは顎の部分は鋳造の徐冷過程で割れてしまったタメ、ホゾ穴を作り、ダボ(木釘)で繋いだのであろう。大まかに鋳造したガラス塊の段階で壊れた部分を繋ぎ、その後に顔全体に磨きを施して成形したという。
MIHO MUSEUMでは平常陳列のエジプトコーナーでいつも見かけていた、やや不気味な顔。欠けているためか、ルクソール西岸クルナのアメンホテプⅢ葬祭殿出土の石造のとは雰囲気がかなり違う。
アメンホテプ3世期のガラスは、銘のある青色のものがビーズと蓋付容器、そして白色の蓋付容器と3点出品されている。
他に、王家の谷・西谷アメンヘテプⅢ世墓出土(KV22)のガラス容器断片も見たことがある。
『早大エジプト発掘40年展図録』は、コバルトブルーやスカイブルーを基調とするガラス製容器は、アメンヘテプⅢ世時代にマルカタ王宮で盛んに生産され、特にコア技法を用いた複雑な装飾の多彩色ガラス製品が生産された。ガラス製作技術は、新王国時代初めに西アジアからもたらされ、アメンヘテプⅢ世の時代に最盛期を迎えた。当時、ガラスは珍しく高価でであったためガラス生産は王の管理下に置かれていた。マルカタ王宮、アマルナ王宮などで工房址が発見されているという。
そんな時代だからこそ、このようなガラスの塊の顔というものも作ることができたのだろう。
首飾り エトルリア 前6-前4世紀 ガラス(おそらくナトロン)、金 コバルトと銅イオンによる青 全長50.5㎝ ビーズ:径1.3-1.5㎝ MIHO MUSEUM蔵
コバルトと銅の両方を使って濃紺という色をつくることもあったのか。それともそれがエトルリアガラスの特徴なのだろうか。
表面が銀化した不透明紺色のガラスビーズと、金製ビーズを組み合わせた首飾りである。3種類の金製ビーズのうち、最大のペンダント形ビーズはレンズ豆の形をしており、上部に円筒形金具と2つの円環を付け、粒金細工風に刻みを入れた金線で装飾されている。中央両脇の円筒形ビーズには同様の金線でパルメット文が施され、その他のビーズは無文である。これらは典型的なエトルリアのデザインであるという。 
ガラスビーズだけではエトルリアという名前は出てこないが、粒金あるいは粒金に似せた刻みを入れた金線という言葉を目にすると、エトルリアが思い浮かぶ。
パルメット文の粒金風金線というのはわからなかった。 
塔門、聖骨函形ペンダント エジプト 前6-前3世紀 ガラス(ナトロン) コバルトと銅イオンによる青 高6.9㎝幅6.6㎝ 平山郁夫シルクロード美術館蔵
エトルリアだけでなく、エジプトでもコバルトと銅で青色を出したようだ。
塔門あるいは聖骨函形の胸飾り。上部突起に紐通し孔が横向きに貫通しており護符垂飾(ペンダント)として着装。鋳造後カットして成形。下方に広がる四角形状で、側面は丸みをもたせているという。
ウジャトの目やアンク、ジェド柱形の護符などはよく見かけるが、このようよな形の護符は初めて見た。
長頸壺 東地中海地域 前3-前1世紀 ガラス(おそらくナトロン、ただし著量の鉛を含む) コバルトと銅イオンによる青+アンチモン酸カルシウムによる白濁 高14.0㎝径13.2㎝ MIHO MUSEUM蔵
青色不透明ガラスを鋳造した、形の美しい器である。ボディのもっとも太い部分にわずかな溝があり銀化が入り込んでいるので、おそらくこの線で上下に分けて鋳造し、再び熱を加えて接着し研磨したものと思われる。口縁、頸部の中間および付け根、高台の内外に刻まれた装飾紐の冴えは、この作品を作った職人の卓越した石彫技術を示しているという。
青い表面を多う白っぽいものは、銀化だと思っていた。この「アンチモン酸カルシウムによる白濁」という言葉が、今回の古代ガラス展では銀化よりも目に付いた。
魚形容器 東地中海地域あるいはイタリア 後1世紀 ガラス(ナトロン) コバルトによる青 高2.3㎝ 5.4X22.4㎝ MIHO MUSEUM蔵
コバルトだけでも濃紺ではなく明るい青色になるのは、濃度によるのだろう。
青色半透明ガラスで鋳造された魚形の容器で、目、口、エラ、ヒレ、尾の文様などを溝で削り出しており、溝の中には銀化が確認できる。器の中央部が平坦になっている。コーニングガラス美術館にこの魚と非常によく似た意匠でサイズの大きな魚形容器が収蔵されている。それは容器の蓋で、身はスペイン、バルセロナのMacayaコレクションにあるという。
魚形の容器には、いったい何を入れたのか。当時スイーツというものがあったのだろうか。
私なら、クッキーやロクムのような干菓子を入れてこの蓋を開けては食べてみたい。

つづく


関連項目
古代ガラス展6 金箔ガラス製メダイヨン
古代ガラス展5 金箔ガラスとその製作法
古代ガラス展とアンティキティラ島出土物 円錐溝ガラス碗
古代ガラス展3 レースガラス
古代ガラス-色彩の饗宴-展はまさに色彩の饗宴だった
粒金細工はエトルリア人の発明ではなかった
ジェド柱は葦を束ねたものか?
その他ガラス・ファイアンスに関するものは多数

※参考文献

「古代ガラス 色彩の饗宴展図録」 MIHO MUSEUM、岡山市立オリエント美術館編 2013年 MIHO MUSEUM
「吉村作治の早大エジプト発掘40年展図録」 2006年 RKB毎日放送株式会社