ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2009/11/10
紫檀木画槽琵琶のトラは年賀には不向き
正倉院展では、ところどころに拡大写真のパネルがあり、小さくて分かりにくい文様などをじっくりと観察できるようになっている。四弦琵琶の捍撥部分もその一つだった。
紫檀木画槽琵琶、捍撥(かんぱち、撥受け)
革を貼って全面に鉛丹を地塗りし、その上に緑青や群青・水銀朱、鉛白の上から藤黄をかけた鮮黄色、墨などを用いて狩猟宴楽図を描いており、仕上げとして画面全面に油が塗られている。ただしこれらの油は経年変化で黄褐色を呈しており、現状では土坡や水面を中心として全体に黒っぽくみえる。画面は、下方から上方にかけて近景・中景・遠景の3段に画きわけられているという。
実物が大勢の人で見られないので、まず拡大写真から見ることにした。遠景では、左上部の切り立った崖の下にサルがいて、騎乗の人物たちをおちょくっているように見えた。左手の平を口元まであげて、人間に声を掛けているのでは?
しかし解説は遠景には山中で弓を射る四人の騎馬人物とこれに立ち向かう虎が画かれるという。
トラ?そう言われると体に縞がある。トラだとしても、面白そうな顔をして、白い歯を見せて「ここまでおいで」と言っているように見える。赤外線写真で表情がもっとはっきりとわかるかと思ったが、もっとわかりにくい。
ところで、正倉院宝物は唐やシルクロードからもたらされたものと長年信じてきたが、近年材料の成分分析が進んで、9割ほどは日本製だといわれるようになった。特に唐やペルシアなどと特定していないものは日本製だろう。そうなるとこの琵琶も日本製になる。しかし、日本製とはいっても、中国の作品を真似たのかも知れない。
当時、動物が人間をからかうなどという図柄が、日本はともかく中国にあったのだろうか。近景には投げ縄・鉾・弓矢で虎を追う三人の騎馬人物が配される。このうち一人は疾走する馬の上で振り向きざまに弓を射る、西方起源のパルティアン・ショットの姿勢を特徴としているという。
この虎刈りには物語性があって、遠景でトラにおちょくられた人たちが追いかけて、近景ではトラが今にも捕まえられそうになっているという異時同図になっているのかと思ったが、人物の服装や、道具が異なるので、トラも人物も別だろう。
もっと拡大したものはこちら。パルティアンショットについてはこちら これらの人物の服制や、懸崖・土坡の形状、ベルト状の皴法などは、中国・六朝様式を濃厚に受け継ぐ初唐の様式を示しており、朝鮮半島・高句麗の古墳壁画に画かれる狩猟図とも近似するという。
近景も遠景も、馬には様々な色の房飾りがつけられている。そんな俑をどこかで見たような気がすると探したが、馬ではなく、騎乗の人物についていた。形が似ているので房飾りのようにふんわりと柔らかそうだが、どうも杏葉らしい。騎馬俑はこちら
来年は寅年だが、どちらの図柄も年賀状にはちょっとね。
※参考文献
「第61回正倉院展図録」(奈良国立博物館監修 2009年 財団法人仏教美術協会)