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忘れへんうちに 旅編では、イスタンブールで訪れたところを長々と記事にしています。その中で興味のある事柄については、詳しくこちらに記事にします。

2018/02/09

イラン国立博物館 印章


円筒印章はコインと同様に小さいので、限られた時間でじっくり鑑賞することが困難だが、そこに刻まれている文様や場面は興味深い。
『オリエントの印章』は、円筒印章は粘土板やその封筒、あるいは壺、容器、扉等を封印する大型の粘土塊を広く印で覆うのに適しているという。

円筒印章 前3千年紀 石製 スーサ出土
7は複数の人物が登場する何かの場面、10は長い角のある動物を大きく表したもの

スタンプ印章・円筒印章 前3千年紀(9は中期、2・8は後半) 石製、8のみ石膏 スーサ出土
2は椅子に座る神に礼拝する3人、8はジグザグ文様だけで構成されている。⑨は立ち上がった動物が背中合わせとなり、それぞれ人と闘っている。

スタンプ印章 前3千年紀 石製 スーサ出土
1はライオン頭部形の印章で、その印影もライオン頭部
2-4も動物を表しているらしいが、3の蛇以外はわからない。4は羊の群かも

円筒印章 前2千年紀 石製(5はビチューメン=瀝青) スーサ出土
人物や神の場面、総てではないかも知れないが楔形文字の文もある
1・3・6には椅子に座る神が登場する。

円筒印章 前2千年紀 ファイアンス製(5はヘマタイト=赤鉄鉱) 1はスーサ出土、2-4はチョガ・ザンビール出土、5はルリスターン出土
④を除いて人物の登場する図と文で構成されている。
『ペルシャ文明展図録』に記載されているものを古い順に見ていくと、

円筒印章:舟の上の神 前2200-2000年 ハマダーン州出土 黒石 高3.1径1.8㎝
『ペルシャ文明展図録』は、両先端が反り返った葦舟に乗り、左に縦襞の長衣を身につけた人物(神)が天を仰ぐように座る。船上の右にはもう一人の小柄な人物がおり、先端の丸い櫂で舟を漕いでいるという。
円筒形の石だけ見ると、とても印影のようなものが表されているようには思えない。 

円筒印章:謁見の場面(集合写真⑤) 前1800-1600年 高2.2径1.5㎝ 赤鉄鉱 ルリスタン州出土
『ペルシャ文明展図録』は、楔形文字で所有者が刻まれ、「ワラド・ネルガル。ワラド・イリーの息子、ナラーム・スィーンのしもべ」とある。右に縦ひだの長衣を着て角飾りのついた冠をかぶった女神が、うやうやしく両手をあげている。左で礼拝を受けているのは、膝までの服を身に着け、肘を曲げて棍棒をもつ独特のポーズの男性、低位の神の礼拝を受け、権威の象徴である棍棒を持つ人物は王と思われる。この2人の向き合う図は古バビロニア時代のメソポタミアでは典型的なモチーフ。あらかじめ図柄を彫っておき、注文により銘文を刻むのである。メソポタミアで作られた印章であろうという。
銘文が短いので印影に隙間ができている。
ナラム・シーンはアッカド王朝時代の王(在位前2254-18年頃)で、その戦勝記念碑はエラムの王(在位1185-55年頃)によって略奪され、スーサに運ばれている。ということは、この円筒印章は、アッカド王朝滅亡後にメソポタミアで造られたものということになるのかな。

円筒印章:宴会の場面(集合写真①) 前1300年頃 ファイアンス 高4.4径1.3㎝ フーゼスターン州スーサ出土
『ペルシャ文明展図録』は、銘文の内容は「生は神のもとに、救いは王のもとに(ある)。私の神よ、私は貴方を求める」。椅子に座る人物は何かを飲食しており、その前に立つ人物は手をかかげて礼拝のボーズを示している。上には菱形モティーフとうずくまる草食獣が表されるという。
この円筒印章の持ち主が立っている人物で、崇拝している神に供え物をしたい気持ちを表しているのだろう。

円筒印章:宴会の場面 前1300年頃 高4.9径1.6㎝ ファイアンス チョガー・ザンビール出土
『ペルシャ文明展図録』は、前作品とほとんど同じ内容の楔形文字の銘文がある。椅子に座る人物は右手の小壺から酒を飲んでいる。人物の前の脚付きの卓には魚が載せられ、その上には星がある。上段には角のある動物2頭が表されているという。
こちらでは持ち主は描かれていない。 

円筒印章:宴会の場面(集合写真③) 前1300年頃 高5.3径1.5㎝ ファイアンス チョガー・ザンビール出土
『ペルシャ文明展図録』は、「(この)印章を携える者を(自由に)宮殿に出入りさせるように」と記されている。立った人物は右手に酒壺を持っている。人物の前の脚付きの卓には魚が載せられている。蝿のようなモチーフも見られる。円筒の両端にくびれが作り出された珍しい形で、何かが巻き付けられていたのかもしれないという。
王あるいは雇い主、神官などから与えられた円筒印章だろう。

