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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2011/04/16

八木洋子氏のモザイクガラスにびっくり

田上惠美子氏の個展に来られていた八木洋子氏はモザイクガラスの作家である。
モザイクガラスとは何か?
最近取り上げたガラスモザイクは、色ガラスのテッセラを組み合わせた壁面装飾をいうが、モザイクガラスは小さなガラス片を組み合わせて器にしたものである。
そして、ガラスモザイクに使われるのは単色のガラス片であるのに対し、モザイクガラスのガラス片は、一つ一つに文様がある。というよりも、このような文様になるように色ガラス棒を組み合わせて、伸ばして、金太郎飴のように切っていくことでようやくできる、手の込んだものだ。

モザイクガラス容器片 東地中海地域あるいはイタリア 前1-後1世紀 ガラス
『古代ガラス』は、あらかじめ断面に文様が現れるように作られたモザイク単位を並べて加熱し、成形した容器の断片である。さまざまな色彩と文様をもつモザイク単位が使われたことがわかる。最下部中央は、青色ガラスの地に白色ガラスの縞のあるモザイク単位と、黄色と赤色のガラスを無色透明ガラスで挟んだモザイク単位で構成された容器断片である。口縁部には青色ガラスに白色ガラスを巻き付けた棒が貼り付けられているという。
元は同じ形だったモザイクガラス片が、溶けて一つ一つ形が変形している。
八木氏には数年前に、やはりART BOXの田上氏の個展で紹介された。その時に付けておられた小さなペンダントを拝見してびっくり。木のような質感だったが、ガラスだった。しかも、ものすごく細かいモザイク片をきっちりと並べて、モザイクガラスにありがちなずれや歪みが全くなかったのだった。更に驚いたのは、ペンダントの文様のある面からのぞくと、向こうが見えたのだった。
その時はモザイクガラスのブレスレットもされていて、それは今回左手首にはめておられるものと同じだったので思い出した。しかし、思い出したのは、田上氏から「前に会ったことがあるでしょう?」と言われた後のことだった。
その時に田上氏と八木氏のものづくりについての話をいろいろと聞いて非常に興味深かったので、また田上氏の個展でお話が聞きたいと思っていたのに、人の名前と顔を覚えられないので失礼してしまった。

今回は名刺をもらったので、忘れへんうちに、ページの一つに保存しておこう。
名刺の表裏には作品の写真があった。うわー、やっぱりモザイク片1つ1つに寸分のずれもなく作品が仕上がっている(作品が大きく出るようにしたため、名刺の比率とは異なっています)。

お二人の会話を耳に挟んだ。
田上氏 あの大きな作品
八木氏 うーん、ま、トンボ玉と比べると大きいわね
名刺の2つの作品は、いったいどんな大きさなのだろう?

名刺にホームページのアドレスがあったので開いて見た。八木氏の作品は、モザイクガラスというよりも、フュージングというジャンルらしい。
アドレスはこちら


「ブログであれこれ」の2011年4月12日「コーニングのクラス実施されます!」に名刺の日本語側の作品が載っていた。コーニングはあのコーニングガラス美術館(Corning Museum of Glass)?そこでモザイクガラスの講座を開かれるのか、すごい!
コーニングガラス美術館のホームページはこちら

名刺の日本語側の作品は、やっぱり一つ一つのモザイク片が、細胞のように隙間なく並んでいる。蓋は様々な色の中に白いモザイクガラスが見られ、底の部分は白いモザイクガラスだけで構成されている。いや、白いガラスだろうか。無色透明なガラス地に白色ガラスが文様になっているのでは?
もっと画像が大きかったら、白いモザイクガラス片の文様もわかるのに、そう思っていたところ八木氏より大きな画像を送って頂いた。
サイズは約13x25x5cm。想像していたよりも大きい。
あの底板は透明と2種類の半透明白を使って、5−6種類の文様のモザイク(私たちガラスフュージングの世界では通常イタリヤからの流用でムリーニmurrineと呼びます)を使っていますとのことだった。
なるほど、これだけ大きな図版だと、白っぽく見える底板のムリーニも、いろんな種類のものがあることがわかる。白っぽいムリーニばかりで作った作品もいいなあ。
古代のモザイクガラス容器はどんなものが残っているのだろう。

