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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2010/04/30

イコノクラスム以前のモザイク壁画4-「ゆらぎ」は意図的に

ラヴェンナにはイコノクラスム以前のモザイク壁画の残る聖堂が多く残る。そこには「バラツキ」あるいはゆらぎが存在するだろうか。

文様帯及びハトの図 ガッラ・ブラチディア廟堂、天井への移行部とその下のアーチ部分 424-450年  

アーチ部分には緑色から紺色へグラデーションの帯に金のグラデーションが挟まっているが、縦にも1列に異なる色の線がある。
アーチから天井への移行部との境目は曲面になっていて、紺地に金の唐草文様が表される。

天井への移行部には明るい金色、暗い金色そして紺色へと変化して、地上から空への変化を表している。 
早い時期に造られているにもかかわらず、ガラス・テッセラが整然と並んでいる。
聖者 正教徒洗礼堂内部 449-452年 
『ビザンティン美術への旅』は、低い壁面のアーチとアーチの間にできる三角形の空間には、楕円の金の枠取りの中、聖者が表されているという。 
おそらく小さな壁面のためテッセラが大きく見えるのだろうが、ガッラ・ブラチディア廟のテッセラと同じ大きさかと思うほどだ。
そんな少ない数のテッセラで、聖人の服には、衣文線も色を変え、白い布にもグラデーションのある色の変化をつけるなど、立体的な表現をしている。 
そのような表現からすると、聖人の周囲を埋める金色のテッセラが色も形様々であるのは、意図的なものと考えられる
ライオンと蛇を踏みしめるキリスト 大司教館付属礼拝堂 494-519年  
壁面からヴォールト天井には黒い枠線があり、テッセラが整然と並べられている。アーチ形移行部は凹曲面となっていて、くりくりとよじれながら表と裏を見せるリボンは、グラデーションによって立体的に表現されている。この立体的な表現はキリストにも当てはまる。 

しかし、キリストの背後やヴォールト天井にはそれが見られない。ただ空間を金色のテッセラで埋めただけのようで、返ってそこに「バラツキ」が感じられる。 
また、ヴォールト天井の花文様のようなものは、よく見ると中央の赤い花から白い横向きの花が十字架のように出ていて、アヤ・ソフィアの天井の文様を想起させる。 アヤ・ソフィアのものが再建当時のものだとしても537年なのでこの花十字の方が早い。
テオドラと従者たち ラヴェンナ、サン・ヴィターレ聖堂アプシス 547年頃
上の人物像と同じく顔など細かい表現をしているところは小さなテッセラを使っている。ユスティニアヌスの皇妃テオドラは俗人であるが頭光が表され、その中は金色のテッセラが同心円状に埋め込まれている。
背景部分はモザイク職人が違うのではないかと思うほど、テッセラは適当に貼り付けられている。 
最後の晩餐 サンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂身廊側壁 5世紀末-6世紀初 
テッセラの大きさがほぼ1㎝角だとすると、この絵はかなり小さなものだろう。 
ローマ時代には食事は台の上に寝そべって中央のテーブルから取って食べていたらしいが、それがよく表現されている。
寝台は4つに区切られその一つ一つが色の違うテッセラが巡っている。金にもいろんな色があって、ほぼ大きさのそろったものを巧みに配置したようだ。
背景では、大きさも形も色もバラバラの金色のテッセラを水平に並べようとしてある。  
変容部分 ラヴェンナ近郊、サンタポリナーレ・イン・クラッセ聖堂 549年頃
『光は東方より』は、この画面の文字通り中心になっているのは、地平線の上に浮かぶ巨大なメダイヨン(円盤)である。円の中には無数の金銀の星がまたたき、それを背景に十字架が現れる。十字架とメダイヨンの縁は宝石で飾られている。十字架の交差部分にはキリストの顔が描かれている。が、その顔はいかにも小さく、この大きな画面の中ではほとんど目につかないという。 
テッセラは十字架の外側数列を除いては整然とは並んでいない。特に金色のテッセラは形も色もバラバラで、乱反射してキラキラ輝いているようだ。  
イコノクラスム以前の初期キリスト教美術では、テッセラは整然と並んだところと適当に貼り付けられたような部分とが混在する。整然と貼り付ける技術もあったので、適当に貼り付けたのではなく、意図的にそのように貼り付けていたのかも。
それを考えると、「バラツキ」が「ゆらぎ」を生むことを知っていて、テッセラの角度も意図的に変えて貼り付けたのだろう。
イコノクラスム以前のモザイク壁画3 ラヴェンナ
          →イコノクラスム以前のモザイク壁画5 アギオス・ディミトリオス聖堂1

関連項目

イコノクラスム以前のモザイク壁画7 パナギア・アヒロピイトス聖堂1 モティーフいろいろ
イコノクラスム以前のモザイク壁画6 アギオス・ディミトリオス聖堂2
イコノクラスム以前のモザイク壁画2 破壊を免れたもの
イコノクラスム以前のモザイク壁画 聖像ではないので

※参考文献
「世界美術大全集6 ビザンティン美術」(1997年 小学館)

「NHK日曜美術館名画への旅2 古代Ⅱ中世Ⅰ 光は東方より」(1994年 講談社)
「ビザンティン美術への旅」(赤松章 益田朋幸 1995年 平凡社)