JR品川駅から歩いて約10分。天王洲橋からWHAT MUSEUMの白いWMの文字が、濃いグレーの建物にくっきりと見えた。
建築倉庫ミュージアムにはいろんな展示スペースがあって、一番見たかった建築模型の並んでいる建築倉庫は撮影禁止のため、画像はないので説明するのは難しいが、模型保管庫が展示室になっているので、人の胸よりも下には模型を搬入した時の箱が積んである。それがこっそり「倉庫」に入り込んで見ているような感覚にとらわれて、ゆっくり見ていたいけれど、あまり長居できないような気持ちになる。
一つの建物や空間を創り出すのに幾つかの工程が展示されているもの、計画だけに終わってしまったものなどもあったが、人の姿も建物の中に登場していたり、広い空間を散策していたりしていて、興味深く拝見した。
その後「No Photo」マークのない作品なら写しても良い展示会場へ。
まずは一階の「感覚する構造 力の流れをデザインする建築構造の世界」へ。
展覧会概要は、1923年の関東大震災から、今年で100年が経ちます。われわれ人類は、地震力や風力をはじめ自然の力が及ぶ世界に生き、さらには地球という重力空間において、建築における力の流れをどうデザインしてきたのでしょうか。
そうした力の流れや素材と真摯に向き合い、技術を駆使し、建築の骨格となる「構造」を創造してきたのが、構造デザインの世界です。「建築家」と構造をデザインする「構造家」の協働により、数々の名建築が生み出されていますが、構造家や構造について詳しく紹介される機会は多くはありません。構造家は数学や力学、自然科学と向き合い、計算と実験、経験を積み上げた先に、やがて力の 流れが自身の中に感覚化し、感性を宿すといわれていますという。
建築家は知っていたが、「構造家」という職業さえ知らなかった。
SPACE1の感覚する構造の中の「A建築家と構造家との協働」は、スペインの構造家エドアルド・トロハは、『Philosophy of Structure』(構造の哲学 1951年)の中で、「構造物全体の誕生は、創造的な過程の結論であり、技術と芸術、発想力と感受性との融和であります。・・略・・そしてどんな計算より重要なところに着想(アイデア)があります。」と述べています。
構造家佐々木睦朗は、建築家との双方に刺激しあうコラボレーションの中で、まさにその着想を展開し、新たな構造システムを構築、歴史を刻む建築の創造と飛躍にたずさわってきました。
本テーマでは、構造家佐々木睦朗と建築家磯崎新、伊東豊雄、妹島和世、西沢立衛の協働による作品を紹介致しますという。
せんだいメディアテーク
構想1
絵を見ているだけなら、バネのようなものを並べた見下げ図
所蔵:佐々木睦朗 竣工地:宮城 竣工年2000年 建築設計:伊東豊雄建築設計事務所 構造設計:佐々木睦朗構造計画研究所
全体として円柱の太さがまず違っているし、一つの階ごとに円柱の傾きが異なっている。これでバランスが取れいているって面白い。
このスペースには現代的な建物だけでなく、古代ローマの建物の半分の模型もあった。パンテオンが「古代から・・・」ということだった。
パンテオン
正方形からドームを導くのは難しいが、円形からなら持送ってドームを架構するのは無理がない。しかし、古代ローマでは円錐ドームしか造れずにいた。完全な円形のドームができた最初の建物が、このパンテオンだった。
パンテオンについての記事はこちら
パンテオンに至るまでのドームが複数残っているヴィッラ・アドリアーナの記事はこちら
双方の建物はハドリアヌスが建てた。
パンテオンD 模型縮尺:1/150 模型製作:浦勇樹、内田涼大、田中悠仁 所蔵:東海大学工学部建築学科
竣工地:ローマ 竣工年:前27年創建、80年頃焼失、128年頃再建
設計:創建アグリッパ 再建ハドリアヌス
説明パネルは、古代の石積みドームの発祥に始まる曲面により空間を覆う構造。経線方向はアーチと似た構造だが緯線方向にも抵抗できるため、かたちがある程度自由にできることが特徴。ドーム構造の応用がその後のシェル構造へとつながる。
パンテオンは直径高さ43mの半球形のドーム形状をしており、頂部には直径8.9mの天窓が開いている。火山灰をセメントとする無筋コンクリート構造で、内面はドームの厚みをえぐり取ることで重量の軽減を図り、装飾的な格子天井としている。ドームの厚さは上部は 1.4mで下方に向けて徐々に厚みを増している。ドームの基部は階段状に厚みを増してスラスト(外に開こうとする力)に対する抑えの役割を果たしているという。
