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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/05/29

アーチ・ネットは後ウマイヤ朝が起源



コルドバのメスキータと言えば、二階建て馬蹄形アーチの柱廊が有名だ。以前にこの馬蹄形アーチの起源を探したことがあったが、辿り着けずに関心は別の方面に移ってしまった。その次に興味をもったのが、金地のガラスモザイクだ。それについてはこちら
そして今メスキータで一番気になっているのが、アーチを籠状に用いたアーチ・ネットのこのドームだ。
8本のアーチで大きく8点星を表している。
しかも、このドーム一つだけではない。マクスーラと呼ばれる貴賓席の3つのドームに、それぞれ異なったアーチ・ネットが架かっているらしい。

メスキータのヴォールトには3種類のアーチの架け方がある。一つは正方形の中に正八角形を入れ込む。そしてこの八角形において隣り合う正八角形の頂点にアーチを架ければ普通のスクインチ・アーチとなる訳であるが、一つ隣の頂点にアーチを架けることによって、正八角形の中に頂角が90度の8点星が造られる。こうして、本来の必要とされるドーム径をルート2分の1に縮小することができるのであるという(上図及び下図①)。
第2の方法は、さらにもう一つ隣の頂点にアーチを架けることによって、正八角形の中に頂角が45度の八点星が造られるという(下図②)。
第3の方法は、2種類のスパンのアーチを使う方法で、正方形の辺の隣り合う中点を結ぶアーチと、正方形の辺長と等しい井桁に配されたアーチを用いる。こうしてドーム径を二分の一に縮小することができるという(下図③)。
②型は、トレドのバーブル・アル・マルドゥームにも見られる。

バーブ・アル・マルドゥーム Bab al-Mardom、現在はクリスト・デ・ラ・ルス Cristo de la Luz 999-1000年
10世紀末に建立されたバーブ・アル・マルドゥームのモスクは、その後キリスト教会となって、一般的にはクリスト・デ・ラ・ルスと呼ばれている。現在でもほぼ創建時の姿を留めている。
ほぼ同時代の、同じくスペインのトレドには、9つに分割された天井部に様々な種類のアーチ・ネットの試行例がみられ、当時の職人達の技術追求の関心がアーチ・ネットにあったことが読み取れる。アーチを組紐のように交差させる点、アーチをリブとして籠のように交差させる点に関しては、いまだそのルーツは解明されていないという。
正方形からスキンチ・アーチを用いて八角形とし、その中に②型アーチ・ネットを架けてドームを載せている。
しかし、メスキータの②型アーチ・ネットと違うのは、八角形の各角からアーチが出ているのではなく、各辺から出ていることだ。
『世界美術大全集東洋編17イスラーム』は、内部は9つの正方形に区分けされ、それぞれの正方形部分に異なったパターンのリブをもつドームが架けられているという。
アーチ・ネットが発明されてすぐにいろんなアイデアが生まれたらしく、小さなモスクの天井に9種類も使われた。
上図は真ん中のアーチ・ネットだが、下図のような細い線の稜は見られない。
その外観
アーチ・ネットがアーチを立体的に組み合わせたものなら、右外壁の3つのアーチ門の上に展開するのは、アーチの平面的な展開ということになるだろう。
左壁の3つの半円アーチよりも細身でだが、軽快な装飾だけでなく、上部の荷重を下部に分散させる本来の機能も持ち合わせている。
左壁の半円アーチ列の上には多弁形アーチ列が並ぶなど、小さな建物なのに、内側のドームも外壁も、アーチを組み合わせることにこだわった建物だ。
このようにアーチを立体的に組み合わせて籠状にすることでドームを支えたアーチ・ネットだが、スペインからどのように伝わってアルメニアでも採り入れられたのだろう。

関連項目
アーチネットがアルメニアのキリスト教会に
アーチ・ネットは何故アルメニア教会にもあるのか
イスラームのムカルナスがアルメニア教会に

※参考文献
「イスラーム建築のみかた 聖なる意匠の歴史」深見奈緒子 2003年 東京堂出版