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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2010/08/19

エジプトの王像1 ジェゼル王坐像



アスワンもゆっくりとしたいところだったが、サッカラも一日かけて見学したいところだった。

ジェゼル王は坐像が残っている。サッカラのピラミッド複合体の、ピラミッド
の北側につくられたセルダブで発見された。
『吉村作治の古代エジプト講義録上』は、セルダブというのは、王の彫像を安置するための密室である。古代エジプトでは、人が死ぬと、「バー」は肉体を離れて飛び去ってしまうが、「カー」はこの世に残ると考えられていた。そのため「カー」の宿るところとして、石の彫像が置かれたのである。ここには、石灰岩でつくられたジェゼル王の等身大の像が、壁にあけられた2つの穴から外を眺める姿勢をして、置かれている。もっともジェゼル王の像の本体はカイロのエジプト考古学博物館にあり、現在ここに置かれているのは、その複製であるという。
階段ピラミッドを見学するのなら、ピラミッドの北側まで行って、セルダブの穴からジェゼル王像のコピーを見たいと思っていたが、実際にはそんな余裕はなく、複合体の内部に入っても南周壁沿いに歩いただけで、階段ピラミッドに近づくことはできなかった。
もっとも、このように修復中だったため、時間があっても北側に回るのは無理だったかも知れない。
王は先の尖った古い形式のネメスとよばれる頭巾をかぶり、頭巾の下には、女性がつけるような重量感のある大型の鬘が見えている。等身大の像としては、エジプト最古のものであるという。
頭部は量感があるが、身体は薄っぺらい。
『世界美術大全集2エジプト美術』は、王はセド祭(王位更新祭)の時に着る白く長い衣装を身にまとっている。右腕を胸の前で曲げ、左手を膝の上に置く姿勢は、後の王像では採用されない古拙様式であるという。
セド祭についてはこちら

階段ピラミッドは、北側に葬祭殿が位置しており、第4王朝以降の諸王のピラミッドの葬祭殿がピラミッドの東面に設けられているのとは大きく異なっている。これは北の周極星が重要な役割を担っていたからである。そのため、王の座像も北天を凝視する姿で安置されていた。シルダーブの壁に穿たれた孔の直径が、座像の置かれた内側よりも外側の方が大きいことから、この孔の目的は、彫像が祠堂の内側から外側をのぞくためのものであるとされているという。
吉村氏は、第3王朝では、北極星を聖なる星として崇拝する、いわゆる星辰信仰が盛んであったとみられる。そのため、ピラミッドの出入口は、北極星をさす北側に設けられているという。 
鼻と、銅枠の内側に象嵌されていた両眼は著しく破壊されており、製作当時の表情を復原することは困難であるという。
カイロ博物館で見たが、頭部が破損しているので、じっくりと細部を見ようと思わない像だった。
もし、時間があってセルダブの穴から覗いていたら、このような破壊された顔が不気味だっただろうなあ。


※参考文献
「吉村作治の古代エジプト講義録上」(吉村作治 1996年 講談社+α文庫)
「世界美術大全集2 エジプト美術」(1994年 小学館) 
「原色世界の美術12 エジプト」(1970年 小学館)

「図説古代エジプト1」(仁田三夫 1998年 河出書房新社)