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忘れへんうちに 旅編に、中央アジア各地の旅に続いて、イランの旅を記載し始めました。
その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2012/04/10

アニ遺跡 キャラバンサライの妙なドーム

キャラバンサライ天井部 1031年、セルジューク朝 
キャラバンサライについてはこちら
ブハラでムカルナスが誕生して約1世紀、こんな複雑な、それもスキンチという正方形の四隅ではなく、正方形から全面がムカルナスとなって上方へと向かっている。
ただし、複雑そうに見えるが、ムカルナスというのは凹曲面をいうので、縦に高さのあるものと、横に前面に出ているもの1組で1段のムカルナスとなるため、この天井は3段のムカルナスということになる。
それにしても一つ一つの部品が複雑な形をしている。
外から見るとムカルナスの形はわからない。薄く割った石を外から貼り付けたらしい。
似たようなドームを見付けたが、かなり後の時代のものだった。

マドラサ・ヌーリーヤ・クブラのドーム セルジューク朝、1172年以降 シリア、ダマスクス
ドームの最下段はロンデル窓を3つずつ四方にあけている。
こちらは花弁状のムカルナスを、窓の上から数えただけでも8段重ねている。4段目で八角形とし、5段目には四辺中央に一つずつ窓がある。
その上にはアーチネットのようなものと花形のようなドームが見える。窓は一つあるらしい。
このようなものをキャラバンサライのドームも目指していたとすると、ドームの頂部が失われていることになる。
その外観は、ムカルナス自体が見えて被覆材がない。ドームとアーチネットの下にムカルナスが4段しか見えないのは、壁体に隠れているからだ。右中央の一つは開いていないが12の窓の高さで下の建物の大きさとなっている。
このようなドームなら他にもあった。

イマーム・ドゥール廟 イラク、サーマッラー セルジューク朝、1085年 
『イスラーム建築のみかた』は、中央アジアとイラクでは12世紀末以来、墓建築を多角形平面とすることは少なく、正方形平面のまま屋根の形で垂直性を強調された。イラクではムカルナスの裏側の形をそのまま屋根に現すシュガー・ローフ屋根が好まれたという。 
マドラサ・ヌーリーヤ・クブラよりも100年近く早く建造されたこのドームも、内部はもっと下の方からムカルナスのドームが始まっていたのだろう。
ところがそうではなかった。内部はマドラサ・ヌーリーヤ・クブラのドームとも、アニのキャラバンサライのドームとも似ていない、漆喰を塗り上げたのではないかと思うような造りだった。
『イスラーム建築のみかた』は、ムカルナス・ドームとしては最も古い11世紀終盤のイマーム・ドゥール廟のムカルナス。ここでは、一つ一つの層の高さは等しくないけれど、天井全体を覆うドームという点では最も古い実例である。このムカルナスは、外側にはあたかもプリン型のようにその外形を現している。これがいわゆるシュガー・ローフと呼ばれる形状であるという。
このドームが何で造られたのか記されていないが、正方形の四隅にスキンチアーチを造って八角形とし、その上を十六とせずに、大小3つの部品で構成した大きなムカルナス8つで円形にして、その上に8つのムカルナスを何段か積み上げているようだ。
なお、この実例以前のムカルナスは、天井全体を覆い尽くすことはなかった。1085年のこの廟の後、12世紀前半になると、イランやシリア、マグレブ地方でも天井面全域を小曲面で覆い尽くす例が現れるという。
1031年建造のアニのキャラバンサライは、すでに天井全体をムカルナスで覆っているように思う。

※参考文献
「世界美術大全集東洋編17 イスラーム」1999年 小学館
「イスラーム建築のみかた 聖なる意匠の歴史」深見奈緒子 2003年 東京堂出版