円筒印章:水神(集合写真④) 前1100-800年 高4.1径1.5㎝ ファイアンス チョガー・ザンビール出土
『ペルシャ文明展図録』は、角飾りのついた冠をかぶった人物(神)が2人、立て膝をついて座っている。頭上にはそれぞれ蝿、太陽がある。2人の人物の間には上下2つずつの壺があり、2人の人物及びその他の方向に水が流れ出している。壺から流れ出る水はメソポタミアの水神に関わるモチーフという。
どのような人物が所持していたのかわかりにくいモティーフだ。水神を祀る神殿の神官かな。

円筒印章:動物文 前1100-800年 高5.2径1.9㎝ 練りラピスラズリ 西アーザルバーイジャーン州ハサンルー出土
『ペルシャ文明展図録』は、古代オリエントで強い動物とされる牛とライオンが向き合って人間のように立ち上がっている。両者の間にサソリ、蛇、太陽、月、三日月、鳥がある。楔を組み合わせた星、交差する蛇、意味不明のモチーフなど、きわめてユニークな図柄も見られる。上下端部に斜線装飾帯が入るという。
こんなに楽しい場面を円筒印章にするとは、一体どんな人物だったのだろう。

円筒印章:祭祀の場面 前700年頃 高4.2径1.9㎝ 瑪瑙・青銅 ギーラーン州アマルルー出土
『ペルシャ文明展図録』は、聖樹を中心にイナンナ女神と王侯が向き合い、アッシュル神のいる有翼円盤から延びる光を握っている。王侯の後ろには学問の神ナブーが蛇形ドラゴンに乗っている。背後にナブー神のシンボルである楔と上に7つ星(星座スバル)と三日月がある。この作品はメソポタミアからイランに持ち込まれた新アッシリア時代の印章の優品で、上部に青銅の金具がついており、垂直に吊していたことがわかるという。

円筒印章:動物を捕らえる王侯 アケメネス朝(前550-330年) 緑泥岩? 高3.0径1.4㎝ ファールス州出土
『ペルシャ文明展図録』は、翼のある山羊を両手で取り押さえるアケメネス朝ペルシャの王侯。このような架空の動物を、王侯が退治する場面がしばしば描かれた。瑪瑙や玉髄製の印章もある中で、あまり高価でない石材を使用しているのは、アケメネス朝本流の作品ではないからかもしれないという。

円筒印章:ライオンと闘う王侯 アケメネス朝 緑泥岩? 高2.7径1.3㎝ ファールス州パサルガダエ出土
『ペルシャ文明展図録』は、王侯が倒立したライオンと戦っている。上には三日月、その隣上方には、4枚の翼のあるアケメネス朝の祖先神あるいはゾロアスター教の善神アフラ・マズダー神が描かれている。その下には8本スポークの車輪がある。大英博物館蔵の戦車に乗ってライオンを狩るダレイオス1世の円筒印章が知られているが、本作品と何らかの関係があるのかもしれない。印章の質と間遠な配置から地方作と思われるという。

円筒印章:動物を捕らえる王侯 アケメネス朝 玉髄・金 高3.3径1.3㎝ 伝ギーラーン州ルードバール出土
『ペルシャ文明展図録』は、この印章には特に翼が長い有翼円盤がある。その下では、倒立したライオンの後ろ足を、王侯が捕らえている。脇には(同じ?)王侯が右手に短剣を持ち、有翼人頭山羊の角を捉えている。この作品には細粒金細工による三角文で飾られた金のキャップが上下端に付く。紐を通す環がキャップ側面に付き、首飾りのように身に付けていたことがわかる。印章というよりも装身具の一部であったかもしれないという。
この粒金細工はいつの時代にか失われた技術だと思っていたが、タブリーズのバザールで作っている人を見かけた。

これらの印章を見る限り、有翼円盤がペルシアで登場するのは前700年の作品で、アッシュル神のいる有翼円盤と解説されている。その後アケメネス朝になると翼の長い有翼円盤が表されるが、『ペルシャ文明展図録』は、アケメネス朝の初期にはアフラ・マズダーの像は描かれなかったとするする考えもあり、先祖霊フラワフルである可能性も指摘されているという。
ペルセポリスなどで見た有翼円盤はアフラ・マズダー神だと思い込んでいた。

イラン国立博物館 クロライト製品← →イラン国立博物館 チョガー・ミシュという遺跡

関連項目
円筒印章に取り付けられているもの
円筒印章の転がし方
イラン国立博物館 彩釉レンガの変遷
イラン国立博物館 サーサーン朝のストゥッコ装飾

参考文献
「ペルシャ文明 煌めく7000年の至宝 図録」 2006年 朝日新聞社・東映
「大英博物館双書 古代を解き明かす4 オリエントの印章」 ドミニク・コロン 1998年 學藝書林