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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2015/03/06

日本の瓦6 単弁蓮華文



単弁蓮華文とは蓮弁に子葉というものが一つあるものをいう。

斑鳩寺の軒丸瓦 飛鳥時代(7世紀) 軒丸瓦径16.8㎝、軒平瓦幅29.5厚3.7㎝ 単弁六葉蓮華文 若草伽藍跡出土 補足瓦 法隆寺蔵
『法隆寺展図録』は、パルメット文を施した単弁六葉蓮華文軒丸瓦と、その軒丸瓦の笵型を押圧して文様とした軒平瓦という。
補足瓦ということで、割れたり落ちたりした瓦の補修用に遅れて作られたもので、それまでの素弁蓮華文軒丸瓦に代わり、蓮弁の内側に新たな文様、パルメットが表されたものが登場した。
この軒丸瓦については、単弁六葉蓮華文とされているので、子葉がパルメットになったものと理解して良いらしい。

パルメットが子葉となった単弁蓮華文。これは、奈良・西安寺出土の忍冬・蓮華交飾軒丸瓦(飛鳥末期)よりも早い例と思われるが、単弁軒丸瓦の最初期のものにパルメットがあった。

善正寺の軒丸瓦・軒平瓦 白鳳時代 羽曳野市善正寺址出土 八葉単弁蓮華文・重弧文 大阪市立博物館蔵
『日本の美術66古代の瓦』(以下『古代の瓦』)は、百済の末期様式のなかには花弁中に子葉一個を配した単弁蓮花文を飾る鐙瓦もある。泗沘城時代の故地扶余の東南里廃寺から出土し、わが国では大阪・善正寺が非常によく似ているので、彼地との直接の関連をうかがうことができるという。
百済のものとよく似ているということで、単弁蓮華文軒丸瓦の最初期のものと理解してよいのかな。
大きな中房の周囲に切れ込みのある花弁が8枚巡り、花弁の間には楔形覗花弁の稜線が長く伸びる。子葉には文様はない。山村廃寺のものとよく似ているが、こちらの方が中房が大きい。
軒丸瓦の周縁と軒平瓦は三重の重弧文となっている。

同書は、単弁蓮花文の主流は奈良山田寺出土例を標式とする山田寺式である。山田寺には百済末期様式の素弁蓮花文鐙瓦もあるが、単弁蓮花文鐙瓦も大きく2種類があるという。

山田寺の軒丸瓦1 白鳳時代 山田寺出土 火焔文付単弁八葉蓮華文 天理参考館蔵
同書は、花弁中の子葉のまわりに小爪形の火焔文をめぐらしたもので、花弁の彫りは最もすぐれているという。
花びらの皴を表現したものに見えたが、火焔文とは。
山田寺の軒丸瓦2・軒平瓦 白鳳時代 山田寺出土 単弁八葉蓮華文・四重圏文 京都国立博物館蔵
同書は、数も多く、また、最も典型的なのがその二である。大小2種類があり、ともに厚肉の整斉な花文で、周縁は高く、四重圏文を飾っている。宇瓦もこれに対応して四重圏文であるという。
火焔文がなくなっている。

『古代の瓦』は、単弁蓮花文の中にも高句麗的様式のものが少例ながら存在するという。

南滋賀廃寺の軒平瓦 白鳳時代 滋賀・南滋賀廃寺出土 単弁八葉蓮華文 近江神宮蔵
同書は、同寺址出土の一連の百済末期様式の一つであるという。
山田寺出土のものよりも子葉が大きく、稜がある。

樫原廃寺の軒丸瓦・軒平瓦 白鳳時代 重弁蓮華文・素文 京都府教育委員会蔵
同書は、単弁ながら、花弁を重弁にあらわす特種例であるが、類形は京都・大阪府下に多くみられ、これらも高句麗的な特色が濃厚であるという。
花弁がそれぞれ離れ、肉厚である点は高句麗様式に属するものだし、花弁に密に葉脈を表すのも高句麗様式とも言えるかも知れない。

『古代の瓦』は、このように単弁蓮花文も各種の様式が伝えられたが、更に次の段階では、奈良・山村廃寺例が、複弁蓮花文の川原寺式や法隆寺式の影響を受けて成立したごとく、諸形式との融合形式も生じながら広い展開をみせるのであるという。 

山村廃寺の軒丸瓦・軒平瓦 白鳳時代 単弁八葉蓮華文・均整忍冬唐草文 奈良国立博物館・京都国立博物館蔵
同書は、山村廃寺は奈良市の東山の谷間に寺跡を残し、塔の石製九輪を出土するので著名である。鐙瓦は山田寺の単弁蓮花文と同系であり、宇瓦は法隆寺の均正忍冬唐草文を採用しているという。
周縁部分が鋸歯文で、これまで取り上げた中では新しい意匠である。弁端に切れ込みのある花弁が8枚巡る。浅いが覗花弁も表されている。
均正(左右対称)の唐草文のある軒平瓦は中宮寺址出土のものとよく似ているが、スタンプだろう。

瓦の蓮華は素弁・単弁・複弁と3種類ある。同じように、仏像の蓮華座も同じだが、蓮華座では単弁は飛鳥時代から採り入れられているが、瓦では白鳳時代に入ってから登場したようだ。

    日本の瓦5 点珠のない素弁蓮華文←   →日本の瓦7 複弁蓮華文、そして連珠文

関連項目
雲崗石窟の忍冬唐草文
日本の瓦1 点珠のある軒丸瓦
日本の瓦2 法隆寺出土の軒丸瓦と軒平瓦
日本の瓦4 パルメット唐草文軒平瓦
日本の瓦9 蓮華文の鬼瓦
蓮華座1 飛鳥時代

※参考文献
「日本の美術66 古代の瓦」 稲垣晋也編 1971年 至文堂
「国立中央博物館図録」 1986年 通川文化社