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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2009/04/14

サルマタイと謎の碧の民

 
黒海の東側のクラスノダル地方やロストフ州で、粒金や貴石象嵌の装身具が出土している。

首飾り 3世紀末-4世紀初 長33㎝ クラスノダル地方、ヴォロネジスカヤ村出土 クラスノダル博物館蔵
貴石の象嵌はないし、粒金も一風変わった付き方をしている。もっとたくさん粒金が鑞付けされていたのにとれてしまったのか、元々このような付け方だったのかわからない。
しかし、3個の金の粒で形成する文様というのは他にもみかけるので、その流れにあるものだろう。  垂飾 2-3世紀中葉 長3.6㎝ ロストフ州、ノヴォ・アレクサンドロフスカⅠ墓地20号墳1号墓出土 アゾフ博物館蔵
硬玉髄とサンゴが象嵌されているらしい。濁って見える方がサンゴだろうか。大小あるものの、形を整えようとしていることがわかる。細粒金が周囲をめぐっていて、垂飾の輪郭に沿って鎖状のものが巡っている。 指輪 1世紀後半-2世紀前半 直径1.86㎝ ロストフ市コビャコフスク墓地10号墳出土 ロストフ博物館蔵
『ロシアの秘宝展図録』は、サルマート製、透かし文様の指輪は金線を交差する装飾細工がなされる。指輪中央には緑色と紫色の練りガラスを上下に配し、それを囲む形で金粒で装飾を施しているという。
ここでも金の粒は、象嵌したものを巡るだけでなく、1個・3個という少ない数で各所にちばめられている。サルマートはサルマタイとも呼ばれ、当時黒海から南シベリアにかけて居住した騎馬遊牧民で、今回採り上げた作品は全てその地域から出土したものであるが、2本の金線を捩らせた細工は斬新だ。
また、ガラスの象嵌という点で、内蒙古自治区出土の鹿角馬頭形歩揺飾(3-5世紀)に通じるものがある。 フィブラ 1世紀 長3.2㎝ クラスノダル地方ミハイロフスカヤ古墳群2号墳14号墓出土 クラスノダル博物館蔵
1個の金の粒がまばらに配置され、4(2X2)個・9(3X3)個・16(4X4)個・25(5X5)個の金の粒でそれぞれに菱形をつくっている。金線の内側・外側を金の粒が巡り、頂点には10個の金粒で三角形ができている。
紅玉髄をはめ込んだ周囲の金の縁も曲線になって装飾的だ。 このように見てくると、このサルマタイの地で作られたものは、フン族のもののように金粒をたくさんちりばめるのではなく、少ない数で、しかも洗練されている。当時の粒金細工制作の中心地だったのかも。
しかし、まったく違うものを見つけた。

帯飾金具 1世紀後半 3.0X3.2㎝ ロストフ州ダーチ墓地1号墳1号隠し穴出土 アゾフ博物館蔵 
ダーチ墓地1号墳1号隠し穴からは様々な財宝が出土しているが、その中に慶州、皇南大塚北墳出土の腕輪につながるのではないかと思われる金製品があった。
こちらの方が古いせいか、技術が未熟なようだが、貴石の形や大きさを整えようとする傾向が見られる。縦長の菱形はトルコ石、それ以外はガラスらしい。  しかし、この碧い象嵌はサルマタイの地では他にはロストフ市コビャコフスク墓地10号墳出土の指輪がある。
この色のものは、黒海東部で作られたのではなく、慶州同様に、他の地で作られて将来されたもののような気がする。
皇南大塚北墳出土の腕輪や内蒙古ダルハンムミンガン出土の鹿角馬頭形歩揺飾は、同じ部族が、時代を経て技術が円熟した時期のものだろう。
これらを作った騎馬遊牧民をとりあえず、「謎の碧の民」としておこう。

※参考文献
「南ロシア騎馬民族の遺宝展図録」(1991年 朝日新聞社)
「ロシアの秘宝 ユーラシアの輝き展図録」(1993年 京都文化博物館・京都新聞社)