ホシガラスが埋めて食べ忘れた種のように、バラバラに芽を出した記事が、枝分かれして他の記事と関連づけられることが多くなった。 これから先も枝葉を出して、それを別の種から出た茎と交叉させ、複雑な唐草に育てて行きたい。
2010/12/03
第62回正倉院展3 あの五絃琵琶の細部
今年は平城遷都1300年ということであの五絃琵琶が出陳された。
会場では五絃琵琶の展示ケースの周りを順番待ちの列が何重も巻いていて、10分は待った。夫によると20分という。やっと正面に近づいたと思ったら、係員の「立ち止まらないで下さい」という声。素直に従って立ち止まらずに見たのだが、後で目録を開いて、細部が何も見えていなかったことがわかった。
螺鈿紫檀五絃琵琶 正倉院北倉 螺鈿紫檀五絃琵琶 全長108.7幅30.3厚9.0
捍撥にはフタコブラクダに載った人物が後ろ向きで琵琶を弾いている。この構図も面白いが、五絃琵琶に表された図柄が四弦琵琶を弾く人物というのが面白い。その図はこちら
腹板の花文と槽の唐花文に用いられた玳瑁(たいまい)には、あらかじめ地に彩色を施してから玳瑁を被せる伏彩色(ふせざいしき)を見ることができるという。
中央の四弁花文や周りの花弁には細い線で輪郭や花脈が表されている。これが金なら解説にあるはずなので、黄色っぽい顔料を使っているのだろう。
唐の時代に、これだけ贅を尽くして作ったものでも、截金や金泥は使われなかったようだ。
槽の全面に飾られた唐花文がとりわけ印象的であるが、この文様は一つの花の周りを左右に分かれた蔓がめぐり、蔓に花と葉が付くという華麗な構成に特徴がある。これときわめて近似する唐花文が、唐の玄宗皇帝が天宝4載(745)に造立した石台孝経(中国、西安碑林博物館所蔵)の台座部分に見ることができる点は興味深い。本品の製作地を考える上で注目に値する必要があろうという。
背面に回ると唐花文が一面に広がっていた。重そうな花や葉が左右になびく表現もさることながら、蔓の柔らかい描写がみごと。こんな細く玳瑁を切ることができた技術はすごい。
『日曜美術館』で正倉院展の回に、螺鈿紫檀五絃琵琶を復元した人が、蔓が分かれるところの曲線を糸鋸で引くことができず、針金に刻みを打って使ったというようなことを言っていた。
きっと盛唐期に長安の一流の工人が製作したものだろう。
そして、図録を見なければわからなかったものは、捍撥部の菱形だ。
会場では、五絃琵琶の置かれたケースの外を回っている間に、拡大鏡であちこち見ていた。それで、やっと菱形を4つの小さな菱形で構成しているのは見えたが、菱形と思っていたものが、実際には菱形っぽい四弁花文になっていたのだ。
※参考文献
「第62回正倉院展目録」(奈良国立博物館監修 2010年 財団法人仏教美術協会)