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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2007/11/09

法隆寺献納金銅仏155号は



法隆寺献納金銅仏155号の菩薩半跏像は『法隆寺献納金銅仏展図録』に、飛鳥時代の小金銅仏中抜群の出来栄えと評価されている。
細かく鏨で穿たれた宝冠と頸飾りの文様、組紐を表したと思われるこめかみ飾りや腰紐。肩にかかる蕨手(わらびて)にも刻線で何かがあらわされ、留め金か玉のようなものがある。  同書に止利様式の菩薩像に共通する特色を示しと書かれているように、このような蕨手は、止利仏師の代表作とされている法隆寺金堂の釈迦三尊像の脇侍の肩にも見られる。蕨手だけでなく、155号はこの脇侍菩薩によく似ている。
そして、法隆寺献納金銅仏の他の菩薩半跏像が上半身に衣服を着けていないのに、この像だけが服を着ているのは、救世観音として造られたからなのか。
脇侍菩薩もまた上半身に衣服を着けている。155号が頸飾の下の衣の線が少し違っているのは、脇侍菩薩よりも後に造られためだろうか。 法隆寺には、もう1体、155号によく似た菩薩立像がある。

『国宝法隆寺展図録』は、大ぶりの三山冠をかぶり古拙の微笑を浮かべる本像は、止利仏師作の金堂釈迦三尊像の両脇侍とよく似た形を示すという。
この像も上半身に衣服を着けていて、こちらの方が金堂の脇侍の胸元に近い。そして、欠損しているが、この像の蕨手も、肩の部分が宝珠のようになっている。金堂の脇侍菩薩及びもう1体の菩薩立像も上半身に衣服を身につけているのだが、155号の菩薩半跏像がこれら2体と大きく異なっているのは、袖である。二の腕あたりが細くて、袖口が広くなった衣をまとっていて、それが柔らかい感じがする。
そのような衣を着けた像をどこかで見たはず・・・ そうだ、麻耶夫人像だ。『法隆寺献納金銅仏図録』の中に含まれる「麻耶夫人及侍者像」という群像の中の1体だ。

この麻耶夫人の動きを、広袖の衣を左衽(おくみ)にまとって裳をつけ、腰を右に捻り、右手を無憂樹の枝に触れようとする姿勢で、袖口から合掌する釈迦牟尼が上半身をあらわしている。
面長の頭部で表情はやや厳しく、衣文も単純化された曲線であらわされているが、一種独特のねばりと鋭さがあり、止利様式の作品と共通するところがあるという。
155号の方が二の腕部分の袖は細いが、袖口だけ極端に広がっている点では共通している。 このように、155号の菩薩半跏像は、止利様式の作品のなかでは、菩薩立像のように厳格な構成ではないが、細かいところまできっちりと表現されたね独特の思い入れのある像だと思う。

※参考文献
「法隆寺献納金銅仏展図録」 1981年 奈良国立博物館
「国宝法隆寺展図録」 1994年 NHK