断面図と違って、ドームの頂部から下部へと次第に壁の厚みを増していく様子が立体的に感じられる。
別の部屋に行くと、木造のヴォールトや模型があった。
密な格子の構築物の前にあったのは、
左:三方格子
切り欠きを入れた角材の切り欠きを半分ずつずらして組み合わせることで、 釘も金物も用いず立体架構を作ることができる。
この展示空間にも使われている。
右:アリ継ぎ三方格子
外れ難くするため、伝統工法で用いられる「アリ継」を施した三方格子 (説明パネルより)
説明パネルは、右にあるサンブルで挑戦してみてくださいという。こんな面白いものと戯れていたいけれど時間がなかった。
右:プッシュアップ構造
長い竹を放射状にレシプロカル構造で組み合わせ、根元を持ち中心に向かって押し上げることで立体架構を構成する。
47都道府県構造マップの和歌山県「竹象庵」の屋根の構造
左:レシプロカル構造
お互いをテコにして成立する“あいもち構造”
接合金物などを用いることなく空間をつくることができる。 (説明パネルより)
こういうのも興味深い。
和歌山県「竹象庵」というのは、アドベンチャーワールドにある「自然体感型の竹製テレワークスポット」みたい。
その後、「感覚する構造-力の流れをデザインするは仏教建築構造の世界」のコーナーへ。
浄土寺浄土堂 小野
説明パネルは、日本建築においては古来より柱に貫を貫通させ、楔等によって両者をしっかりと留めつける「貫構法」によりにラーメン構造を成立させてきた。浄土寺浄土堂はその中でも大仏様建築の傑作である。大仏様における構造の特徴は柱に何段もの挿肘木や貫を挿入することで水平力に対して強い抵抗力を持つ。内部空間は、中央の四天柱が屋根裏まで伸びていて、四周からそれぞれ3段の虹梁が四天柱に取り付いているという。
快慶作阿弥陀三尊立像が中央の丸い壇の上に安置されている
三段の虹梁については正面かは見えない。
ラーメン RAHMEN
説明パネルは、柱と梁を強固につなげたフレームによって地震や風に抵抗
ラーメンとはドイツ語で「枠」という意味。
地震や風といった横からの力に抵抗するための構造形式の一つである。
柱と梁を単純につなげるだけ(ピン接合)では不安定だが、接合部を強固に接続する (剛接合)ことで安定性を確保しているという。
それに対してのトラスの解説は、
トラス TRUSS
説明パネルは、棒状の部材を三角形に組んだ構造。
梁のような棒状の部材は曲げる力に弱いが、三角形に組むことで曲げる方向に力がかかりにくい仕組みになっている。
そのためトラスは剛強で安定しており、いくつも連結することで大規模な架構を構成することができるという。
そしてその模型
白川郷合掌造り民家・旧田島家
模型縮尺:1/5 模型製作:高橋俊和 (都幾川木建) 所蔵:白川村教育委員会
竣工地:岐阜県 竣工年:江戸時代中期
説明パネルは、迫り持ちトラスを利用した合掌造りの建築。雨量の多い村の気候に合わせ、急傾斜の屋根となっている。合掌造りは軸組と小屋根が分離されているのが特徴的で、1階は居住用、2階以上は蚕室などに用いられる。2階床を構成する陸梁が、合掌材と呼ばれる登り梁の脚元に生じるスラスト力 (外に開こうとする力)を抑えることで、迫り持ちトラスを構成しているという。
続いて二階の「心のレンズ」へ。
その展覧会の概要は、この展覧会は、IT分野で活躍されているコレクターの竹内真氏が、約5年前から収集をしてきた現代アートと家具のコレクション「TAKEUCHI COLLECTION」をご紹介するものです。
竹内真氏のコレクターズノートは、僕は、抽象的な作品を見るとき、大凡自分と同じ世界を生きて、かつ似たようなものを見て、聞いているのにも関わらず、その彼らの心のレンズを通した結果、このような作品が生まれるのだろう、彼らの人生の中で作り上げられた心のレンズが一体どんなものなのかを想像してしまいます。しかし、その想像の中にあるレンズもまた、自分自身が経験したものの中から考え得るレンズでしかないわけで、おそらくその予想は全て外れているのでしょう。もし、今日、誰かと一緒にこの展示を見に来ていたら、その人と同じ作品を見て、作家の心のレンズはどのようなものだと思うのか、話し合ってみてください。結局は、 それはお互いの心のレンズを話し合っているようなことでもあり、それはきっと、お互いの仲をさらに深めていくことだと思います。
