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2017/01/17

高麗仏画展6 仏画の裏彩色


泉屋博古館で2016年11月3日-12月4日に開催された「高麗仏画展」では、多くの仏画や高麗時代の経典、工芸品などの展観と、修復を終えた泉屋博古館蔵水月観音像、そして以前の状態などを、近赤外線撮影した画像を白い布に印刷して、展示室奥の結界のように垂らされていた。その間から出入りするのは、ちょっとときめく瞬間だった。

『高麗仏画香りたつ装飾美展図録』は、白く輝くヴェールをまとい岩場に坐して善財童子の礼拝を受ける観音。高麗時代に隆盛した水月観音図像の典型でもある「水月観音像」(重要文化財 指定名称「楊柳観音像」 泉屋博古館)は、絹本着色で縦166.3㎝、横101.3㎝と類品中でも大作に属し、かつ端正な趣で知られるが、その芸術性のみならず、宮廷画家徐九方により1323年に制作されたことが明確な点でも資料的価値が高く、高麗仏画の基準作と考えられている。しかしながら、経年劣化により画面に大きな折れ、亀裂、裏打ちの剥離などが多数発生し、展示には危険な状態となっていたため、2012年春から2年をかけて全面的な解体修理を行うこととなった。
絹本絵画は制作過程において、裏彩色など裏面からの処理が作品の仕上がりに少なからぬ影響を与えるが、完成後それを見ることはできないという。
修復の時にしか見ることができないので、解説文には裏彩色についての記述がなかった、またはあっても目に留まらなかったのか、裏彩色については、伊藤若冲の作品に見られると以前講座で聞いたことがある程度だったので、新鮮な驚きだった。

表面と裏面(裏面画像はすべて反転されている)
同展図録は、東アジア絵画の伝統として、絹絵には表面だけでなく、裏面からの裏彩色が行われてきたが、それはひとつには絵具を画絹によく定着させるため、いまひとつは裏面から彩色層を透かすことで得られる視覚効果のためである。
他の少なからぬ事例と同様、泉屋本の裏彩色は過去の修理によりほとんど失われていたことである。唯一、明らかに観察できる裏彩色は、左足の甲の部分であり、薄桃色の顔料が分厚く盛りあがっていた。より子細に観察していくと、裏彩色の痕跡が随所に見られ、おおよそ制作当初の状況が浮かび上がってきた。まず裏彩色が行われていたのは観音と善財童子、踏割蓮華や珊瑚、宝珠であり、円光、岩、竹、水面では痕跡が確認されなかった。
観音の身につけるもので唯一裏彩色がないのがヴェールで、この部分は表面からのみ白色顔料(鉛白)でごく細い文様を描き入れ、さらにグラデーションをつけて刷くことで、光を包み込むような透明感を表出したという。
表に観音像の着彩の上にヴェールを描いていたということだろう。
裏彩色が残っていた左足を表面から見ると、より密度が高く重厚な趣があり、当初は全身がそのような質感だったことが推察される。そして、裏彩色のない部分との対比で主要モティーフがより際立つという。
薄桃色の顔料が分厚く盛りあげられているということだが、それを表側から見て、密度の高さとして感じられるとは。
蓮華座でさえ裏彩色はされていない。
浄瓶をのせるガラスの承盤の金縁のみには鉛白の裏彩色が。細部にいたる意識的な描き分けが個々のモティーフの質感を際立たせているという。
金を際立たせるためには裏にも金泥で描いくのかと思ったら、白色を裏地に賦彩することで、表の金色が際立つのだ。

水月観音像 至大3年(忠宣王、1310) 絹本着色 縦419.5横254.2㎝ 李(季)桂・林順・宋連他筆 佐賀鏡神社蔵
『日本の美術401古代絵画の技術』は、高麗仏画は伝統性が強く、唐時代風を継承していると見られ、画法の伝統を見る上でも注目される存在である。観音は肉身は金泥、衣は赤、おそらく朱で彩色し、細かな文様をつけている。天衣のような薄物は胡粉で線描で精緻に描いている。この図の裏は観音の肉身には赤、衣には白を賦彩している。赤は朱とするには色が重く、白は白土のような質感であった。髪には青を施している。この青は植物染料の藍であり、青黛或いは靛花を用いているのであろう。裏彩色としても地味な色料ばかりが用いられているが、裏彩色は表の彩色表現を助ける意味のものであり、用いる色料に表の色料と同質の高貴性を求める必要はないわけであるという。
金色の肉身の裏には赤の彩色、朱色の裙の裏には白色を賦彩しているという。
泉屋博古館本の水甁の承盤では、ガラス器の縁の金色を際立たせるために、裏彩色は白だったが。画師によって裏彩色の色は異なっていたのかも。
日本でも彩色には顔料だけでなく、染料も使われている。
宝函の化仏
同書には説明がないのだが、左右反転していることや細部の描き分けがないことから、裏彩色と思われる。折角の貴重な画像なのに、これでは色がわからないのは、『日本の美術』シリーズの残念なところ。菩薩の肉身と同様に白色だろう。
裙の裾文様
こういう大きな唐草文を見ていると、絵画のような平面的なものではなく、透彫を描いたように感じる。
そしてまてた、絵絹は意外と粗い織物だとわかる画像でもある。絹といえば着物地を思い起こすため、透けるということが実感できなかったが、このような粗い布ならば透けるだろう。絹本は裏打ちされていために、透けた布を使っているとは思わなかったせいもあるのだが。

裏彩色を検索してみると、日本画家の森山知己氏のホームページに、絹本制作と裏彩色 その2という頁があった。その頁のおかげで、絹地というものが透けていること、絹枠に絹を張って描くと、裏側も見えて、裏彩色も行えることを知った。ただ、仏画のような大画面でも、同じ方法で行われたかどうかは不明。

また、京都大学 工学研究科教授 井手亜里氏の韓国三大寺院 通度寺所蔵「八相図」デジタルコンテンツ化プロジェクトでは、釜山通度寺の大画面の「八相図」を、京都大学で開発した超高画像度大型平面入力スキャナで調査している画像があり、「八相図」は木枠らしきものに、おそらく張られている。
 
    高麗仏画展5 着衣の文様さまざま←   →日本の裏彩色
 
関連項目
裏彩色は中国から
高麗仏画展4 13世紀の仏画
高麗仏画展3 浄瓶の形
高麗仏画展2 観音の浄瓶は青磁
高麗仏画展1 高麗仏画の白いヴェール
 
※参考サイト
京都大学 工学研究科教授 井手亜里氏の韓国三大寺院 通度寺所蔵「八相図」デジタルコンテンツ化プロジェクト

森山知己氏のホームページより絹本制作と裏彩色 その2

※参考文献
「高麗仏画 香りたつ装飾美展図録」 編集 泉屋博古館 実方葉子、 根津美術館 白原由紀子 2016年 泉屋博古館・根津美術館
「日本の美術401 古代絵画の技術」 渡邊明義 1999年 至文堂