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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/09/27

始皇帝と大兵馬俑展7 繭形壺


漢陽陵の陪葬坑の様子とその出土物が展示されている漢陽陵博物館の見学をした時に、日本風にいえば俵形の壺(大阪市立東洋陶磁美術館の表記では「俵壺」)が印象的だった
それは、帝陵外葬坑保護展示ホールのある坑に、間隔をあけて置かれていた(館内は暗く、良い写真がない)。

壺で感心したのは、貯蔵用のなので当然かも知れないが、共蓋があるのだった。
多数の人物俑は反対側のものがガラスに写っている。
等間隔で縦線が入っているのはよくわかるのだが、
彩絵繭形壺と書いてあっても、どんな絵なのかわからない。まさかこの黒い線のこと?

最後のコーナーでは出土物の優品が展示されていた。
縦線は2、3本の刻線だった。
密集陳列された棚の上にあるものを写したら、やはり刻線がみられ、それを目安にして雲気文のようなものが、赤・黒・白・柿色などで描かれているらしい。

漢陽陵考古陳列館では、黒っぽい繭形壺が並んでいた。

このような壺の形はあまり見ないので、前漢の頃に作られた独特の壺だと思っていた。
ところが、形は多少の違いがあるとはいえ、繭形壺として参考に図版が示されていた。

繭形壺 戦国時代 土器 東京国立博物館蔵
『始皇帝と大兵馬俑展図録』は、戦国時代に秦が他国の人材や器物を積極的に受け入れ、強盛になっていくと、秦の文化にも変化が生じるようになっていった。たとえば、それは土器や青銅器の形にも見て取れることができる。
春秋時代に比べて、戦国時代の秦の土器は均整な仕上がりのものが増えるとともに、他国にはない独自の器形をもつものも探求された。繭のような楕円形の胴部をもつ土器の壺や、土器にも青銅器にも見られる、口縁部がニンニクの形に似た壺は、その代表的な例である。秦が創出した器形は、秦の領土拡大にともない各地に伝播しただけでなく、続く漢時代の土器や青銅器にも採用された。このことは、ニンニク形の口縁部や繭形の胴部が個性的でありながら、広く受け入れられるだけの普遍性をあわせもつものだったことを示唆するという。
こちらにも縦の刻線が幾つか入っている。叩き目も見えるが、彩色は不明。

繭形壺 戦国時代後期 青銅製 甘粛省張家川回族自治県馬家げん(土+原)遺跡3号墓出土
同書は、中国文明の象徴ともいえる玉製のものはまだ1点も報告されていない。このことから、馬家げん遺跡に葬られた人々が戦国時代後期の「西戎」系の首長または貴族であったと考えられている。
当時の張家川は秦の勢力圏内にあった。出土した繭形壺は秦の固有器種であるが、青銅製の繭形壺はおそらくこれが初めての出土例である。
本来は土器である繭形壺をわざわざ青銅器にして、秦がこの地に暮らした「西戎」を懐柔するために贈ったものと考えられる。戦国時代に秦が強大化した理由のひとつとして、こうした西や北の異文化との接触を通して良好な馬や騎兵などの新戦術を吸収していたことも無視することはできないという。
形は秦の繭形壺に似ているが、土器では刻線であったものが、凸線でしかも本数がかなり多い。
頚部には楕円形のビーズ状の輪が巡り、その下には饕餮の顔がみえる。どちらも浮彫で表される。 饕餮の耳のある縦帯には細かな地文がありそう。秦が特別に青銅器に写した繭形壺には、青銅器ならではの装飾を施して、高級な贈り物に仕上げていたのだった。

鍍金蒜頭壺 青銅、鍍金 高38.5口径3.4底径12.5 戦国時代、前3世紀 旬邑県馬欄鎮転角収集 耀州窯博物館蔵
蒜頭扁壺 青銅 高22.0口径3.0幅23.0 秦時代、前3世紀 岐山県鳳鳴鎮四崖頭七組出土 岐山県博物館蔵
同書は、口縁部がニンニクのような形状を呈するので、蒜頭壺と呼ばれる。蒜頭壺には球体の胴部に細長い頚部をもちものと、扁平な楕円形の胴部をもつものとがある。両者とも高台の基部にくびれがあり、このくびれとニンニク形に膨らむ口縁部の直下などに紐を結んで、水筒のように携行することもあったと考えられる。薄作りで軽いのは、携行の便と関係があったかもしれない。薄作りゆえに、No.30は頚部から胴部にかけて4条の補強帯をめぐらし、No.31は正・背面および側面に凸面を作ることで耐久性を高めたのであろう。蒜頭壺は戦国時代後期に秦で出現し、秦の拡大にともない分布を広げ、前漢時代まで続いた伝統的な青銅器とともに、実用の青銅器を重用したという。
このような形の口縁部は飲みやすいのだろうか。NO.30の補強帯ということだが、繭形壺の刻線は補強には関係はなかっただろう。
確かに、陽陵博物館(上の方の写真)では、繭形壺の左奥に蒜頭壺が3つ展示されている。


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関連項目
始皇帝と大兵馬俑展5 銅車馬と壁画の馬
始皇帝と大兵馬俑展4 銅車馬と文様
始皇帝と大兵馬俑展3 銅車馬
始皇帝と大兵馬俑展2 青銅器で秦の発展を知る
始皇帝と大兵馬俑展1 満を持した展覧会

※参考文献
「始皇帝と大兵馬俑展図録」 2015年 NHK、朝日新聞社