『世界美術大全集東洋編15中央アジア』は、フンの領域でしか発見されないはずのものに、青銅製の鍑がある。青銅製の台付きあるいは脚付きの鍑は、草原地帯ではスキタイ時代から祭儀用に使われているという。
鍑口縁装飾 サカ(前5-4世紀) 径31㎝ 新疆ウイグル自治区イリ地区新源県キュネス川南岸出土 ウルムチ市新疆ウイグル自治区博物館蔵
古代の遊牧民が儀式の際に用いた鍑(釜の一種)の口縁部にかぶせた装飾は、2頭のグリフォンが向かい合っている構図はオクサス遺宝の腕輪と同じであり、ライオンの頭に曲がった角を生やし、翼が反り返っている点もペルシアのグリフォンの基準を満たしている。しかし、このような鍑の装飾はペルシアでは使われず、もっぱら遊牧民のものであるので、これはこの地の遊牧民、おそらくサカが作ったものと考えることができるという。
サカつまりスキタイの鍑の口縁部だけが出土したらしいが、フン族の鍑とは似ても似つかない口縁部だ。

鍑 前4世紀末~3世紀初 高41㎝ ロストフ州出土 アゾフ博物館蔵
動物の装飾はないが、ひょっとするとスキタイの鍑かも知れない。把手は丸く、3つの突起がある。

口縁部に鹿が1頭いる。把手に中央に釘の頭のような突起と、両肩に牛の角のようなものがついている。サルマタイになると、肉食獣から草食獣になるのだろうか。

把手の3つの突起は釘の頭状である。

こちらも把手に3つの釘の頭状の突起がついている。この突起がフン族のキノコ形突起になっていくのではないだろうか。

把手が4つ付き、そのうち2つは水牛の形をしているという。
水牛が向かい合っているのは面白いが、釘の頭状の突起がないなあ。


※参考文献
「南ロシア騎馬民族の遺宝展図録」(1991年 朝日新聞社)
「世界美術大全集東洋編15 中央アジア」(1999年 小学館)