ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2015/05/19
竹中大工道具館2 大工道具の発達
『竹中大工道具館常設展示図録』は、大工道具の発達は、加工効率や精度の向上をもたらし、建築の姿を変えていった。大ぶりで力強い法隆寺は飛鳥時代の大工道具を使って、細密で装飾性豊かな日光東照宮や桂離宮は江戸時代の道具を使って建てられた。この飛鳥時代と江戸時代を隔てる千年近くの間に、大工道具はさまざまな変化を遂げた。そして、その延長線上に現代の建物を建てる現代の大工道具がある。
6世紀に仏教が伝来すると、寺院や宮殿を中心に、礎石の上に柱を立て、瓦を葺き、彫刻・彩色・飾金具によって装飾するという新しい建築様式が採用されたという。
飛鳥時代には、新しい建築様式と共に新しい大工道具も将来されたのだろう。古い建物が残るお寺に行ったら、このような大工道具で造られた痕跡も探してみよう。
同書は、当時使われていた道具を知る貴重な手掛かりとして、建物の古材に残された加工痕がある。昭和9年(1934)から始まった法隆寺修理の際、解体された古材に多数の加工痕が発見された。ほとんどの部材は釿(ちょうな)によってはつられ、鑿(のみ)は木材の切断や継手仕口の加工に、ヤリガンナは目にふれる面の仕上げ削りに、鋸は大小の木材の切断に使用されていた。釿と鑿の刃先はやや丸く、さまざまな刃幅が存在したという。
法隆寺の古材加工痕の痕跡をもとに復元された釿(ちょうな)、鑿、ヤリガンナ
思っていたよりも小さな道具が並んでいた。
鋸はどんな大きさのものだったのだろう。
法隆寺の雲斗や雲肘木といった組物よりもずっと重厚になった唐招提寺金堂組物が、同館展示室に入った地下1階に展示されている。実物大の素木の模型fは迫力がある。
見下ろすと、柱は地下2階に達し、その根元には礎石も見えている。
展示室の説明パネルは、堂宮大工が相手にする木材は大きい。近くで見るとそのことがよく分かる。組物は屋根の重さを柱に伝えるための構造で、デザイン的にも重要な部分。唐招提寺金堂は木太く力強い三手先(みてさき)組物をもつことで知られている。このような巨大な木組みを千年前にどのようにしてつくり上げたのか想像してみようという。
同書には製作した鵤工房の小川光夫棟梁に古代の匠の仕事についてインタヴューの文がある。
今から千三百年前の時代、それほどの道具もないのに、あれだけの大きな木材を刻んだという力強さでしょうな、それは感じますね。
まず原木を山で倒して四つ割りにしたと思います。斧で代替の形にはつって、現場まで運んでくる。それを現場ではつり、ヤリガンナで削って仕上げた。とても大変な仕事です。
原木を倒して、四割りにしたたげでもものすごいこと。
斗(ます)の含みなども、今では鋸で切ってしまうけれども、昔はそこを片刃の斧で断ち切ったと思います。それは今の人ではできないですよね。
当時は斗を切るほど大きな鋸はなかったのだろう。
展示室に入ると、実物大の斗や肘木、柱の柱上や柱下を板で切り抜いたものが壁面に並んでいた。見本かと思って見ていたが、「型板をつくる」というタイトルがあった。実物大の型板をまず切り抜いて、部材をつくっていたのだった。
作り方を『竹中大工道具館常設展示図録』の写真でおうと、
同書は、寺社建築では軒反りや彫物などに見られる曲線が美しさを決める。
まずフリーハンドで思うところの線を描く。描いた線に沿って型を切りだし、鑿や釿で修正を施す。良く切れる道具でないと自然で優しい曲線にはならないという。
最初は実物大の型を作る。
斗(ます)
この曲線は実物大の型板を用いて材木に写される(墨付け)という。
小川氏が斗の含みなども、今では鋸で切ってしまうけれども、昔はそこを片刃の斧で断ち切ったと思います。それは今の人ではできないという部分。
斗の内側(含み)の刳りを、当時の人は片刃の斧で断ち切ったらしい。
その後は墨の線に沿って肘木の置かれる面を鑿で削っていく。
完成した斗が揃えて置かれる。
肘木
両刃のヤリガンナで笹刳り(笹繰)を入れる。
軒下の組物(斗栱)は、斗と肘木を組み合わせたものを重ねていく。
柱
丸い柱にも墨付けされた線が無数にはしる。その線に沿って釿で荒削りしていく。
片刃のヤリガンナで滑らかに仕上げる。
小川光夫氏のインタヴューは続く。
笹の葉のような削り痕が残ります。機械で製材するとまっ平ですよね。古代建築の表面が夕日があたると波のようにやわらかく見えるのはこのヤリガンナという道具で削るためです。
ヤリガンナというのは、八分の幅でも削れるし、こよりのように細くも削れる。深くも削れる。力の加減一つで、どんなところでも仕える道具です。
道具というのは単純であればあるほど使い道がある。ヤリガンナはそれを代表するようなもんでしょうな。
今度法隆寺に行く時は、夕日の当たる頃にしよう。
竹中大工道具館1 古代の材木と大工道具←
→竹中大工道具館3 大鋸(おが)の登場
関連項目
竹中大工道具館7 海外の建築と大工道具
竹中大工道具館6 土のしらべ展
竹中大工道具館5 道具で知る建築史
竹中大工道具館4 大木を板にする
法隆寺金堂にも高句麗から将来されたもの
法隆寺の五重塔はすっきりと美しい
法隆寺の回廊を歩く
※参考文献
「竹中大工道具館 常設展示図録」 2014年 公益財団法人 竹中大工道具館