ピエール・ジャンヌレがデザインした椅子約20脚を使用したインスタレーションでは、その個体がもつ特徴を多角的な視点から堪能することができますという。
椅子が宙に浮いていて、まずは椅子そのものよりもその展示の仕方にびっくり。そして見上げながら、見下ろしながら一周した。
インド北部のチャンディガール都市計画
説明パネルは、1950年代に近代建築の巨匠と称されるル・コルビュジエ (1887-1965)が中心となって計画しましたが、従兄弟であり仕事上のパートナーであった建築家ピエール・ジャンヌレ (1896-1967)が重要な役割を果たしていました。ジャンヌレは、現地の監督として約15年間インドに住み、地元の文化、気候、素材などを研究し、建築だけでなく、建物内の家具も多く手がけます。
このオフィスチェアは、主にチャンディガールの行政施設などのために製作され、都市計画のために作られた家具の中でも代表的な存在になっています。当時、用途に合わせた様々なタイプの椅子が製作されましたが、本展では「逆V字レッグタイプ」と「X字レッグタイプ」の椅子をご紹介していますという。
多くの職人が基本となる図面と指示をもとに製作しましたが、職人の裁量や製作方法により変更が加わることがあり、同じタイプであったとしても大きさや比率、部材の太さや角度の異なるものが作られたと言われていますという。
4名による書斎空間
説明パネルは、ここでは1930年代のフランスで時代を同じくして活躍し交流していた4名による家具を取り合わせ、書斎空間を演出しました。
説明パネルは、ここでは1930年代のフランスで時代を同じくして活躍し交流していた4名による家具を取り合わせ、書斎空間を演出しました。
ル・コルビュジエのデスクには、ピエール・ジャンヌレの椅子を合わせています。二人は従兄弟でもあり1922年にはパリに事務所を共同設立し数々の建築作品を手掛けました。ウォールランプのシャルロット・ペリアン (1903-1999)も彼らの事務所に所属し共同制作者として数々の建築やインテリア家具を残しています。度々来日して柳宗理らと交流し日本のデザイン界に大きな影響を与えたことでも知られています。デイベッドのジャン・プルーヴェ (1901-1984)は、金属工芸家としてキャリアをスタートさせましたが、敬愛するル・コルビュジエらと協働し、家具だけでなく建築デザインへと創作の場を広げ、フランスの建築生産の工業化で大きな役割を果たした建築家ですという。
このデスクのシンプルさが気に入って写したら、後で Le Corbusier の作品だと分かった。ルコルビュズィエをルコルビィジェと言う人が多い中、本展覧会ではフランス語に近い発音で表記されていて嬉しかった。ただ、従兄弟の姓ジャンヌレは、ルコルビュズィエの本名 Jeanneret-Gris の一部でもあるが、ジャヌレなので残念。
もう一つ残念なのが、ウォールランプが写っていないこと。左端の壺が気になって、どうしてもそれを入れて写した結果ですわ。
トライアングル ローテーブル ピエール・ジャンヌレ
Xレッグアームチェア ピエール・ジャンヌレ
三角のテーブルは物を置きにくい気がするが、アームチェアの足はXレッグの方が安定感がある。
そして最後は、
リオ ロッキングチェア オスカー・ニューマイヤー
説明パネルは、ブラジル近代建築の父といわれるオスカー・ニーマイヤー (1907-2012)が1974年にデザインした ロッキングチェアは、美しい曲線が特徴的です。建築にも活かされている「曲線」は、自然の造形や女性の体からインスピレーションを受けたと言われています。
本作は、天童木工のブラジル工場で製造され、当時のラベルが残っている希少な作品です。ニーマイヤーは様々な人と協働作業することでも知られていますが、今回展示されているル・コルビュジエの影響も強く受けており、国連本部ビル (1952 年 アメリカ、N.Y) を共にデザインしていますという。
長身の人には心地よく憩えそうなフォルムだが、私の短い脚では腰に負担がかかるかも・・・
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参考にしたもの
建築倉庫の説明パネル
参考文献
「日本建築史図集」 日本建築学会編 1980年新訂第1版 彰国社