浅鉢 東地中海地域 前2-前1世紀 高32㎝口径13.2㎝
『MIHO MUSEUM 古代ガラス展図録』は、モザイクガラス小片を型に並べて鋳造した浅鉢。口縁部はやや立ち上がり、側壁は丸みを帯びた底部へとなだらかに移行する。器体は、黄褐色透明、紫色透明、白色のガラスを溶着してして切断した、4種類の渦巻文と縞文のモザイクガラスで構成され、所々に黄色、白色、青色、黄緑色の不透明ガラスの断片が配される。また口縁部には黄褐色透明ガラスに白石ガラスを螺旋状に巻き付けた紐を貼り付けている。内外面ともなめらかに磨かれる。透明ガラスと不透明ガラスで作られた渦巻文と縞文は、ヘレニズム時代に特徴的なモティーフの1つである。透明ガラスと不透明ガラスを組み合わせたことによって、器面に多様な変化がもたらされているという。
この作品を見ると、黄・青・白などの色ガラスは形がそれぞれ異なっている。元の形は恐らく四角形だったことを面影は残っているという程度に、溶けて、周囲のガラス片の隙間に入り込んだり、押されて歪んだりしている。3本の縞もそれぞれが溶けて曲がったり、伸びたりしているし、渦巻文も歪んでいる。
このようなずれや歪みが八木氏の作品には見られない。いったいその違いは何だろう。この浅鉢は地の黄褐色透明ガラスの面積が広いので、文様が流れているように感じるだけなのだろうか。
モザイクガラスの鉢や碗は下図のように作られるとされている。窯でガラス片が溶けている間に、下へ下へと動くために、文様が伸びたり、歪んだりしてしまうのだ。
もう少し胴部分のわかる図版があった。

皿と鉢のセット 東地中海地域あるいはイタリア 前1-後1世紀 皿:高2.1㎝口径15.7㎝底径9.9㎝ 杯:高4.0㎝口径9.2㎝底径4.1㎝
モザイクガラスの小片を型に並べて鋳造した皿と杯である。底部に暗褐色のガラスを巻き付けて高台としている。暗紫色透明、緑青色透明、黄色、白石、赤色、緑色のガラスをさまざまに組み合わせた棒を切断して作られた3種類の同心円文と渦巻文、そして少数の縞文のモザイクガラス片が使われている。多様な同心円文はローマ時代に特徴的なものであった。
これらのモザイクガラス容器が贅沢な食用・飲用の器として華やかに彩ったのであろう。当時の豪華な宴席を知る貴重な手がかりとなるという。
地となる暗紫色透明ガラスの配分が多いせいか、皿よりも碗の方が文様の流れ方が強い。
では、八木氏の作品は、平たい面の組み合わせだから歪みが生じないのだろうか。

しかしながら、名刺の英語側には球に近い器の写真がある。鉢どころか、鉢を上下逆にして重ねたような球である。
「作品写真」の右下の「ロールアップⅡ」と開いていくと、「Jyusoku」と名付けられたものが、この作品なので、かなり拡大して見ることができる。
曲面となっているために、文様に全く歪みがないとは言えないが、上の古代の3点の器のように、文様が流れてはいない。それはひょっとすると、「地」となるガラス片で文様のあるガラス片の間を埋めるということをしていないからだろうか。
それにしても、このように球に近い作品は、どのようにしてつくるのだろう。コアガラスのように、作品が冷めてから内型を掻き出せるような粘土などで作っているのだろうか。
そういえば球形にモザイク片(ムリーニ)を貼り付けたものに人面トンボ玉がある。球の形のベースに人面のムリーニを貼り付けて加熱すると、やっぱり歪んでしまっている。その上球のすぼまったところには貼り付けられていない。球の形に、模様を歪めることなく貼り付けるというのは至難の業に違いない。

八木氏のホームページをあちこち開いているうちに、あっと驚く仕掛けを見つけた。しかし、理解できたわけではない。
これについての丁寧な説明文もあって、おぼろげながらわかってきた。しかし、ミステリアスな部分も残しておきたいので、ここには記さない。
八木洋子氏のホームページはこちら

※参考文献
「古代ガラス展図録」(2001年 MIHO MUSEUM)
「MUSAEA JAPONICA3 古代ガラスの技と美 現代作家による挑戦」(古代オリエント博物館・岡山市立オリエント美術館編 2001年 山川出版社)