ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2015/08/21
一重に渦巻く蔓草文の起源はソグド?
サマルカンドのシャーヒ・ズィンダ廟群で、アラビア文字の銘文の地文に一重に渦巻く蔓草文が使われていることに興味をもった。
トマン・アガ廟 1405-06年 モザイク・タイル 外壁北側
中心へと渦巻く蔓と、そこから出る葉の方向が一致している。
花は茎に直接ついている。
前回はそれをイスラーム美術で遡っていって、エルサレムの岩のドームに辿り着いたのだが、実際に蔓草文が一重に渦巻いていたのは、イル・ハーン朝期のものだった。
ラスター彩唐草文字文フリーズタイル断片 イルハーン朝、13世紀中葉-1275年頃 イラン出土 29.8X31.5X2.8㎝ 個人蔵
『砂漠にもえたつ色彩展図録』は、この時代のフリーズタイルには、ラスター彩やラージュヴァルディーナで、地文に植物文や鳥、小動物を描き、浮彫で銘文を表したものが多い。
断片だが、後補や補彩がなく、当初の色彩やラスターの光沢を保っている。ペルシア語銘文は解読困難という。
細い一重の蔓草は、ところどころに葉を出し、蔓が分かれながら、渦の中心へと伸びている。面白いことに、その中に鳥や獣が登場している。
うっかりしていたが、それ以前に一重に渦巻く蔓草文はあったのだった。
しかも、地文として使われているのだが、主文はアラビア文字の銘文ではなく、なんと猟犬だった。
壁画断片 カラハーン朝(10-12世紀) 宮殿出土 サマルカンド歴史博物館蔵
疎らに小さな葉を付けた蔓草文は、蔓が細く優美。
それを背景に、左向きに犬が駆けている。赤い方は尾が長く、後ろの方は耳が垂れている。どちらも首輪を付けた猟犬のよう。
壁画断片 カラハーン朝(11-12世紀) 宮殿出土
ここでは細い蔓草文を背景に、白い犬が駆けている。首の辺りの毛が長いので、首輪は見えない。
連珠文の上の青いものはくアラビア文字、そして上端にちらっと顔を出しているのは、どうやら蔓草らしい。この時代、すでに一重に渦巻く蔓草文はアラビア文字の銘文の地文だったのかな。
それでも下の犬の地文に描かれた蔓草文の方が、葉がしっかりと描かれているのは、カラハーン朝以前にこのような文様があった可能性を示しているのでは。
アフラシアブの丘で発掘されたイッシュヒッド宮殿(7世紀中葉-後半)謁見の間のは四壁に壁画が表されている。それぞれ、場面の下に連珠文、その下に力強い唐草文の文様帯がある。その茎は何本かがぐるぐると渦巻いているように見える。
そして、上の場面では、右の人物の足元に、犬のようなものが描かれているように見える。
ひょっとすると、カラハーン朝の蔓草文と犬の組み合わせは、ソグドに遡るかも。
そして、一重に渦巻く蔓草文を地文にすることが、中央アジアに広く伝播していったのかも。
アラビア文字の銘文には渦巻く蔓草文がつきもの←
→イーワーンの上では2本の蔓が渦巻く
関連項目
渦巻く蔓草文はキリスト教美術にもイスラーム美術にも
アフラシアブの丘 サマルカンド歴史博物館3