ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2007/04/06
メドゥーサの首
メドゥーサは、自分を見た者を石にしてしまうゴルゴン3姉妹の1人で、怪物としてギリシア神話に登場する。だからそれを退治したペルセウスは英雄である。しかし、メドゥーサは、その後も悪者として扱われたわけではない
4 プロト・アッティカ式アンフォラ 前660年頃 ポリュフェモスの画家 エレウシス出土 ギリシア、エレウシス考古博物館蔵
このアンフォラ(壺)は子供の遺体を納めたまま発見され、最初から甕棺として作られたと考えられている。石に変えてしまう程の力が、辟邪として好まれたのだろうか。
ただし、この2体はメドゥーサではなく、その2姉妹らしい。メドゥーサだけでなく、このゴルゴン3姉妹は髪が蛇だが、どうみても蛇に見えない。顔も壺のようでもあり、恐ろしさとはかけ離れた表現となっている。続いてメドゥーサは神殿破風の中央に進出する。破風と言えば神殿正面上部の三角形の壁面で、外からは一番目立つものである。
5 アルテミス神殿破風のメドゥーサ 前580年頃 コルフ(ケルキラ)島出土 ギリシア、ケルキラ考古博物館蔵
メドゥーサは疾駆するかのように力強く表されている。体は横向きなのに丸い顔は正面を向いている。髪に限らずあちこちに蛇が表されている。
これは明らかに、アルテミス女神を祀る神殿内部に、魔物や悪意のあるものが入り込まないための魔除けである。壺絵と異なり、非常に迫力が感じられる。6 コリントス黒像式ヒュドリア 前570-550年頃 ダモスの画家 チェルヴェテリ出土 パリ、ルーヴル美術館蔵
ヒュドリア(壺の一種)はトロイ戦争で没っしたアキレウスの通夜哀悼図「アキレウスの死を嘆き悲しむネレイスたち」である。
アキレウスの横たわる寝台の下に、彼の兜と盾が置かれている。
その盾全面に描かれているのがメドゥーサの首のみで、もはや疾走する力強い体は表されなくなる。四角い盾にさえ、中央にメドゥーサの首だけが描かれるようになるのである。
この「メドゥーサの首」はその後ローマ時代になっても護符として好まれたようだ。フェニキアの人頭玉・人面玉のアレクサンドロスの胸(ポンペイ、ファウヌスの家の舗床モザイク、前180から170年)にも付いていた。7 セリヌンテC神殿メトープ 前530から510年頃 セリヌンテ出土 イタリア、パレルモ美術館蔵
メトープ(装飾板)には何故、魔除けとしてではなく、怪物のメドゥーサが首を切られる場面が表されているのだろうか?
それは、神殿の柱の上部には神話の英雄を讃える図(浮彫)をかかげるというのがギリシアの伝統なので、魔除けではなく、ペルセウスの英雄物語ということである。メドゥーサは怪物として登場するので、出現の仕方が異なるかもしれないが、時代が下がると本来の意味が失われ、建物や墓室を守る辟邪として瓦当や鋪首に表されるようになっていった(饕餮文は瓦当や鋪首に)饕餮文とも共通しているように思う。
※ 参考文献
「世界美術大全集3 エーゲ海とギリシア・アルカイック」 1997年 小学館