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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2014/03/18

イラクリオン考古博物館2 女性像



クノッソス宮殿東翼の31:王妃の間の東壁には女性像が描かれていた。
もちろん複製。
白いく長い服はベルトのようなものが回っている。下には黄色く短いスカートと、足首まである青いスカートを着け、半袖の上着を着ている。
縮れた髪は左右に翻っているが、背中にも垂れている。

踊る女性図 前15世紀 王妃の間出土
『クノッソスミノア文明』(以下『クノッソス』)は、踊りながら回転した勢いで髪が舞い上がったように見える。女性の衣裳、とくに染糸で縫い取りされた半そでの上衣は興味深いという。
回転している場面の描写だとは思わなかった。当時の踊りはかなりスピードのあるものだったようだ。
『名画への旅1美の誕生先史・古代Ⅰ』は、婦人は、宮廷の女官ではなく神であり、しかもその顕現と考えられるという。

クレタの女神像といえばこれ。
23:宝物保管室の床下に埋め込まれていた石製の宝物箱の中に収められていたという(『クノッソスミノア文明』より)。

蛇女神像 前1600年頃 ファイアンス 高さ29.5㎝ イラクリオン考古博物館蔵
『世界美術大全集3エーゲ海とギリシア・アルカイック』は、蛇女神は大地母神の信仰に属していた。本作品の蛇女神の頭部に付けられた野生の猫は牝獅子とも考えられており、女神と獅子の組み合わせはクレタの印章上にも登場する。
胸をあらわに見せる上着と、細く絞ったウェスト、エプロン風の前垂れ、その下に切り替えのあるスカートという出で立ちという。
王妃の間の女性像は、蛇女神ではないらしい。
蛇女神像 前1600年頃 ファイアンス 高さ約34㎝ イラクリオン考古博物館蔵
同書は、高い三段帽子をかぶり、3匹の蛇が女神の身体にまといついているという。
上の像とはスカートが地面すれすれの長さでは共通するが、こちらは切り替えもない、シンプルなスカートだ。

平たい女性像もあった。

女性の装飾板 ファイアンス 時代・出土地不明
衣服のモデルという(『HERAKLEION ARCHAEOLOGICAL MUSEUM』、以下『MUSEUM』より)。
長いスカート、半袖の上着、太いベルトというのが王妃の間の女性像に似ている。

その他に参考にできるものといえば、印章にも表された女性像だ。

印章指輪 前1450-1400年頃 黄金 長径訳2.5㎝ イソパタの王墓出土 イラクリオン考古博物館蔵
『世界美術大全集3』は、クノッソス宮殿の通称「王家の墓」イソパタから出土した黄金製の印章指輪。印章とは金石などに文字や図柄を彫って、器物や文書に押印するものであり、所有権を示し、また印章自体が護符の役割を果たすこともあった。
百合の野で執り行われる女神の「顕現」と、女神を取り巻く女性信者の陶酔に身を任せた舞踊が表現されているという。
長いスカートを着けて踊っているが、髪が左右に広がるほどの旋回はしていない。
動きがあるせいか、切り替えのあるスカートの端がギザギザに表されている。

印章指輪 前1600-1500年頃 イラクリオン考古博物館蔵
中央の巨大な女神の切り替えのあるスカートはV字形に表されている。

印章指輪 前1600-1500年頃 クノッソス宮殿地域南方セロポウロの墓出土 イラクリオン考古博物館蔵
『MUSEUM』は、女神と翼を広げたグリフィンという。
おそらく切り替えのあるスカートを表現したのだろうが、横に衣端が突き出ているようになっている。

印章指輪 前1450-1400年頃  
右端の女神は建物に腰掛けている。切り替えのあるスカートは、幅広のパンツのようで、それぞれに衣端が突き出ている。画面中央下には、波間に舟が浮かんで、女神が櫂を漕いでいる。
考古博物館で小さな印章をじっくり見るのは難しいが、指輪側を見るのはもっと困難である。ギリシア語版しか売っていなかった『Το Δαχτμιδι τομ Μινψα: η οπισθια οψη της οφενονης χαι ο χφχος』には大きく横側面と縦側面の図版があり、粒金が並んでいたことを知った。
ある程度大きさの揃った金の粒を、大小それぞれ一列に鑞付けしている。
鑞付けについてはこちら

彩色石棺 前1400年頃 クレタ、ハギア・トリアダ出土 石灰石 長さ137㎝ イラクリオン考古博物館蔵

『MUSEUM』は、黄色い背景では、女祭祀が犠牲の牛に手をかけ、その背後に女性たちの行列があるという。

宮殿期以後(前1400-1100年頃)になると、女性は全く異なった姿で表現されるようになる。
女性像 イラクリオン近郊ガジ出土
『MUSEUM』は、衣服は円筒のように扱われている。腕は挨拶または祝福のために挙げている。
頭頂には様々な象徴を載せている。鳥、角、ポピーの花などという。
この女性たちは、女神でも女祭司でもなく、礼拝者または崇拝者ということらしい。


   イラクリオン考古博物館1 壁画の縁の文様
                →イラクリオン考古博物館3 粒金細工


関連項目
イラクリオン考古博物館4 水晶製のリュトン
イラクリオン考古博物館5 ミノア時代の建物の手がかり
イラクリオン考古博物館6 ミノア時代のファイアンスはすごい
イラクリオン考古博物館7 クレタの陶器にはびっくり
イラクリオン考古博物館8 双斧って何?

※参考文献
「クノッソス ミノア文明」 ソソ・ロギアードウ・プラトノス I.MATHIOULAKIS
「ギリシア美術紀行」 福部信敏 1987年 時事通信社
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館 
「名画への旅1 美の誕生 先史・古代Ⅰ」 木村重信・高階秀爾・樺山紘一 1994年 講談社
「Το Δαχτμιδι τομ Μινψα: η οπισθια οψη της οφενονης χαι ο χφχος」  ΤΟ ΔΑΚΤΥΑΙΑΙ ΤΟΥ ΜΙΝΩΑ 
「HERAKLEION ARCHAEOLOGICAL MUSEUM」 ANDONIS VASILAKIS EΚΛΟΣEΙΣ ADAM EDITIONS