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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2013/11/22

第65回正倉院展6 続疎らな魚々子



正倉院には精緻な魚々子を施した器が伝わっており、珠に正倉院展に出陳される。

銀壺(銀の壺) 正倉院南倉 口径42.2胴径61.9壺高43.0(台は別) 第62回(2010年)
『第62回正倉院展目録』は、表面には鏨で文様を線彫りし、文様と文様の間には細かな魚々子を打っている。文様は、12人の騎馬人物が羊や鹿、カモシカ、猪、兎などを追って山野を駆けめぐる狩猟図で、器面全体にそれが雄大な広がりをみせる。口縁と底部付近には葡萄唐草の文様帯を廻らせて、狩猟図の天地を引き締めている。受け台にも野原を疾駆する騎馬人物や獅子、虎、飛鳥や蝶、さらには有翼馬の姿も表されているという。 
これだけ拡大してもわからない程に小さな魚々子が、びっしりと横に並んでいる。

金銀山水八卦背八角鏡 きんぎんさんすいはっけはいのはっかくきょう 長径40.7短径38.56重7483 南倉
『第58回正倉院展目録』は、文様および銘文は細かい蹴彫で表し、鈕の周囲を除く文様部分に鍍金を施した後、間地を魚々子で埋めている。中国・唐時代の銀貼鏡は、通常文様を打ち出すが、本品は線刻に留める点に特色があるという。
円形のため、厳密には同心円状ということになるだろうが、横に密に魚々子が打たれている。

その点、金銅六曲花形坏は細工そのものがまだ未熟で、魚々子もまばらだった。


金銅六曲花形坏 こんどうのろっきょくはながたはい 口径8.3高4.1重67.9 南倉
『第65回正倉院展目録』は、銅板を鍛造して6弁の花形をかたどり、鍍金を施した小さな鋺。底には鑞付でやや低い高台を接合する。各花弁は外縁に稜を設け、外縁から底にかけて花弁の中央を通るように稜線を打ち出して6曲面を作る。各花弁の間には猪目を透かして花弁の形を明確にする。外面と底裏には草花や天人を毛彫りし、間地をややまばらな魚々子で埋めているという。
拡大図を見ると、魚々子の円に深いところと浅い箇所があったり、円が切れているものもあり、奈良時代の日本では、まだ魚々子を打つ技術が習熟できていなかったことがわかる。

投壺 とうこ 高31.0胴径21.7 中倉
同書は、壺に矢を投げ入れる投壺と呼ばれる遊戯に用いられた、銅製、鍍金の壺。張り出しの大きな下ぶくれの胴部に円筒形の頸を載せ、頸には中が貫通した円筒形の耳を両側に付けている。胴・頸及び高台は一材で、鋳造後に轆轤で成形し、頸に孔を開け別に鋳造した両耳を通し、かしめ留めしている。外面は全面に線刻による文様が施され、地文は魚々子を打ち並べている。頸は素文帯で上中下の3区に分け、上区は瑞雲を伴い走る2頭の獅子、中区は山間の樹下にいる高士、下区は唐草文を表す。胴部は中央に頸の下区と同様の唐草文帯をめぐらし上下2区に分け、上下区とも花卉・飛鳥・花喰鳥・蝶・瑞雲を表している。両耳も同様の意匠である。高台は山岳を表している。線刻技法は毛彫であり、魚々子の打ち方は疎密があり、正円ではなくC字状に打たれている箇所も多く見られる。このような特徴は奈良時代の作と考えられる金銅灌仏盤(奈良・東大寺蔵)、金銅獅子唐草文鉢(岐阜・護国之寺所蔵)にも共通するという。
照明を落とした館内で黒っぽい壺を見ても、このような文様は全くわからなかった。
結局は目録で確かめることになる。
会場では、胴部の唐草文がかすかに判別できた。
魚々子もまばら。唐草の茎も太いところや細い箇所などがあるが、パターン化していない勢いも感じられる。

斑犀把金銀鞘刀子 はんさいのつかきんぎんさやのとうす 全長17.5把長7.6鞘長12.8身長7.1茎長3.8 中倉
同書は、刀子は小型の刀で、紙を切ったり、木簡などの表面を削ったり、文字を摺り消したりするのに使用された。文房具として実用に供されたほか、貴顕の間では象牙や犀角、沈香などの珍材を用いて鞘や把を華麗に装飾し、腰帯から組紐で下げて装身具とすることも行われた。宝庫には、中倉を中心に67口の刀子が伝存しており、その多くは天平勝宝4年(752)の大仏開眼会などの折に、貴顕により東大寺に献納された品と見られる。
本品は、宝庫に11組伝わる2口一対の刀子のひとつ。把には飴色を呈した斑の犀角を使用し、把縁に銀製鍍金の金具を取り付ける。木胎に銀製鍍金の薄板を巻いた鞘には、唐草文様を毛彫し、間地に細かな魚々子を施す。鞘尻と帯執にも銀製鍍金の金具を取り付ける。犀角の微妙な色の濃淡の変化が美しく、鞘を飾る精巧な毛彫にはすぐれた彫金技術が見て取れるという。
ここにも円形になっていない(C字形というらしい)魚々子が見られる。

昨年の第64回正倉院展では密でない魚々子が目に付いたが、今年も幾つかの作品で同じような魚々子地を見付けた。
第64回の記事はこちら
しかし、唐の完璧な魚々子地よりも、このような疎らな方が味わいがあって見飽きない。

第65回正倉院展5 六曲花形坏の角に天人 ←   →第65回正倉院展7 花角の鹿

関連項目
第62回正倉院展4 大きな銀壺にパルティアンショット
第五十八回正倉院展の鏡の魚々子はすごい
第65回正倉院展4 華麗な暈繝
第65回正倉院展3 今年は花喰鳥や含綬鳥が多く華やか
第65回正倉院展2 漆金薄絵盤(香印座)に迦陵頻伽
第65回正倉院展1 樹木の下に対獣文

※参考文献
「第62回正倉院展目録」 奈良国立博物館監修 2010年 財団法人仏教美術協会
「第58回正倉院展目録」 奈良国立博物館編集 2006年 奈良国立博物館
「第65回正倉院展目録」 奈良国立博物館編 2013年 仏教美術協会