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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2016/12/23

高麗仏画展2 観音の浄瓶は青磁


泉屋博古館蔵水月観音像は、至治3年・忠粛王10年(1323年)に徐九方によって制作されたことが銘文によって確かな、貴重な仏画である。
数珠を持った右手の傍らに楊柳の枝が浄瓶に挿してあり、更に浄瓶はガラスの承盤に置かれている。
同展図録は、ガラスは白色をぼかすのみ。金の縁だけは裏彩色だけで明瞭にという。浄瓶全体が見えているので、白いガラス鉢ではなく、透明ガラスの鉢に浄瓶が入っていることを表しているのだろう。
その浄瓶は浮彫のある青磁のよう。

高麗青磁の浄瓶も同展で出品されていた。しかも、その作品を模写したのではないかとおもう程に、よく似ているのだった。

青磁陰刻蓮華唐草文浄瓶 12世紀 施釉陶器 高36.5胴径13.2底径8.8 根津美術館蔵
同展図録は、優美な器形、精緻に施された文様、青磁釉の青く澄んだ色合いによって高麗青磁の名品として知られる浄瓶。器表に陰刻された文様は青磁釉の色の濃淡となって浮かび上がり、清浄な水を思わせる。清々しい文様表現である。胴から突出した注口は蓋が付くが現在は失われているという。
同書は、頂部に面取りされた尖台を付け、細く伸びる頚から肩にかけて柔らかな曲線でつながる。
頚部は3段に区画して霊芝雲、鐔上面に蓮弁文、尖台は八面に面取りされて簡略な雲文が線刻されるという。
実際には楊柳をさせないと思うほどに細い首である。この尖台はなくても鶴首の浄瓶としてバランスは良いと思うのだが。
同書は、胴部は裾に向かってなだらかにすぼまる。
文様は胴部に陰刻で蓮華唐草文、注口部に菊花の折枝文、肩部から頚の付け根にかけて蔓唐草文と如意頭文、胴裾に雷文と蔓唐草文があらわされる。輪郭には片切り彫りが用いられて文様を強調するとともに、花弁や葉が立体的にあらわされ、蓮弁の筋など細部は細い線によって刻まれる。大きな面を占める胴部の蓮華唐草文は蔓が上下に枝分かれしながら横位に伸び、その先に葉や蓮華が付く。その姿は螺鈿のリズミカルな唐草文とは異なり、水面に映った姿のように幻想的である。葉の捲れや蔓との重なりが丁寧に描写されながら、画面を埋め尽くすように広がる。唐草文に蓮華や蓮葉、三叉の葉を組み込む文様は、高麗仏画では団花文として尊像の衣の文様に常見されるという。
片切り彫りは深く彫った部分に釉が濃く溜まって、濃淡が文様の表現に深みをつける。

14世紀前半に描かれた仏画に、12世紀に制作された青磁の浄瓶が描かれているのだろうか。高麗青磁を少し探してみると、

青磁陰刻蒲柳水禽文浄瓶 高麗時代、12世紀前半 高さ33.1㎝ 住友グループ寄贈 大阪市立美術館蔵
『東洋陶磁の展開図録』は、浄瓶はもとは仏前に清らかな水を捧げるための仏具であるが、『高麗図経』には、貴人から民衆までひろく貯水器として用いたとある。肩先には注入口があり、長い管状の口から水を注ぎ出すようになっているという。
細長い口から水を入れるのは大変だろうとは思っていたが、肩に出っ張った蓋付のものから水を入れて、尖台の先から水を出すというのは目から鱗だった。
胴の二面には、か細い毛彫りによって柳と水禽、水辺の葦があらわされている。その簡略さゆえに、釉色の美しさが際立っている。さらには、同じ頃につくられた青銅製の線象嵌浄瓶をも髣髴とさせ、12世紀も早い頃の作例とされようという。

青磁象嵌蒲柳水禽文浄瓶 12世紀中葉 高37.1底径8.9㎝ ソウル、澗松(カンソン)美術館蔵
『世界美術大全集東洋編10高句麗・百済・新羅・高麗』(以下『世界美術大全集東洋編10』)は、青磁象嵌技法という高麗青磁独自の装飾技法は、12世紀中葉から13世紀前半ごろまで大いに流行し、その後は衰退して印花技法に形を変えながらも14世紀末の高麗青磁終焉まで、装飾技法の首座を占めていた。
青磁象嵌というのは釉下の素地の表面に文様の部分を掘削し、できた凹部に赤土や白土を充填して文様を表すものであるという。
高麗青磁は、浮彫は前半、象嵌は後半という風に、ずっと昔誰かに聞いたことがあり、そう思い込んでいたが、同じような時期に作られていたのだ。『高麗仏画展』が長年の思い込みを訂正できる良い機会となった。
柳の下には葦、左には翼にコバルト釉を挿した水禽と波、その下には蓮の花や葉など、水辺の静かな光景が青磁の色に白土で表されている。柳の細い葉を彫る技術はみごと。

高麗仏画展から離れて青磁の浄瓶の話になってしまった。脱線したついでに、高麗青磁の名品を見てみると、


青磁陽刻蓮蜀葵文梅瓶 12世紀前半 高40.6胴径22.1㎝ フィラデルフィア美術館蔵
『世界美術大全集東洋編10』は、主文様は蓮と蜀葵を交互に3対配し、蓮の根元にはそれぞれ水禽をあしらっている。これらの主文様を上部では唐草風垂飾、下部では蓮弁文様で挟み込んでいるが、文様配置は全体にすきまのないほど埋め尽くし、緊張感に富んだものであるという。 横向きの水鳥以外はほぼ左右対称の文様だが、ところどころ茎を曲げたり、蓮華を少し右側を上下限にしたりと、緻密なデザインにも柔らかな雰囲気を残している。
すべて輪郭は片切彫りで、花や葉、水禽の細部に陰刻線を施し、精緻で壮麗な文様を展開しているという。


青磁陽刻鳳凰文梅瓶 12世紀初期 高28.5胴径18.8㎝ ワシントン、フリーア美術館蔵

同書は、高麗青磁に遺例の多い梅瓶の器形は、製作年代によって変化を見せる。第1段階は中国、北宋の定窯、磁州窯、影青(インチン)などの例に似て、肩から胴裾までのすぼまり方がほぼ直線的である。第2段階は、第1段階とほぼ同じであるが、胴裾でわずかに外反する気配を見せる。第3段階は、高麗陶磁梅瓶の典型的な器形が現れる時期で、その特徴は胴裾での外反が明らかになり、S字状湾曲が認められることである。第4段階は、S字状湾曲がますます顕著になり、つぎの朝鮮王朝時代の粉青沙器に引き継がれる。
このフリアの梅瓶は第2段階のもので、胴は重厚感に富むが、胴裾での外反の気配がわずかに見られる。通例に比べると、口作りの高さが高く、胴の形と相まってどっしりとした印象を与えている。
この梅瓶は、あまり類例のない文様とその配置をもつことによって知られている。すなわち主文様は胴の中央前後に置いた大きく羽ばたく鳳凰文である。翅や尾羽は鳳凰といってよいが、頭部はむしろ中国、越州青磁の鸚鵡文の残影で、高麗独特のデフォルメの一つといえようという。
鶴に見えたが尾が違う。
独立した主文様をもつ場合、肩や胴裾に霊芝雲文、雷文などの付属的な装飾文様があるのが通例であるが、この梅瓶では口の付け根からいきなり牡丹唐草文が始まり、それが胴裾まで覆い尽くしている。異色といってもよい。貫入もほとんどなく、釉色は透明感のある美しい灰青色に焼き上がっているという。
牡丹と蓮という違いはあるが、根津美術館本とは唐草文様の葉もよく似ている。


 


  高麗仏画展1 高麗仏画の白いヴェール←   →高麗仏画展3 浄瓶の形
 
関連項目
高麗仏画展6 仏画の裏彩色
高麗仏画展5 着衣の文様さまざま
高麗仏画展4 13世紀の仏画

※参考文献
「高麗仏画 香りたつ装飾美展図録」 編集 泉屋博古館 実方葉子、 根津美術館 白原由紀子 2016年 泉屋博古館・根津美術館
「大阪市立東洋陶磁美術館 館蔵品選集 東洋陶磁の展開図録」 1999年 大阪市立東洋陶磁美術館
「世界美術大全集東洋編10 高句麗・百済・新羅・高麗」 1998年 小学館